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139 トラヴィス宰相の受難

 翌日、朝から気が重い宰相殿。

 「宰相、面会希望の方をお連れしました」

 勝手に連れて来るなと言いたいが多分あの連中だろうとあきらめる。

 「入っていただけ」


 「こんにちは、宰相様。帰化申請書を提出したゴットハルトと申します。おや、昨日お会いしましたね。今日はお時間を取っていただきありがとうございます。シン神様とアカ神様がお話があるそうです」

 時間を取った覚えはない。くそ、勝手に足が、勝手に跪く。シン様がご発言だ。

 「今日はお願いがあって参りました。どうぞお楽に。お座りください」

 また足が勝手に動いて椅子に座ってしまった。操り人形のようだ。


 「王都の孤児院が潰れてしまって孤児が放置されているようですが、私はその子たちを救いたいと思います。つきましては今放置されている孤児院を復活して孤児を受け入れたいと考えています。もし国としてご賛同いただけるなら、補助金の復活と孤児院の建物を改修願いたい。スタッフは今帰化申請を出している人たちを充てたいと思います。どうでしょうか」

 「へ、陛下に」

 「陛下は執務室に王妃様といらっしゃいます。アポをお取りしましょうか」

 アカ様が宣う。


 宰相が秘書官を見ると、秘書官がすっ飛んで行った。

 息急き切って秘書官が戻って来た。

 「陛下がどうぞいらしてくださいとのことです」

 「では行きましょうか」

 アカ様のご発言だ。

 秘書官は扉を開けて控えている。誰が主人かわからぬと思う宰相だが、相手は神様だ。颯爽と歩くシン様とアカ様の後をゴットハルト氏とついて行く。

 陛下の執務室の扉は近衛兵がサッと開けてシン様、アカ様に敬礼している。


 執務室に入ると陛下ご夫妻が跪いている。

 アカ様が椅子に座るよう促してやっと陛下夫妻が着席した。

 

 「今日はお願いがあってやって参りました」

 「何なりと仰せつけください」


 「先程宰相さんにも説明したのですが、私はこの国に来て、エチゼンヤさんに世話になり、王家の方々ともお近づきになり、何不自由なく暮らしていましたが、あるとき街で孤児を見かけました。この国でも孤児院があったそうですが、不適切な経営のため、国からの補助はなくなり、今は孤児院はないそうですね。親を亡くし、親類縁者もないか、頼れないかすると孤児になってしまう。そういう子達が貧民街で暮らしています。私はその子達を救いたい。また貧民街で希望を失った人たちも将来的には救いたいと思う。まずは孤児院から始めたいと思います。私一人ではできませんので、ぜひ皆さんのお力をお貸し願いたい」


 「私どもが至らぬばかりにシン様のお心を煩わす事になり、大変申し訳なく思います。何でもお申し付け下さい」


 「今考えているのは、まず王都に放置されている孤児院を、王家の慈善事業として改修していただき、従来通りの補助金の復活をお願いします。スタッフは当てがあります。この前スパエチゼンヤと神国を視察した30人の神父さんが神聖教国を追放され、家族と共に私を頼って来ましたので、この国の孤児院を運営してもらおうと今帰化申請を出しています。帰化出来たらその人たちに働いてもらおうと思っています」

 「おおせのままに」


 アカ様が発言する。

 「それからこの慈善事業の名誉総裁に王妃様をお願いしたいのですがいかがでしょうか」

 「勿論お引き受けさせていただきます」

 ああ、国王陛下夫妻が手もなく丸め込まれてしまった。さすが神様は違うと感心する宰相である。


 「トラヴィス、帰化の手続きは済んだろうな」

 陛下の御下問だ。とばっちりだ。申請書は昨日提出されたばかりだ。終わっているわけがない。

 「今頃許可手続きが終了していると思います」

 「勿論シン様がお帰りになるまでに終わっているだろうな」

 「はは。終わっています」

 俺の秘書官が飛び出して行く。


 王妃様が、微笑した。

 「私も名誉総裁に就任したからには、この慈善事業に寄付したいと思います。トラヴィスもこの国の宰相として勿論私財を寄付していただけますね」

 王妃様のあの微笑はこれだったか。神様の描いた筋書き通りだろう。トホホ。

 「王妃様を名誉総裁にいただいた慈善事業、勿論寄付させていただきます」

 「余も寄付させていただこう。トラヴィスも最低の一口というわけにはいかんな」

 「はは、いただいた地位にふさわしい額を寄付させていただきます」


 「今は王都一ヶ所ですが、運営に目処がつけば主要都市に事業を広げたいと考えています。王家の、王妃様の慈悲があまねく国民に知れ渡ることでしょう」

 王妃様の鼻息が荒くなってきた。シン様は先導者でなく、扇動者なのかも知れんと疑う宰相。


 「宰相様、当方の窓口は、今日連れて来たゴットハルトです。30人のうちの一人です。以後よろしくお願いします。王妃様は何かありましたら私まで」

 王妃様はうれしそうである。尻尾を振り切れんばかりに振っている幻影が見える宰相であった。


 俺の秘書官が汗をかきながら帰って来た。書類を持ってくる。サインした。

 「陛下、ちょうど許可申請について事務方の手続きが終了し、陛下の署名をいただければ許可となり、公示されます」

 「そうか、署名しよう。これだな」

 署名された書類を持って秘書官が下がって行く。

 「宰相様には問題点を洗い出していただき、後でゴットハルトを伺わせますので、打ち合わせをお願いします」


 「そうそう、王妃様と先の王妃様に化粧水をお持ちしました。これは禁断の地から持ってきたヘチマという植物を、汚染の全くない神国の畑で栽培して、茎から取った水で、お肌に良いそうです。使ってみてください。もっともお肌の色艶もよく必要ないかも知れませんが」

 「まあ、そんな。いやん」

 やれやれ、王妃様は小娘になってしまった。おんなたらしだな。

 ゴホン、陛下が咳をする。我に帰った王妃。

 「ありがとうございます」


 「宰相様、奥さんにもどうぞ」

 もらってしまった。2本ある。シン様にウインクされてしまった。一本は花街の女将の分か。バレてたのか。酸いも甘いも噛み分けたシン様、男はアレ、女はコレ。多少の悪人でも信者になってしまいそうだ。おそろしシン様だ。

 「ではよろしくお願いします」

 三人が揺らめきの中に消えていく。思わず跪いてしまった。国王夫妻も同様だ。


 「トラヴィス、頼んだぞ。本来我々がやるべきことだ。それをシン様がみかねて手を差し伸べてくださったのだ。失敗は許されんぞ」

 「そうよ。シン様は神様なのだから、地上の失敗は、すべて名誉総裁の私が引き受けなければなりません。わかったわね、トラヴィス」

 「はっ。承知しました。死力を尽くします」


 王妃様に責任が行かないよう、失敗すれば俺が直ちに腹を切らねばならぬ。孤児院が命取りになるとは思いもしなかった。相手はゴットハルトか。昨日でわかった。とんでもない人外保父だ。三馬鹿ハルトだ。胃がキリキリ痛くなってきた。エチゼンヤに胃薬がないか聞いてみよう。

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