114 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤを見学する(2)
「次は学校です。こちらへどうぞ」
教室がいくつかある。
「ここには6歳から11歳までの子供に読み書き算数を教えています。それとこの世界に関する知識、基本的な世の中の仕組み、生活に必要な知識、歌や楽器の演奏。シン様は音楽と仰っています。それから、絵を描いたり物を作ったりしています。体を動かす授業もあります。人の体についての知識も学びます。シン様は保健と仰っています。料理も裁縫もあります。それらを学ぶので結構忙しいです」
「なんと目の回る忙しさだ。しかし、いままで一箇所でこのような知識を教えているところはない。貴族の学校でもない。連中は貴族社会のしきたりしか学んでいないだろう」
「歌や楽器は吟遊詩人とか宮廷楽師などの人たちが独占していて、庶民が歌を歌ったり、楽器を弾いたりすることはなかった。余裕がないというべきか」
「シン様が言うには、音楽は歌や楽器を演奏して自分も楽しみ、聞く人も楽しくさせるそうです。一緒に歌ったり、楽器を演奏したりすることも良いそうです。」
「絵は絵師が独占しているな」
「絵も、見た目通り描いてもいいし、心の中で見えたものを描いてもいいそうです。基本的な技法は教えますが、あとは自由に描いてもらっています。ですから絵師が描くような絵もありますし、全く見たこともない絵もあります。楽しければいいそうです」
「これは、深いな。今までの世界とは違う世界を覗いているようだ。頭が破裂しそうだ」
「シン様は楽しみながら色々なことを学び、自分の可能性を広げ、自立して生きていく手助けをしたいそうです」
「誰が教えているのかね」
「シン様、アカ様、私エスポーサが大人に教え、その方々が子供達に教えています。なお、この学校の上級学校は奥にあります。国家経営、外交、軍事、貴族社会のしきたり(社交、マナー、ダンスなど)などを教えています。教える人は、某国の元国王夫妻と元宰相夫妻、亡国のお姫様、元極級冒険者などです」
「恐ろしいな。この世界を乗っ取れるのではないか」
「私どもは侵略されない強い国でかつ侵略しない国を作りたく思っています。強くなければ侵略されます。強くなると侵略したくなりがちですが、私どもは、侵略させない、侵略しない国を目指しています」
「出来るかもしれないな。そう言う気がして来た。シン国、神国か」
授業を参観して、俺も知らない知識を子供に教えているぞ、大人としてどうか、まずいと思う三派30人。
「では銭湯に参りましょう。こちらです」
旗を掲げてツアコンさんが行く。子供に負けたと意気消沈してついていく30人。
「はい、こちらが銭湯です。入りましょう。ここで靴を脱いでいただき下足箱に入れ、鍵をお取りください。カウンターに進んで入湯料を支払います。入湯料は串焼き一本の値段です。皆さんの料金はシン様が支払い済みです。お風呂の入り方はカウンターの方に聞いてください。皆さんがお風呂から出ましたらカウンターに告げてください。私がまた参ります。ではお風呂にどうぞ。きっと面白いことがあると思います」
「あのツアコン嬢は、シン様教の幹部なのだろうな」
「そうだな。しかし託児所といい学校といい、今までなかった。学校を終えると今までの庶民が手に入れた知識を遥かに上回る知識を得ることになる」
「上級学校も恐ろしい。卒業生が実務を経験すると、侵略しないと言っているが、恐ろしい国になるだろう。神聖教国内で派閥争いをしていて良いのだろうか」
「そうだなあ」
「まあ、難しいことはしばし忘れて風呂に入ろう」
「いらっしゃい。入り方はご存知で?背中を流しましょうか」
「ああ。ええええ教皇様」
「三助ですよ。今日は皆さんがお見えになるとシン様からお聞きしたので予定を変えてお待ちしていました。浮世の垢を流してさっぱりしてください。さ、背中を流しましょう」
三派30人は元教皇に背中を流してもらった。
「おーい、きょうちゃん、こっちも頼まあ」
「一人だけだぞ。これから具合の悪い婆さんのところの草取りとドブ掃除に行かなくちゃならないからな」
「後家だろう」
「80の後家だ。お前、ご希望か。仲人するぞ」
「遠慮しとくーー」
笑い声が湯船に響く。
「楽しそうだな」
「ああ」
「今まで俺は何をやっていたんだろう」
「神の名の下に派閥争いと権力闘争だな」
「馬鹿らしくなったな」
「うん」
湯に入って心が柔らかくなって来た三派30人であった。