115 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤを見学する(3)
お風呂から出てカウンターに告げるとどこからともなく現れたツアコンさん。
「皆さんお風呂でリラックスされましたか?この銭湯には食堂が併設されています。朝早く出たので少し休憩しましょう。席はとってあります。こちらへどうぞ」
カウンターを挟んで風呂と反対側が食堂となっていてツアコンさんに従って食堂に入っていく。
「基本は食堂が用意した数種類の定食の中から選んで貰います。今は朝食の時間帯で軽いものが中心になっています。飲み物もセットになっています。トレーを持ち定食を乗せ飲み物を乗せて会計にお進みください。料金はシン様が支払ってありますのでバッジを見せてください。席は予約してありますので巨木が描かれた旗が立っている席にお願いします」
各自定食をとり飲み物をトレーに乗せ席に向かう。
「料金はいくらなんだろうね」
「料金は、朝食が串焼き2本、昼食が串焼き3本、夕食が串焼き5本相当の料金となっています。銭湯とセット割引もあります」
「なんで定食なのか」
「シン様の話では、体に必要なもの、栄養とおっしゃっていましたが、必要な栄養を満遍なく取っていただきたく、栄養を考えた食事を定食として提供しています。偏った栄養では健康な良い体が出来ないそうです」
「串焼きと酒ではダメなのか」
「そうですね。ちなみにお酒はお出ししていません。席につきました。食べ終わったらトレーは向こうの返却口までお願いします。そして食堂の出口で待っていてください。また来ます。ごゆっくりどうぞ」
「行ってしまったな」
「ああ、色々知らないことが多いな。栄養か。しかし安いな」
「教国の職員食堂より安いし、美味しそうだ」
「うむ、美味いぞ」
「そうだな」
黙々と食べる30人。
「美味しかった。これで栄養とやらが取れたのか。串焼きも美味しいが食事ならこちらだな」
「悪魔とはなんだろうな。悪魔が人の健康を考えるとは思えない。これはどう見ても悪魔の所業ではないな」
「そうだな」
「お前、そうだなとしか言ってないぞ」
「そうだな。そうだなと言うより他にない」
「そうだな」
「お前飲み物は何を取った」
「俺はお茶という緑の飲み物だ」
「俺はコーヒーとやらだ」
「俺はフレッシュジュースだ」
「俺は紅茶だ」
「色々あるな、味はどうだ」
「お茶は、ツンとした香りがあり、渋みの中に甘みがある」
「コーヒーは苦い、酸味もある。この白い液体を入れたらマイルドになった」
「フレッシュジュースは、水で薄めてないぞ。絞ったそのままだ」
「紅茶も今まで飲んだ内で一番美味しい」
「これが庶民の大衆食堂か。信じられん。悪魔がここまでやるとは思えない」
「そうだな」
「食べ終わったようだから行くか。返却口はあっちか」
トレーを返却して出口に行くとツアコンさんが待っていた。
「お揃いのようですね。次は庭園を見に行きます。下足の鍵はお持ちですね。では靴を履いて外に出ましょう」
だんだん打ちひしがれてきた三十人。ゾロゾロと刑場に引かれるような足取りであった。
「はい、皆さん元気を出して。少し山に登ってもらいます」
足元を見ているばかりで周りを見渡すこともせず黙々と歩いていく。
「さあ、顔を上げてみてください。眺めがいいですよ」
「ああ確かに。ここは山か」
「登って来ましたよ」
「気がつかなかった。確かに遠くまで見える。眺めはいいな」
「あの音はなんだ」
「あれは滝です。目の前の川の水が落ちています。行ってみましょう。少し下ります」
「これが滝か。確かに水が落ちている。涼しいな」
「滝が3段になっているぞ」
「では皆さん降りてみましょう」
「これはなんだ」
「庭園です。眺めを楽しんでください」
「この谷川はさっきの滝からの流れなのか」
「澄んで冷たい水が急流となって流れているな。深山のようだ。これが庭園というのか」
「もう少し先に行くと川はゆっくりと流れるようになっています。行ってみましょう」
「池がある。小川が流れている。小魚がいるな。田舎を思い出す」
林の中の小川にそって歩く。時々丘のようになって周りを見渡せる。鳥の声が聞こえる。
「庭は貴族の芝と薔薇園しかみたことはなかった。これが庭園か」
「これを庶民に解放しているのか」
「そうです。こちらは無料です。時間がありますから昼頃までごゆっくり。先程は足元ばかり見ていて、周りを見ていなかったようですので、もう一度山登りをしていただいても良いし、ご自由にどうぞ。疲れたらあちこちにベンチがありますから座れます。あちらにいくと広場があり、トイレも売店もあります。案内表示がありますので迷わないと思います。売店では飲み物ひとつの料金を支払っていますので、バッジを見せて好きな飲み物をお飲みください。無料の水もあります。昼頃大手門の近くにお集まりください。巨木の絵が描かれたパラソルを立てておきます」
ツアコンさんが巨木の絵の旗を掲げる。
「わかった」
「では失礼します」
ツアコンさんの周りの空間がゆらゆら揺れる。ツアコンさんが消え、揺らぎがおさまる。
「消えたぞ」
「消えた」
「転移か。こちらに来た時と同じだ」
「やっぱり神なのか」
「わからんが悪魔がここまで庶民に尽くさないだろう」
「俺はもう一度山に登ってみる」
「そうだな、時間があるから登ってみよう」