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愛を探しに・・・

作者: 黒神譚

捨てられたぬいぐるみには愛がありませんでした。

ある日、たぬきちゃんのぬいぐるみは何の前触れもなく捨てられてしまったのです。

深夜のうちに燃えるゴミ袋の中に詰められて捨てられたぬいぐるみのたぬきちゃんは、慌ててゴミ袋から抜け出して逃げ出しました。

夜はおもちゃの時間。たとえぬいぐるみが動き出しても人間には見えませんでした。


「ひどいわ。

 ずっと可愛がってくれていたのに、燃えるゴミに出すなんて・・・・。」


たぬきちゃんは捨てられたことが悲しくなってシクシク泣きましたが、いつまでもこうしてはいられません。朝が来て人間に掴まってしまう前におもちゃの国に逃げ延びなければいけなかったのです。

おもちゃの国。

それは、人間が住んでいる世界からそんなに離れていないのに、決して人間は入ることはおろか見ることもできない不思議な不思議なおもちゃの楽園でした。

たぬきちゃんは泣きながら歩き続け、朝までにおもちゃの国の入り口の門までたどり着きました。

たぬきちゃんはおもちゃの国の入り口の門をたたいて言いました。


「もしもし、私はたぬきのぬいぐるみ。

 人間に捨てられてしまいました。どうか、門を開けてください。」


すると、門から兵隊のおもちゃが顔を出しました。


「おお。それは可愛そうに。

 君も人間に愛されずに捨てられちゃったんだね?

 全く、君のようなカワイ子ちゃんを捨てるなんて人間は見る目がない。」


おもちゃの兵隊は、そういって門を開けると、たぬきちゃんにバラを差し出していいました。


「ここは、人間の愛を失った悲しいおもちゃのつい棲家すみかにして、おもちゃの楽園。

 これからあなたは、ここで皆と面白おかしく暮らすのです。」


たぬきちゃんは鼻の高いカッコいい兵隊さんにバラを渡されて感激しました。


「まぁっ!! なんてクールな方なのっ!」


たぬきちゃんは、もう兵隊さんにメロメロです。

兵隊さんはたぬきちゃんをおもちゃの国の王様に御挨拶できるように連れて行ってくれました。

おもちゃの国の王様は、たぬきちゃんを一目見て


「おお。とても可愛らしいぬいぐるみのたぬきちゃんだ。

 君はこの国で喫茶店を開きなさい。きっとお客さんが集まってくれるよ。」


といいました。そして、王様は兵隊さんに喫茶店のお家へ住む手配をするように命令しました。

たぬきちゃんは、こうして喫茶店の女主人になったのです。


「ああっ! ステキっ!!

 喫茶店を開けるなんて。私、人間が見ているお料理番組をよく見ていたから、お料理は得意なのっ!!

 そうだわ、兵隊さん。あなた、最初のお客さんになってくれないかしら?

 甘い甘いマドレーヌと紅茶を出してあげますよ。」


たぬきちゃんがそう言うと、兵隊さんはにっこりと笑ってお店の椅子に座ると、長い足をくるっと回して足を組みます。

そのキザッたらしい仕草にたぬきちゃんは胸がドキリとしました。


「ああ。なんてカッコいい人なの。

 こんな優しくてカッコいい人が私の旦那様になってくれたら、どんなにステキなことでしょうっ!!」


たぬきちゃんはそう独り言を言いながら、キッチンでマドレーヌと紅茶を作りました。そして、兵隊さんにお出ししました。

兵隊さんは、たぬきちゃんの料理の腕前に大満足していいました。


「いやぁ。お料理の上手な女の子だ。

 君のような女の子をお嫁さんにもらえる男の子は幸せ者だね。」


たぬきちゃんは、もう大喜びでした。

兵隊さんもたぬきちゃんのマドレーヌと紅茶に大満足して帰って行きました。

そんな兵隊さんの背中を見ながら、たぬきちゃんは幸せを感じていました。



さて、翌日からおもちゃの国は大賑わい。

なんでも新たに越してきたたぬきちゃんが喫茶店を開いて、それがとても美味しいというのですから、皆がたぬきちゃんのお店に入ってきたのでした。


「ああ。忙しい。忙しいわ。

 でも、皆が私のお料理を喜んでくれるなんて、とても嬉しいわ。」


忙しいながらもたぬきちゃんは幸せでした。だって、皆がたぬきちゃんを必要としてくれていたからです。

たぬきちゃんは人間から愛されずに捨てられた自分が、おもちゃの国では愛されていることに感動していました。


でも、お客さんの中には、とても悪い子がいました。


「やいっ!! お酒を出せっ!!

 それから、俺のテーブルに来てお酌をしなさいっ!

 そしてたぬきちゃんは可愛いから今日から俺のお嫁さんになるんだっ!!

