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136 モーリス侯爵始末 (2)

 空からキュ、キュと声が聞こえてきた。

 ドラちゃんとドラニちゃんだ。あとは任せろと言っている。


 「では行こうか。一生懸命引っ張らないと動かないぞ」

 侯爵様の手の者の足元にレーザーが打ち込まれる。

 「おや、ドラゴン様が早く行けとおっしゃっている。頑張れ」

 二人三脚が泣く泣く3人を必死に引っ張り歩き出す。重い。


 だんだん賑やかになってきた。衛兵が飛んでくる。

 「貴様ら何をしている」

 「この方々にモーリス侯爵邸に案内していただいているのです」

 「どう見ても縛られているように見えるが」

 「自主的に二人三脚でお仲間の3人を引き連れて案内していただいているところです」

 「本当か」

 涙ぐみながら頷く二人三脚。


 「この方々が字の書けない、読めない方の借用書で店を取り上げ、奥様まで遊郭に売ろうとしていたので、侯爵様がお持ちという借用書を拝見しに行くところです。夫の方は行方不明だそうです」

 モーリス侯爵の悪評は衛兵も集まった野次馬もよく知っていたので、衛兵は二人三脚に声をかける。

 「ご苦労。侯爵邸までよく案内するように」

 衛兵は行ってしまった。


 「朝が早かったのでお腹が空いてきたな。急ごう」

 二人三脚はなかなか動き出さない。

 後ろから、石が飛んできた。

 「早く歩かないと、どこのだれかわからぬ投石により、痛い目に遭うぞ。衛兵もいないし」

 何発か石が当たって、二人三脚が動き出した。

 野次馬がゾロゾロついて来る。


 貴族街に入った。野次馬も遠慮なくついて来る。

 「なるほど侯爵だけあって、中心部に近いところにお住まいか。頑張って引かねばな」

 貴族街を警備している兵士が数人やってくる。

 「貴様ら何をやっている」

 さっきと同じやり取りが繰り返された。今度は兵士が遠巻きについてくるらしい。野次馬については兵士には見えないのだろう。見えないものは追い払うわけにはいかない。兵士が一人、王宮の方へ走って行った。


 「ここかい」

 二人三脚が頷く。

 三馬鹿が侯爵邸の門番に侯爵との面会を求める。

 二人三脚が必死になって門番に訴えかける。

 「助けてくれ、侯爵様に取り次いでくれ。俺たちは侯爵様の命によって女を遊郭に売ろうとしただけだ」

 門番が奥に走っていく。


執事が出てきた。

 「そのような者は当家と一切関係がない」

 「ということは、この男がいう、借用書なるものは侯爵邸にないということでいいか」

 「当家ではそのようなものは一切見たことはない」

 「ではこの男は侯爵の手の者と偽って、侯爵宛の借用書をでっち上げ、商店を乗っ取って、奥さんまで売ろうとしたということか」

 「その者たちは当家と一切関わりない。また借用書と侯爵は一切関わりない。もし借用書があればそれは偽造された物である」

 「嘘だ。お前も侯爵と一緒にいた。借用書は侯爵が用意した。美人の奥さんを手に入れようと、旦那を殺して、借用書をでっち上げ、店を取り上げた。あとは、借金の返済に奥さんが遊郭に身売した体裁で、手に入れ楽しむ手筈ではなかったか」

 「知らない。当家は全く知らない。これ以上当家を侮辱するとただではすまさんぞ」


 空が翳った。ドラゴンが飛来した。ドラゴンのレーザーで侯爵邸の屋根が消える。ドラゴンが侯爵邸の青空天井になった部屋から足で何か掴んで侯爵邸の前の道路に落とす。


 「おや、金庫が落ちてきた。落とし物のようだ。随分でかいな。人の背丈よりあるぞ。開けて持ち主を確認しよう」

 「待て、触るな」

 「執事殿。ということはこれは侯爵のものか」

 返事を待たずにベルンハルトの手にショートソードが握られ数回金庫に向かってふるわれた。

 ラインハルトが金庫に蹴りを入れる。金庫の扉が吹き飛んだ。

 ゴットハルトが金庫の中の書類を手に取る。

 「おや、例の借用書がある。二人三脚殿よかったな。証拠の品がある」


 「執事殿。この金庫は侯爵殿のものか」

 「違う。知らない。見たこともない。当家のものではない」

 「そうかい。おお、他の借用書や権利書がたくさんあるな。これは侯爵のものではないということだな。帳簿もだいぶあるな。話題の商店の権利書もある。これは奥さんに返そう。金貨も大分溜め込んであるな。旦那の命代、奥さんへの慰謝料を貰っておこう」

 ギリギリと執事が歯軋りをする。


 近衛兵が駆けてきた。

 「何をしている」

 「金庫が降ってきたので、持ち主を探そうと開けてみたところ、モーリス侯爵宛の借用書がたくさん出てきて、裏帳簿らしいものもたくさんあり、どうしたものか弱っていたところだ」

 「そこの二人三脚殿が侯爵に言われて、商人を殺害、商店を手に入れた証拠書類もありますな」

 「おお、だいぶ侯爵邸に外光が入るようになったな。明るくなって結構なことだ」


 「宰相殿に報告した方がいいのじゃないか」

 「貴殿たちの名は」

 「俺はゴットハルト」

 「ラインハルト」

 「ベルンハルトだ」

 「「「人呼んで三馬鹿ハルトだ」」」

 近衛兵と野次馬はずっこけた。三馬鹿ハルトの名前が定着した瞬間である。

 「住所と仕事はなんだ」

 「スパエチゼンヤ内だ。今は保父だ」

 「保父?」

 「そうだ。スパエチゼンヤ銭湯の託児所の保父だ。乳幼児の世話だ」

 こんなガタイのいい怖い顔をした保父では乳幼児が泣きだすだろうと思う近衛兵。


 「侯爵邸の屋根はどうしたのか」

 「ほれ、上空を飛んでいるドラゴン様のレーザーで消えた」

 見上げるとかなり上空に巨大ドラゴンが翼を開いてゆっくりと滑空している。羽ばたかなくても落ちないのかと近衛兵は思った。

 この自称三馬鹿ハルトはどうしたものか悩む近衛兵。

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