第17話「光と闇を受け入れろ 戦空全編」
「自分の中の光と闇を受け入れろ……か……」
信条戦空がその場に降り立った……。
闇のセンクウは言う。
『全ての旅路を理解した、その上で何を欲する?』
光のセンクウは言う。
『光と闇はドコまでも自分を伸ばす。だから、牛、熊、お金、作家、学者、はたまた神様……それらは理解してるものとして話す……』
普通のセンクウが身構える。
「俺は俺自身を、既に認め終わってる」
闇のセンクウは言う。
『そんなことは解ってる。過去、現在、未来……そこに、ヒーローとしてのお前はいる。いつも、大事なことだけを口にする存在に……』
光のセンクウは言う。
『だからこそ、改めて問おう。単純明快では無く、複雑怪奇でもなく。お前自身に問う』
光と闇は、冷静でも情熱でも無く、自分を見つめ直すように言う。
『『――お前は何のためにヒーローをやっている?――』』
「……、……」
『『誰にでも、何にでも慣れる。出来ないことは何も無い。時間も、空間も、魂も、現実も、精神も。全てお前の手の中で決まる。……そんなお前は、力を得て。力を知って、力を操作して。何をしたい? 敵役……、ヴィランさえ自分で作らねば。光である自分を演じられない。そう解った、今。争いの種は自分だと、もう解ってるはずじゃ無いのか?』』
光は言う。
『ウチ、と大阪に留まるネコを演じる必要も無い。ましてや群馬のうさぎを演じる必要はない。命は、ここにある』
闇は言う。
『運命も強者も、そんな力は持たないと知っても。なら素の自分はどうやって自己を保つ?』
普通のセンクウは言う。
「そうだな、ウチは。きっと、つまらないことから目を背けたかもしれない。だから会話にも入りたくなかった、いや。入らなかった。だから、ここはウチはもうお前らを受け入れてる」
光と闇は言う。
『『そんなことは、もう解っている。重要なのは、皆に受け入れられるかどうかじゃないのか? 人の、他人の心をただ恐れてたら。ずっと、1人のままだぞ』』
「あれ? でもこの場所は、ウチ1人の戦いで……」
『『お前の光の中にも、闇の中にも。皆いるんだよ』』
「いや、そんな大きくても解らないし……、あ、逆に1人なのか……」
『『その狭間の中に、お前は居る。その狭間を操作出来る力が。お前の中にもある、意味は、解るな……』』
「うん」
闇は言う。
『その上で、どうして戦いたいなんて言うんだ? まだ観ぬ強者を探すんだ? 争いは争いしか生まない、面白さを求めて、刺激を求めてたら、街が業火で焼き尽くされるだけだ』
光は言う。
『何もしないことが一番なんだよ、見て見ぬ振りをして。愛想笑いでやり過ぎれば世界は平和なんだよ。だから……』
光と闇は言う。
『『お前が何もしなければ、平和だったんだよ』』
何かすれば何かが帰って来る、良くも悪くも。だから何もしなければ……平成で居られたんだ……。って言ってる。
「だから、令和は訪れたと? ウチは、心の底で令和はいらないものだと……変える必要は無かったって……そう思ってるのか?」
光と闇は言う。
『『何も解らず、平成を終わらせたいと願ったのは。ウチらじゃないか……それが結果として。皆を突き動かした、知らなかったで済ませるなよ。それじゃあ、生まれてきた令和が、あんまりじゃないか』』
言いたいことは解る、だが。
「ウチは生きたいんだ、銅像じゃない。食べるし、出すし、時には労働だってする。望みたくても動けない人も居る。だから動き続ける。アクションもリアクションも、行動も反応もウチなんだ」
光と闇は言う。
『『別にウチらは今回、真っ直ぐな直線、ストレートを否定したいわけじゃ無い。ただ、それを知って受け入れろと言ってるんだ』』
「うけいれる……」
それは2つの光と闇……。
『『そうだ、令和が生まれたのは自分。平成を終わらせたのは自分。それを……受け入れろ!』』
「……ッ!」
その時、信条戦空は初めて自覚した。
歴史は、時代は、とてつもなく重い、重責だ。
だが。
「時代は、個人の所有物じゃない、皆のものだ、それこそ、皆で育てるものだ! もしお前等が、〈世界の全ての光と闇〉だって言い張るのなら、誇りも誓いも持って、ちゃんと受け止めてやる!」
『『きれい事だな、ま、今回は受け入れるだけだ。お前はもう乗り越えた存在だしな、ここらでお開きにしてやる』』
「じゃあ、もういいのか?」
『『あぁ、今回はな。お前とはまた会いそうだ、また会おう』』
《イベント名「光と闇を受け入れろ」。プレイヤーセンクウ、ゲームクリア!》
◆
センクウは、ギルド中央広場に戻ってきた。ただ自分を認めただけ、受け入れただけ。それだけのはずだ……。
「なんか……素の自分を受け入れろってだけだったな」
センクウにとっては、世界と異世界が同時に存在している。そんな不思議な体感をしただけだった。
「昇るところまで昇っちゃったなあ~」
と、ポツリと呟き。デジタルの空を観るだけだった。