第3話「仮想敵ヤエザキ」
信条戦空と桜愛夜鈴は、チュートリアル全部をすっ飛ばして。
和風レストランで食事をしてから。戦闘可能フィールドへ出た。
「てゆーか、何か食べないと戦闘可能フィールドにも出してくれないの何なの?」
「ゲームマスター。サンのこだわりらしいぜ」
久々に聞いた、センクウとヨスズの漫才的な会話に。2人はドコか懐かしさすら感じてしまった。
今回は、今までのセンクウのスキル見直しがメインの話だ。
「ダウンバーストでもビックバンバーストでも、漢字に直して爆発拳にしたとしても……。たぶんヤエザキの『森羅万象のワルツ』や、最後に食らった『反魂』にも勝てない。ウチも成長しないと、変わらないと。あのヤエザキには勝てない……! S極やN極で何かやる技を考えたよな? アレ何だっけ?」
「リニア新幹線でしょ? でもあなたの場合油断とか、車と関係してないと。……たぶんヤエザキちゃんには勝てない」
センクウは珍しく悩む。
「う~ん……」
「もう一つあったわよね? 確かスチームバースト、蒸気エネルギーで戦うやつ」
「エネルギーかー……」
「蒸気拳とか磁界拳とかになるんじゃない? センクウの場合」
と、すこしの助言をしてから。ヨスズも考えを改める。
「あ~あ。私も新技とか考えないとなぁ~~~~」
「光空拳ってのもアリか? ……でも、な~んか違うんだよなあ~」
「風の光って意味なら、風光拳になるんじゃない?」
センクウがヨスズに難しい話はわかんない、と愚痴をこぼす。
「ウチ考えるの苦手だからなぁ~……」
「難しいことは私が考えてあげるわよ。考えてる時間が惜しい、体力を鍛える時間に充てたい。って言うなら。……そうね。『右手が風光拳』、『左手が蒸気拳』『右足が磁界脚』、『左足が戦車脚』……かな。この4つのスキル技を主軸とした戦術で挑むしか無いわね~。それから応用技って感じ?」
「それを極めれば、今より強くなれるのか?」
「少なくともヤエザキちゃんの〈領界〉で戦うには、これらで挑まないと文字通り話にならないわね。射程範囲って言うのかしら?」
「まぁ、とにかく。……、あんたの場合、単純明快にした方が良い。右手左手右足左足、全部技を固定して、それを基礎として応用技を使うのが良いかなと」
「そんなんであのヤエザキに勝てるかなあ~?」
「少なくとも名前負けはしないはずよ。実力は知らないけど、そこから応用技を使えば、〈戦空は右手から反魂風光拳を使った!〉……ほら、それっぽい」
「……確かに」
「言葉では、これで互角のはずよ、言葉ではね……!」
言葉でその意味を強調する。ハッキリしているのは言葉だけじゃヤエザキには勝てない、と言うことだ。信念、そう彼女にはこれまで培ってきた信念がある。それは同時に、センクウには無いものでもある。
若者らしい根拠の無い自信しかセンクウには無いのだ。
次は実戦だ。
一番弱い初期モンスター、ブタに対して攻撃を繰り出してみる。順番に技を確認して体に馴染ませる。
「スキル発動! 風光拳!、蒸気拳! 磁界脚、戦車脚!」
まずは単発ずつスキルの実際の動きを確認する。
風光拳は右手から、光の風を纏いながら打つ。比較的簡単なスキル。発動の出が早い分、威力は最弱だ。
蒸気拳は左手から、水力火力風力のような自然エネルギーを攻撃用に変換する。この場合蒸気機関車のような水煙をまくし立てながら、拳から霧が発生する。
磁界脚は右足から、磁場を元にして動くので。比較的S極とN極の磁力に左右される、摩擦が0故に滑りやすいが、浮遊することが容易になっている。
戦車脚は左足から、大砲のように力を装填してから爆発的な攻撃力を叩き出すが、反動も対策をしてないとよろける。逆に地面に力を入れて踏み込めば、戦車脚は力の流れの関係上。風光拳の威力が増す。……などだ。
それを数回くり返す。左右の拳、左右の蹴り。からの連続多段撃。
初戦なのでタダの豚はすぐに倒されてしまうので。もうちょっと手応えのある相手が居ないと。その真価が理解しずらい。
「仮想敵はヤエザキだから、ヤエザキと戦いたいけど……」
ヨスズが言う。
「今日はログインしてないわね」
「ん~プレイヤーが居ないとなると。もっと手応えのあるモンスターと戦わないと真価が解んないな。ヨスズは組み手手伝えないか?」
「まだ無理ね、何にもカスタムしてないし」
お手上げ状態だった。
「じゃあまず、ギルド広場の討伐掲示板でも見て。適当に強そうなモンスター探すか」
「それで良いんじゃない?」
ギルド『四重奏』の2人、センクウとヨスズは一度街に戻って。冒険者ギルドへ向かうのだった。
豆知識3◇#風光拳、蒸気拳、磁界脚、戦車脚。
分類◇#スキル #基礎 #信条戦空 #基礎の型 #第1章
解説◇今までの爆発拳だけでは、勝てないと悟ったセンクウは。ヨスズに考えてもらった4つのスキルを基礎に戦術を立て直すことにした。だが、本人はまだ慣れてないので鍛錬が必要だ。