138 モーリス侯爵始末 (4)
スパエチゼンヤまで歩いてもらうのも大変なので、ドラちゃんとドラニちゃんに頼んで大手門付近に転移してもらった。
ゴードンさんがいた。時々守衛を監督しているというかお茶を飲んでいる。元極級冒険者で元本部長、しかも今は雇い主側なので、守衛の冒険者はお茶を出すらしい。
「ロシータさん、どうした?」
「ゴードンさんは知り合いで?」
「夫婦で商売で出かける時、護衛を冒険者組合で引き受けていたからな。お得意さんだ。お子さんができてからは旦那の護衛を引き受けていた。この頃はお呼びがないが」
「ちょっとこっちにきてくれ」
ゴットハルトさんが少し離れた場所で、ゴードンさんに事情を説明した。
「そうか。あとは引き受けよう。園長が三馬鹿ハルトは帰りが遅い、サボっているのかと言っていた。乳幼児が待っているぞ」
途端に気が重くなる三馬鹿ハルトである。どうも荒事の方が性に合う聖職者なのであった。
ゴードンさんは携帯でエリザベスさんを呼び出し、簡単に事情を説明した。会ってくれるそうである。
ドラちゃんとドラニちゃんにお願いし、管理施設前に転移してもらう。
管理施設ではエリザベスさんが待っていた。
「大変でしたね。でももう大丈夫ですよ。モーリス侯爵は家ぐるみ犯罪者集団と確定しました。取り潰しですね。宰相がきちんと対応するでしょう。商店はよかったら私どもで預かりましょう。商店は目立たない場所にあり、ちょうど私どもが使うにうってつけの物件です。月々借用料を支払いましょう」
「いいんですか。そうしていただけるとありがたいです」
「それから働き口ですが、銭湯の住み込みの管理人をしていただけませんか。朝、鍵を開けて、夜鍵を閉める仕事です。昼間は今まで通り、銭湯の手伝いをしてください。お子さんは託児所に通えます。いかがでしょうか」
「願ってもないことです。よろしくお願いします」
「当番が夜遅く銭湯の鍵を持って家に帰って翌早朝また鍵を持って出勤するのも大変で、こちらこそ助かります」
「では、今日は宿舎に泊まって下さい。それから神殿スパで汚れを落としてください。広くて気持ちがいいですよ。スパはドラちゃんとドラニちゃんにお願いしましょう。ロシータさんとリリアナちゃんの普段着はスパに届くよう手配しておきます。明日の朝、ゴードンさんが銭湯まで連れて行ってくれるそうです。知り合いのようですし、いいわね」
「わかりました。まずは宿舎に案内しましょう。こちらです。リリアナちゃん行くよ」
リリアナちゃんはゴードンさんとロシータさんと手を繋いで歩いて行った。
「ふふふ、ゴードンも独身だからね。さ、シン様に銭湯の管理人棟を作ってもらおう」
僕です。エリザベスさんから連絡を受け、銭湯の管理人棟を作ることになった。銭湯の裏に転移してチャッチャと作った。簡単な作りだ。風呂は銭湯があるが一応作っておこう。銭湯の湯を引いて作る。リビング、ダイニング、部屋2部屋、トイレ、風呂でいいか。
30人たちの活躍を見に行こう。託児所は隣だからね。やってるやってる。保父さんたち。足に取りつかれて登られている。次から次へと登られる。動くと子供が落ちるから動けないし、あちこちから登られるのでバランスも崩れる。いい訓練かもしれないな。でも大変だな。見かけ怖いおじさんたちだけど人気者になったようだ。あちらではオムツを真剣な顔をして取り換えている。手つきが怖々だな。まだまだ経験する必要があるだろう。その手前では若い保母さんに叱られているぞ。何かヘマをしたのか。情けない顔をしている。みんながんばれ。
「終わった」
ゴードンさんとツアコンさんの訓練よりきついぞ。これが毎日続くのか。
「はい、今日もご苦労さん。片付けは30人に任せて、空模様が怪しいので早く帰りましょう」
「そんなあ。終わったんじゃ」
「今日片付けとかなければ、明日は日の登る前に来て片付けるようです。文句を言わず片付ける」
はい、はいと片付け始めた。このおもちゃはどこだ。あっちか。おい、布団はどうするのか。畳んで片付けるのか。一枚一枚。オネショした布団はどうするのか。シン様洗濯機で洗うのか。オムツはどうするのか。洗うのか。うへ。終わらんぞ。早くしないと空模様が、あああ、降ってきた。一応作業は終わった。園長に最後まで付き合ってもらった。申し訳ない。外に出る。土砂降りだ。
帰りはツアコンさんの迎えがない。と言うことはバリアがない。濡れてしまう。
わかった、ツアコンさんが迎えがどうのこうのと言っていたのはこのことか。迎えにきて貰えばよかった。謎の言葉、ピチピチチャプチャプランランとは、バリヤが雨を弾いて、雨の中をバリアに守られて楽しく歩く音かもしれない。もう遅いと思う30人。
「しょうがない。宿舎まで全力疾走だ。いくぞ」
「ああ」
気合いが入らない。でも雨が止みそうもない。雨の中に全員で飛び出す。雨粒が顔に当たって痛い。
ツアコンさんの話は素直に聞くべきか、疑ってみるべきか悩みながら走る30人であった。