141 脱出神父12人とその家族 死の淵から生還した一日を平穏な夕食で終える
脱出神父12人とその家族にこれからの予定についてアカが説明する。
「ではみなさん、これからの予定をお話します」
「まず今日はこれからここで夕食になります。それから宿舎に行きご家族でゆっくりしてください」
「明日ですが、朝はゆっくりでいいです。頃合いを見計らって、エスポーサが宿舎までお迎えに行きます。エスポーサは、今来ました。後ろにいます。エスポーサについて一日スパエチゼンヤの見学と、王都の見学をお願いします。夕方には先に着いた30人の神父とその家族、ハビエル殿と会食になります」
「次の日は、一日ここの広場で基礎体力養成です。エスポーサとゴードンさん、ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃんが担当です」
「その次の日から野宿を挟んで二日間で神国まで行きます」
「神国で数日かけて様々な訓練をしていただきます。皆さんが生きてゆくための訓練です。この訓練が終わると今回の死の逃避行がピクニック程度になるでしょう。頑張りましょう」
「基本皆さんの担当はエスポーサになります。30人の方も担当していますので時々抜けることがあります。承知しておいて下さい。では今日の案内はエスポーサに交代します」
エスポーサが前に移動する。交代でシン様たちが去って行く。皆跪いて見送った。
「さて皆さん、私がエスポーサです。皆さんと先着の30人の担当です。今日は色々あって大変だったと思います。まずは少し早いですが夕食にしましょう。奥の部屋です。ではいきましょう。忘れていました。一応今日着ている服はサイズは合っていると思いますが、こちらのブースで採寸します」
いつの間にかブースが二つできていた。
「ブース前の机に一人分ずつ金具で止められた書類と筆記具が置いてあります。一人一人名前を書いて下さい。書けない場合は書いてもらい代筆に丸印をつけてください。書類は何種類かありますのでもれなく署名してください。書いたらブースの中にどうぞ。採寸します。神様の専属裁縫師のオリメさんとアヤメさんが採寸します」
何枚か書類に名前を書き、ブースに入り裁縫師に書類を出すと、チラッと見られて書類に書き込んで、ハイ、終わりましたと言われた。さすが神様専属の裁縫師だ。あっという間に全員の採寸が終わった。
「終わりましたね。では夕食にしましょう。こちらです。お座りください。お子さん、乳幼児のための食事は別に用意してあります。席につき次第、二百人衆が配膳します」
「人数が少ないからもう配膳が終わりましたね。シン様に感謝して、いただきますと唱えて食べ始めましょう。食べ始める前にいただきます。食べ終わったらごちそうさまと唱えましょう」
全員が心を込めていただきますと唱えて食べ始めた。
「食べながら聞いて下さいね。皆さんの宿舎は、棟割長屋、二階建て、一棟10世帯、1世帯4LDKです。一階と二階を一世帯で使う仕様になっています。12人の宿舎は30人衆の宿舎の隣です。宿舎のドアに名前が書いてあります」
「そんな贅沢な宿舎に住んでいいのでしょうか」
「神国の宿舎の標準仕様となっています。お気になさらずに」
「それから皆さんは何かやりたいことがありますか?」
「我々は誰も最初は神を信じ、人に正しい道を示し、困っていることあれば手助けし、神の道に近づいてもらおうと思っていた。しかし、教団内部の運営に携わるうちに、信者と接することがなくなり、いつしか神はいないのではないかとの疑念も生じ、ただ教団の組織の維持、管理のみ行ってきた。そこに信仰心は必要なかった。信仰とは教団を維持、発展させるための方便に過ぎなかった」
みんな頷いている。同意見のようだ。
「今、神様の声を聴き、御姿を拝見し、我らは本当の神父になれそうな気がします。具体的に何をしたいと言うのは今思いつきませんが、人々のためになる仕事をしたいと思います」
「そうですか。今シン様は孤児院を再建しようと動いています。当面、補助金と寄付金、シン様からの現物給付で賄うつもりですが、いつまでも補助金、寄付金、シン様に頼ってはいられません。どうですか。孤児のために孤児院の運営のためにみなさんで何かできることはありませんか。教団と違いこうした孤児の顔が見える組織の運営のためならいいんじゃないでしょうか。考えてみて下さい」
「わかりました。我らの進む道が見えてきたような気がします。考えて見ます」
12人とその家族が食事を口にし一様に思う。
まさに死なんとする所を、シン様一家に助けられ、今はテーブルについて夕食を食べている。信じられない奇蹟の一日であった。