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117 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤを見学する(5)

 「はい、ここから先は、今のところ関係者、許可された者しか入れません。皆さんは許可されています。どうぞ」

 踏み入れる時少し膜を通り抜けるような抵抗があったが、入れた。


 「ここから先も長いので馬車を用意しました」

 脇道から馬車が出てくる。大きい。全員楽に乗れそうだ。馬も見たこともないくらい大きい。2頭で楽に引いている。


 「どうぞお乗りください」

 真ん中が通路、両脇に前向きに二人がけの座席があった。十数列ある。全員乗れた。


 御者は黒っぽい服を着た精悍な若者だ。

 「出して」

 「はい、奥様」

 人妻だったか。どうりで色っぽいと思ったと30人。


 馬車は揺れが少なく乗り心地が良い。座席も硬さの中に柔らかな弾力があり座り心地は抜群であった。この座席は王侯貴族に高値で売りつけられそうだと聖職者ならぬ感想を抱いた30人。

 それにしても、重そうな馬車を楽々引いている馬も、高値で売れーーー。


 「こちらの馬は、シン様の馬です。この馬車程度なら一頭で山道でも楽々引けるのですが、引きたいと希望が多いので2頭にしてあります」

 神馬か、まずいことを考えた。高値の段は取り消しと慌てる。もはや神聖教のことなど頭から抜け落ちかかっている30人ではある。


 「学校の見学は省略しましょう。教えている内容と教師が違うだけで基本先ほどの学校と同じです」

 その教えている内容と教師が問題なのだと思うが、何も言えない。


「なお、昼食がまだでしたね。これから昼食にしましょう。前の座席の背にテーブルが仕込んであります。上の方のつまみを回していただくとテーブルが出てきます」

 小さなテーブルが出てきた。

 「ではお配りします」

 木製の薄い箱が配られた。


 ふたをとると中がいくつかに区切られていて、肉、野菜の炒め物、黄色い棒状のものが切られた物、白い粒々が入っていた。

 「お肉は魔の森の魔物の肉です。肉も野菜も材料はシン様が用意してくれました」

 「この黄色い物は何かね」

 「棒状の野菜を漬けた物だそうです。シン様はタクワンとおっしゃっていました」

 「この白い粒々はなにかね」

 「ご飯というそうです。パンと同じく主食とする地方があるそうです」

 「聞いたことはないな」

 「味は淡白ですが噛んでいると甘みがあります。野菜や肉と交互に食べてみてください」

 「正式には、ハシという2本の棒状のもので食べるそうですが、ナイフとフォークをお配りしたので召し上がってください。それからお茶をお配りします。食堂で飲んだ方もいらっしゃると思いますが、緑の温かい飲み物です。すこし渋いと感じるかもしれませんが、慣れると甘みも、香りもあり美味しいです。ではごゆっくり。私はまた参ります」

 ゆらゆらと空間が揺らめきツアコンさんが消えた。


 「まあ、食べようか」

 ドラゴン悪魔派幹部が言う。

 「ああ、そうだな」

 「美味そうだ」

 「この白い粒もなかなかいいな。肉の味と合わさって美味しい」

 「この肉は、魔の森の魔物だそうだな。初めて食べる」

 「誰も食べたことはないだろう。魔の森に行く前の滅びの草原さえ立ち入れないのだから」


 皆黙々と食べる。あっという間に食べ終わった。馬車はゆっくりと進む。心地よい揺れが眠気を誘う。みんな寝てしまった。

 揺れが収まった。

 

 「はい、みなさん。おはようございます。良い夢はみられましたか。今ちょうど身体育成の授業をしています。どうですか、参加されては」

 「身体育成とはなんだ」

 「健康な体と良き魂。ふたつながら持ちたいものです。身体育成とは、体を動かすことにより、健康な体を目指すことです」


 見ると広い広場で子供が駆け足をしている。


 「着替えはこちらでどうぞ」

 平屋の家に案内された。どうも身体育成とやらに強制参加らしい。

 揃いの服に着替えて家を出ると、がっしりした体格の男が待っていた。


 「こんにちは。ゴードンと申します。頭を使った神経戦は常日頃行っていることと思いますが、体を使わなくては頭と体のバランスがとれなくなります。今日は子供達と一緒に体を動かしましょう」


 ゴードン?ニコニコしているが醸し出す雰囲気からして有名な元極級冒険者だろう。

 「ではまず体をほぐしましょう。走っていきましょう。いち、にい、さん、しい、そーれ。唱和」

 元極級冒険者には逆らえぬ。

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 広い広場をぐるぐる。

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 頭の中は空っぽ。

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 「10周するぞ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 「悪魔派殿、こちらの方が悪魔ではないか」

 「そうだな、聖ドラゴン派殿、悪魔はここにあり」


 「こら、そこ私語しない。もう10周追加、そーれ」


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 後ろから声がする。

 「おじさん、ファイ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 「おじさん、ファイ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 ガッチリした体格の甘いマスクの男、ブランコと言ったか、彼に率いられた子供に追い抜かれた。トホホ。

 「おじさん、ファイ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 あ、巨木のパラソルが見える。ツアコンさんが手招きしている。

 「水分を補給しないで運動していると体に悪いですよ。どうぞ」

 水が並々注がれたコップが並んでいる。

 運動させているのはそちらだろうと思うが、手は伸びて水をゴクゴク飲む。美味い、天使か。

 「はい、子供に負けるようではいただけません。あと10周」

 悪魔だった。


 水を飲んだゴードンさんが声を張り上げる。

 「あと10周ソーレ」


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

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