プロローグ
趣味丸出しの、ファンタジーです。気長に、温い目で見守ってください。
ーーー空が、青かった。
それだけを、覚えていようと思った。
「・・・急ぎなさい」
父の声が耳を打った。
仰向けていた視線を下ろして、目前に続く暗い回廊へ歩を進めた。ひんやりと冷たい空気が肩に触れるが、全く意に介さない。
黒く質素でーーーしかし特殊な力を織り込まれた『封じ』の衣を翻して、王子だった子供は牢獄へと向かう。
未だ幼い背中に向けられるのは、憎悪と畏怖と嫌悪とーーー悲しみの、視線。それを理解してなお、子供は小さく笑っていた。
これで、良かったのだ。 こうなることこそか自分の役目であり、運命だったのだから。
『ーーー・・・ラル、』
けれど、心の奥底へとしまい込んだこの声だけが、その決意を揺らす。ただ一人と決めた相手の笑顔が、言葉が、その全てがーーー行くなと、そう伝えるに決まっているから。
「・・・、」
誰にも聞こえないほど小さく、名を呼ぶ。
届かないと分かり切っているのに、それでも届くことを願いながら。
ーーーどうか。
重々し音とともに牢は閉ざされる。生物の気配の全くない闇が緩やかに身を包む。それら全てを遮断するように、そっと目を閉じた。
ーーー空が、青かった。
あの子と二人で、最期に見上げたのは澄み切った青空。
少年は静かに笑みを深めた。
それだけを、覚えていたいと思った。