113 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤを見学する(1)
翌朝、大神殿跡に各派10人ずつ、30人が集まって待っている。
目の前の空間がゆらゆら揺れた。揺れがおさまると馬を連れたハビエル神父とやたら神々しい男女2名、超小型ドラゴン2頭がいた。
「お迎えにあがりました。こちらは、シン様の眷属のブランコ様とエスポーサ様です。ドラゴンはお馴染みですね。ドラちゃんとドラニちゃんです」
中立派重鎮がハビエル神父に聞く。
「今、揺らめきの中から出てこなかったか」
「はい、エスポーサ様に転移で連れて来てもらいました」
「転移は、物語の中だけだ。本当に転移なのか」
ドラゴン悪魔派幹部
「転移は悪魔の所業か、神のーーー」
途中で発言が途切れた。
聖ドラゴン派幹部
「ドラゴン様の転移ではないので?」
「転移は眷属は皆できますよ」
エスポーサの発言。
「ではぜひドラゴン様の転移でお願いします」
「いいですよ。では行きましょうか。ここにいる全員で良いのでしょうか」
中立派重鎮
「全部で30人。お願いする」
「ドラちゃん、ドラニちゃん、お願い」
「キュキュ」「キュキュ」
空間が揺れて来た。揺れの先に賑やかな門が見える。
「どうぞ」
中立派重鎮が揺れの中に足を踏み入れる。門前に無事着いたようだ。
意を決して、次々と揺れの中に足を踏みいれる。
「キュキュ」「キュキュ」
最後にドラちゃんとドラニちゃんが転移した。
スパエチゼンヤ門前に転移した三派30人は呆然自失している。
ややあって、我に帰った。
聖ドラゴン派は、
「聖ドラゴン様、ありがたや」
ドラちゃんとドラニちゃんに跪いて祈っている。
ドラゴン悪魔派は
「悪魔の所業か、それとも神の御技か」
ドラゴンが悪魔という定義にやや疑義が生じたらしい。最後まで言えた。
中立派は、
「神の奇蹟かもしれないな」
「はい皆さん、ごらんのように門前市をなしています。迷子になりませんようお願いします。バッジを配りますから付けてください。行動する際はこの旗が目印です。ついて来てください」
巨木がイメージされたバッチがブランコより配られ、各自服につけた。
「ではバッチをつけましたね。ここからは私、エスポーサがご案内します」
ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ハビエル神父がユラユラと消えていった。
「では行きます」
巨木が描かれた旗を掲げるツアコンエスポーサ。
「この大手門の門前も最初は何もありませんでしたが、今はご覧の通り市をなしています。門には詰所があり、警備のため冒険者組合に委託して冒険者が24時間詰めています。左手が庭園になっています。後ほど見に行きます。右手をご覧ください。銭湯です。誰でも串焼き一本の料金で利用出来ます。その奥が従業員子弟のための託児所と学校です。見に行きましょう」
「従業員の子供なら誰でも入れるのかね」
「はい、そうです。シン様の意向により、従業員が働いている間、学校や託児所でお子さんを預かり、仕事が終わると親と一緒に帰れるようになっています」
「子供がいても働けるわけか」
「そうです。それと読み書き算数を習わず大人になってしまった方のために、夜間学校も開校しています。スパエチゼンヤで働いている間に読み書き算数ができるようになれば、他で働くにしても良い待遇で働けると思います」
「神聖教より待遇がいいな」
「それを言っちゃあお終いだと思うが本当にいいな」
「こちらが託児所です。一歳までは、二、三人に一人世話をする人がつきます。それより大きくなると職員一人で見る人数は増えます。ここで預かるのは5歳までです」
「乳児も預かるのか」
「はい、シン様の意向で働きたい人は働けるようになっています。授乳時には職場を抜けてこちらで授乳出来ます」
「随分優遇されているな」
「おかげさまで退職者はほとんどいません。退職者は泣く泣く故郷に帰った方のみです」
「賑やかだな。これを見るのは大変そうだな」
「はい。大変ですが子供は宝ですから、職員のみならずみんなで面倒を見ています」
体の芯からシン様教に染まっていくのだろうと三派30人。
「私どもは特定の宗教を信じるように仕向けたりしません。職員もその子弟もどの宗教を信じても構いません。それにより差別することは一切ありません」
もしかして心のうちもわかるのだろうか。
「ただ皆さんすぐ改宗されてしまいます。多様性が失われてしまいます。残念です」
本当に残念そうだ。変わった宗教だ。