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135 モーリス侯爵始末 (1)

 スパエチゼンヤの託児所から王都の城門に向かう。

 「おい、三馬鹿ハルトとハルト三馬鹿ではどちらがいいか」

 「三馬鹿のハルトか、ハルトの三馬鹿か」

 「三馬鹿ハルトの方がいいかもしれん」

 「それだと馬鹿の方に重点がかかっていないか。ハルト三馬鹿か」

 「三馬鹿ハルトの方が語感がいいな」

 「先人に敬意を払って、三馬鹿を前にして、三馬鹿ハルトにするか」

 「そうだな」


 くだらないことを言い合っていたら城門についた。

 「身分証を拝見」

 「身分証か。教国のは捨てたから、これでどうか」

 3人が線指輪を見えるようにする。

 「わかりました。どうぞ」

 いいらしい。


 さて、ロシータさんの家はどこだ。門番に聞いた。どうも貧民街に近いらしい。

 どんどん環境が悪くなってくる。

 「一般の市民では歩けないかもしれんな」


 崩れかけた家がある。

 「あの家か」

 「そうらしい」

 「ごめん。どなたかいらっしゃいますか」

 「出てけ」

 なかから子供の声がする。


 「スパエチゼンヤの託児所のものですがロシータさんはいらっしゃいますか?」

 中からやつれた女性が出てきた。

 「申し訳ありません。働きに行けなくて、申し訳ありません。お許しください」

 「咎め立てしにきたのではありません。お子さんが託児所を欠席されていてどうなされたのか、園長に見てこいと言われまして」

 「銭湯も休んでしまって、申し訳ありません」


 「なにか、事情でも?」

 「見慣れない神父服ですが、シン様の神父様でしょうか」

 「そうだ」

 「お話していいのかどうか」


 「我々は神父だ。相談者の秘密は公にしない」

 「ウルバノ大司教はそう言って、信者の秘密を得て強請っていました」

 「シン様はそのようなことは許さない。ドラゴン様が許さない」


 「実は、私は夫と中央広場の近くの裏通りで小さな商店をやっていました。その頃は親子3人、細々ながら商売が続き、日々の暮らしに満足して暮らしていました。一ヶ月くらい前、店にモーリス侯爵の関係者だという男がやってきて、店の場所を移転するように言われました。私どもは、近所のお客さんと良い関係を築いて商売をしていました。移転すると商売の基盤が全くなくなってしまいます。お断りしたのですが、何日も続けて来ます。夫のいない時が多かったので夫は昼間一人でいては危ないからと働き口を探してくれました。スパエチゼンヤさんの銭湯です。子供も預かってくれるので、何とか商売は一人でやると言っていました。一週間前の日、夫が帰って来ませんでした。心当たりを探し続けていましたが一向に見つかりませんでした。そしてまた男がやってきて、夫の借用書という紙を突きつけられました。借金の返済に幾らかでも足しにするようにと店を追い出されました。4日前のことです。それからツテを辿って、このあばら家に移りましたが、その男はすぐここを突き止めて、まだ借金の返済が足りぬ。遊郭に身売りし、借金を返済しろと言ってきました。今日までなんとか逃れてきましたが、今日は遊郭の人と来ると言っていました。間も無く来る頃です。子供が出てけと言ったのはそのためです」


 「その借金の証書は確かなのか」

 「夫は字が書けません。読めません。私も読み書き出来ません。だからわからないのです。夫とも会えていません」

 「そうか。私どもが対応しよう。奥に行って出て来なくて良い」

 「いいんですか。なんだか、人相が悪い人です」

 「任せてくれ。人相の悪い奴など大したことはない」

 この三人もかなり人相が悪いと思いながらもロシータは言う。

 「見ず知らずの方に申し訳ありません」

 「我らはシン様の神父よ。悪人から困った人を助けるのは使命だ。来たようだ。奥に行ってなさい」


 なるほど、悪人ヅラした男がやってくる。遊郭の奴だろう。ヘラヘラした男もいる。どう見ても真っ当な人間ではない男も数人連れてきた。


 「なんだ、お前らは。ロシータはどうした」

 「ちょいとした知り合いでね。交渉を任された者だ。借金の借用書があるそうだね。見せてもらおうか」

 「チッ、そんなものは見せる必要がない」

 「我々は交渉を任されたと言ったはずだ。まず借用書を確認したい。見せてくれ」

 「うるせえ、女が手に入ればいいんだ。ごちゃごちゃいうな。痛い目に合わせてやろう。やっちまえ」


 「ゴロツキが3人だ。一人で3人やってしまうか」

 「平等に一人一殺でどうか」

 「殺しはまずかろう。我々はこう見えても聖職者だからな」

 「何をごちゃごちゃ言っている。やっちまえ」

 ゴロツキが懐からドスを取り出した。

 「武器はそれかい?」

 「うるせえ」

 突っ込んでくる。遅い。ゴードンさん曰く、ハエが止まれるようだとはこのことを言うのか。

 ドスを持った手首を掴む。握りつぶした。3人の悲鳴があたりに響く。


 「野郎どもどうした」

 三馬鹿神父の行動は見えなかったらしい。

 「どうしたんだろうね。手首が潰れたようだ。これは治らんな。切り落とす必要があるな。我々も大変驚いている」

 「「おう、驚いた」」


 「俺たちはモーリス侯爵の手のものだ。逆らうな」

 「そうかい。侯爵様の部下なら、借用書も持っているだろう。拝見しょうか」

 「うるせえ。今日は持って来ていない」

 「そうか。それでは拝見しに行こう。どこにあるか」

 「侯爵邸だ。お前らには入れない」

 「そうか。直接この件に侯爵様が関与していると言うことでいいんだな?」

 「そうだ。侯爵様から直接頼まれているんだ。借用書は侯爵宛だ。お前らの出る幕ではない」

 「なるほど、なるほど。では侯爵邸にお伺いしましょう」


 なんだか変な方向に進んでいると気づいた男と遊郭のヘラヘラ男。ジリジリと下がる。背中がドンと壁か何かにぶつかった。後ろを見るといつの間にか神父服の男に後ろを取られていた。

 「我々は地理に疎いので案内してもらいましょうか」

 初めてこいつらは尋常な人間ではないと気づいた男。遊郭の男を突き飛ばして逃げようとした。


 「おや、仲間割れですか。いけませんね。仲良くしませんと」

 どこからか取り出したロープで仲間割れさんは縛られた。子供の遊びの二人三脚のガッチリ緊縛版だ。

 「さあ行こうか。あれ、3人忘れていた。どうする?」

 「二人三脚さんに引っ張ってもらおう」

 「いいな。早速縛ろう」

 のたうち回っている3人の足をロープでひとまとめに縛り、二人三脚さんの腰にロープを伸ばして縛りつけた。

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