 いやと言ったら、痛い痛いパンチをするぞっ!!」


それはアニメに出てくる悪い悪い山賊の人形でした。

その怒鳴り声の大きさにたぬきちゃんは怖くなって泣きだしました。


「いやーん。私のお店で大きな声を出さないでっ!

 それに私をお嫁さんにしたいなら、ちゃんと私を愛してくれないと嫌っ!!

 乱暴する男の子とは結婚できませんっ!!」


そういって泣き出すたぬきちゃんに周りのお客さんも同情しましたが、山賊のうでっぷしの強さをみんな知っていましたから、たぬきちゃんを助けようとして山賊を怒らせてパンチをされないか心配で、誰も助けてはくれませんでした。


その時でした。

「やめたまえっ!!」と、言って兵隊さんがお店に入ってきてくれたのです。

兵隊さんは山賊を睨みつけると、山賊は兵隊さんの強さを知っていたので怖くなりました。でも、ここであっさりと引き下がったら、明日から皆が自分の事を怖がってくれないと考えて勇気を振り絞って言いました。


「これは、男と女の問題だ。

 兵隊さんは黙っていてもらおうか。

 それにたぬきちゃんは俺がたぬきちゃんを愛したら結婚してくれるって言ってたぞ」


「ええっ!! そんなことを言ってないわ。

 私は愛してくれない人と結婚できないって言ったのよ?」


山賊が急に変なことを言い出すものですから、たぬきちゃんはビックリして言い返しましたが、山賊は「いいや。たぬきちゃんは、ちゃんとそう言った。」と勝手なことを言って聞き入れてくれません。

たぬきちゃんは困って兵隊さんにお願いしました。


「ねぇ、助けてください。

 私は乱暴な子は嫌い。私の事を大事にしてくれる人と結婚したいの。」


たぬきちゃんにそう言われて兵隊さんは困ってしまいました。

何故なら、兵隊さんは愛を知らなかったからです。


「僕は、戦争をするための人形だよ。

 人と人は争ってばかりだ。僕の役目に愛はないんだ。

 だから本当のことを言うと愛ってなんなのか・・・実はわからないんだ。」


そう言われてたぬきちゃんは困ってしまいました。

そして、山賊も兵隊の言い分に賛同しました。


「俺も同じだ。俺は人と争う役目の悪役の人形だ。

 俺の役目に愛はない。だから、おもちゃの国に来てからも、愛って何なのかわからない。

 なのにみんなは、愛だ愛だと騒いでいる。でも俺にはそれが何かわからない。

 どうしていいのかわからないから、毎日毎日、暴れていたんだ。」


ふたりはたぬきちゃんに聞きました。


「教えて。たぬきちゃん。

 愛って何なの? どうすれば俺たちは愛を手に入れられるんだろう?」


たぬきちゃんは困ってしまいました。

だって、愛って言葉で表せるものではないのだから・・・・

お店のお客さんも総出そうでになって考えましたが、愛が何かを言葉で説明できる人はいませんでした・・・・。

誰も、自分たちに愛を教えてくれない。山賊と兵隊さんはそう言って泣き出してしまいました。

そうして、二人は決めました。


「俺達で一緒に愛を探しに行こう・・・・。

 きっと、世界のどこかに俺たちに愛が何か教えてくれる人がいるはずだ。」

「そうだ。そうだ。

 愛が何か僕達にはわからない。

 山賊くん。僕達、男同士気兼ねなく愛が何なのかを探す旅に出よう!!」


ふたりは意気投合して肩を組んでお店を出て行ってしまいました。

たぬきちゃんは呆れてしまいました。


「まぁっ!! ここにこんなに可愛いたぬきちゃんがいるのに、男同士で愛を探しに行くですって?

