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第1話 助け出された

 私の名はクコ。

 ある薬師の血筋を引く男爵家の長女として生まれた。

 薬師としての血筋ゆえか、自分が言うのもあれだが私には才能があった。おかげで王国では最年少の9歳で王宮薬師の資格に合格するほど。

 そんな私の今の生活は地下にある製薬室で薬を作り続ける日々を送っている。

 原因は父と義母、そして義妹だ。


 二年前、母が亡くなり、父は子連れの愛人と再婚した。

 この流れで解るとおり、私は冷遇され、薬師の才能があるなら稼げとこの地下室に閉じ込められ薬をただ作り続ける事を強要された。

 睡眠は一時間、食事は一日一回、お風呂は一週間に一回しか許されず、私の味方だった使用人達は全員辞めさせられ、今は父側の使用人によって監視されながら生活を送っている。


 他の家族は私が作った薬を高額で売り、儲けた金で豪遊する日々で、毎日、何処かに遊びに出掛けて屋敷にはほぼ居ない。

 帰ってきても私が薬を作っているかどうか確認して、作った薬をさっさと持っていくだけ。

 怒りも何も感じない。ただ、あの人達にとって私は金づるなのだと思うだけ。


 私が死ぬまでこの日々が続くと思っていた。


 あの人が助けてくれるまでは。


「君がクコさんかい?」


 いつも一時間きっかりに起こしに来る使用人ではなく、私を助けてくれた人――この王国の第二王子・マグノリア様がやってきた。


 当初、私は見知らぬ人の登場にどうしてよいか解らず、素直に答えて良いのか迷い黙ってしまった。


「怯えないで、僕は君を助けに来たんだ」


 そんな私にマグノリア様は座り込む私の目線に合わせ優しく声をかけた。


「たすけに……?」

「ああ。非常に優秀な薬師が居ると聞いて何回もこの家の男爵に手紙を送っていたんだ。だけど一向に返事が来ないから怪しいと思って調べたら、君の現状を知った」

「そうなんですか。でも、あの人達は私を此処から出る事を許しませんよ」


 助けに来たというマグノリア様の言葉が信じられず、私は冷たくそう言うとマグノリア様はまた微笑むと。


「それは安心して、彼らは捕まったよ」


 実父達を罪人として捕えた事を教えてくれた。


「捕まった?」

「君をこんな目に遭わせたんだから捕まって当然だ。今は牢屋に居る、親子三人揃って北の鉱山に送られる予定だ。彼らだけじゃない、彼らに加担した使用人達も同罪として逮捕した」

「それじゃあ、本当に私は此処から出られるの?」


 ニッコリと笑うマグノリア様は私に手を差し出し。


「ああ、出られるよ。僕と一緒に来てくれ。君の力が必要なんだ!」


 力強く私の目を見て言うマグノリア様。


 私はこの生活から抜け出せる事からの実感か開放感からかボロボロと涙を流し。


「はい、解りました。一緒に行きます」


 泣きながら差し出した手を握った。


 この時の私は知らなかった。

 私が差し出した手を握った瞬間、マグノリア様が口を歪ませたことを。

 彼が私を助けたのは私を利用する為だということを。


 本当に知らなかった。

 あの時までは。

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