 女の子の気持ちもわからないなんてっ!! イケずな兵隊さんねっ!!」


たぬきちゃんは、怒って兵隊さんの後を追って喫茶店から出て行ってしまいました。

後に残されたお客さんたちは大変です。

みんなたぬきちゃんのお料理を楽しみにしていたのに、おいていかれたからです。

お客さんたちは悲しくなってワンワン泣きました。


「人間たちに愛されなくって捨てられた私達をたぬきちゃんは、捨てていったのね」

「僕達は、結局、誰からも愛されないんだっ!!」


たぬきちゃんたちは、そんなこととはつゆ知らず、おもちゃの国を出て、人間の世界へ愛を探しに行きました。


3人は最初、人間に見つからないようにデパートに行きました。

そこには大勢の人がいました。親子、友達、恋人同士で楽しくお買い物をしていました。

その様子を見て山賊が言いました。


「俺にはわかった。これが愛だ。

 皆で面白楽しく過ごすことなんだ。

 そうしたいと思う気持ちが愛なんだ。」


山賊は自信満々にいいましたが、それを聞いていたデパートに住み着いたネズミさんが言いました。


「違うよ。それも愛だけど、愛には他の意味もあるんだ。

 愛が何か知りたかったら、俺が前に住んでいた映画館に行ってごらん。」


ねずみさんはそういうと、チーズと映画館までの道のりを書いた地図を渡してくれました。

3人はねずみさんにお礼を言うと人間に見つからないように映画館に行きました。


映画館では恋愛映画を流していました。

それはそれは素敵な恋物語で、たぬきちゃんは愛し合う恋人同士の姿を見て涙を流して感動しました。


「ね? これが愛なのよ。恋から愛に変わるの。

 二人ともどちらが私を愛してくれるのかしら?」


たぬきちゃんはそう言って熱い瞳で二人を見つめましたが、兵隊さんは納得しませんでした。


「これが愛だというのなら、人間たちが僕達への愛を失ったから僕達を捨てたという理由にならないよ。

 だって、少なくとも僕や山賊は、恋愛をするような気持ちで人間から見られたことは一度もないのだから。」


兵隊さんはもっともなことを言いました。山賊もこれには同意です。


「そうだそうだ。たぬきちゃんは可愛いから人間が恋に落ちても不思議じゃない。

 でも、俺達はそもそも人間にそういう目線で見られることはないぞ?」


そう言われてしまうとたぬきちゃんも愛がなんなのか分からなくなって泣いてしまいました。


「そうだわ。二人の言う通りよ。愛って恋をすることだけじゃないわ。

 じゃあ、愛っていったい何なのかしら・・・・・?」


三人が途方に暮れていると、映画館の裏に住み着いている人間の赤ちゃんよりも大きな大きな黒猫ちゃんが声をかけてくれました。


「君たちは愛を探しているんだね?

 では、明日、ここに行きなさい。ここまで来た三人なら愛が何なのかわかるから・・・・。」


そう言って大きな大きな黒猫ちゃんは三人を抱っこして寝てくれました。

三人は黒猫ちゃんのふかふかの毛皮の上でお寝んね出来て幸せでした。


そして、翌日。三人は猫ちゃんの教えてくれた場所に行って見ました。

そこは、お葬式をする場所でした。

その場所に集まった人々は、亡くなった人に花束を添えて涙を流したり、思い出話をしたりしていました。愛とは何かを知りたいたぬきちゃん達は物陰に隠れて人間達のお話をジッと聞くことにしました。

人間達のお話を聞いていると、どうやら亡くなった人は、自分の命をかえりみずに川に流された見知らぬ子供を助けて死んでしまったようでした。

山賊も兵隊さんもたぬきちゃんもその話を聞いて感動して泣いてしまいました。


「ああ・・・・。愛とはこんなに大きな気持ちなんだね。」

と、兵隊さんは納得しながら、言いました。


「きっとそうよ。だから、皆とお買い物に行くときも、恋をする時も、死んでしまった後でも

 相手を思いやることができる気持ち、それが愛なのよ。」

たぬきちゃんも感動の涙を流しながら言いました。


「そうだな。俺もそう思うぜ。今なら俺は皆に何をしてあげれば良かったのかわかるよ。」

愛を知った盗賊は誇らしげに言いました。


兵隊さんは、人間の愛を知って感動のあまり泣き続けているたぬきちゃんを抱きしめながら「帰ろうか?」と、言いました。たぬきちゃんは小さくうなずいてから兵隊さんを抱きしめ返しながら歩き出しました。

山賊はそんな二人の恋を祝福しながら、おもちゃの国へ帰ることに同意しました。


さぁ、国に帰った三人はビックリしました。

だって、たぬきちゃんが喫茶店から出て行ってしまったせいで、また捨てられてしまったと思ったおもちゃたちがワンワン泣いていたのだから。



でも、この旅を終えて愛とは何か、その本当の意味を知っている三人には、泣いているおもちゃたちにどうしてあげればいいのかわかっています。

みんなを抱きしめてあげてから優しい声で慰めてあげました。

そして、たぬきちゃんは美味しい美味しい紅茶と甘い甘いマドレーヌを皆に作ってあげました。


泣いていたおもちゃたちは3人が戻ってきてくれたことをとても喜びました。

そして、口々に「愛は見つかったのかい?」と尋ねるのでした。

三人は、そんなおもちゃたちに愛が何なのか、教えてあげました。


それからというものおもちゃの国では、皆が愛の大切さを知っています。

お互いに思いやり、助け合い。恋をしました。

こんな素敵な気持ちがあるはずなのなのにどうして人間は簡単に捨ててしまえるのでしょうか?

捨てられたおもちゃたちは、人間たちをかわいそうに思いながら、おもちゃの国から今も見ているそうですよ。


あなたに愛がわかりますか?



おしまい。






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