第16話「光と闇を受け入れろ 夜鈴全編」
光のヨスズは言う。
『ずいぶん入ってくるのが遅かったわね』
闇のヨスズは言う。
『そんなに自分が嫌いなのかしら、クスクスクス』
――そう、私は私が嫌いだ。
――だから。
「絶対に負けない」
光と闇のヨスズは、まるでいじめっ子達のように。ただ笑う。
『『あははははははあははっはあはあはっはは!!!!』』
――自分を受け入れる、その難しいことを決意するだけでよかった。
――そう、決意出来れば。の、話だが……。
「……、一つ言わせて。いや、約束して」
『『!、……なに?』』
「これは私と世界の戦いじゃ無い。私と私と私。3人だけの戦い。例外はない」
『『……、ええ。そのつもりよ、ただし、誰かが観てることは否定させてね。それだと桃花先生もルール違反になっちゃうから』』
「……、わかった」
決意を新たに、、桜愛夜鈴は。自分の光と闇を見つめる……。それは嵐の前の静けさのようだった……。
◆
普通のヨスズは刀に手を取る……。
闇のヨスズは言う。
『あれ? 話し合いはしないの? 暴力に訴えかけちゃうの? 折角話し合いの場があるのに? ヤッチャウ? の? それって〈逃げ〉じゃ無いの?』
光のヨスズも言う。
『そうだよ! 戦いはよそうよ! 何も生まれないよ? 戦えば壊される世の理を知ってるでしょ? あはは!』
普通のヨスズは言う。
「その自分を着飾ってる態度がムカつくんだよ!」
闇のヨスズは言う。
『あはは! それって自分が他者からどう観られてるかって事じゃ無い? こう観られてるんだよ? 自分が着飾ってるんだよ? キャプキャピしてるんだよ? キモいよねえ~自分で解っててキャピキャピしてるんだよ? キモいよね~!』
光のヨスズは言う。
『か! 勘違いしないでよね? 私は私のために言ってるんだよ? 暴力は負けだよ? 戦ったほうが負けだよ? 先生に言いつけちゃうよ?』
光と闇のヨスズ
『『あはははは! 戦った方が負けなんだよ負け負け負け! 完全敗北ヨスズちゃん! 観たいなあ~負けて絶望に墜ちちゃう所! トロットロだよ! あ~考えただけで背徳感で絶頂しちゃうううううううううう!!!!』』
普通のヨスズは怒りで満ち溢れる。
「やっぱりだ! コイツらは殴って解らせて従わせ無きゃ気が済まない! そもそも前提条件が間違ってる! ココには先生も下級生も居ない! ただ! 私が居るだけだ! ただの……私が……居るだけ……」
――そうヨスズが居るだけで誰もいないのだ。
――だからこの〈私〉を受け入れなきゃ前に進めない。
光と闇のヨスズが背徳感で滲む。
『『あぁ~この背徳感気持ちいい~! 自分で自分をいじめてる! ツンツンデレデレ! デレデレツンツン! このギャップがたまんない! 心の隙をツツイテツツイテ、弱ったところを舐めてあげる! ペロペロペロ! てへてへてへ! コレこそ私! これこそあなた! さあ受け入れて! 受け入れて気持ちよくなろうよ! 最高で最強だよ! 皆お世話になってるよ! あははははははははははははははひーあはははははははっは!!!!』』
――そう、これがヨスズの良い部分であり、悪い部分である。
――認めなきゃいけない。これが私だ……って。
――殴って済む問題じゃ無い、コレが、私なりの『愛』の形なんだ……。
「そう、これが私なんだ……認めなきゃいけない。受け入れなきゃいけない、でなきゃ一歩も前に進まない」
嫌がってた理由がわからなかった、さっきまでは。こいつらはどう見たって断罪対象だ。情状酌量の余地無く、道徳の度を超えている……。
「でも、受け入れなきゃ前に進まない……ク!」
光と闇は気持ちよくなる。
『『クッコロかな? ざーこ! ザーコ! 負けちゃぇ負けちゃえ! 受け入れちゃえ! さっき絶対に負けないとか言ってたのに! もう負けちゃいそう! あ~終わっちゃう! 敗北しちゃう! 負けちゃぇ負けちゃえ負けちゃぇ負けちゃえ負けちゃぇ負けちゃえ負けちゃぇ負けちゃえ負けちゃぇ負けちゃえ負けちゃぇ負けちゃえ負けちゃぇ負けちゃえ負けちゃぇ負けちゃえ! ひ~はははははははははははは!!!! 気持ち悪い!!!!』
普通のヨスズは言う。
「何勘違いしてるの? 悲劇のヒロインを、またまた演じるつもりは毛頭無い。さらさらない。私は私を受け入れて、その上でお前等を使役し、上に行く。いや、上でも下でも無い。共存する道を選ぶ」
闇と光のヨスズは言う。
『強がりだー』
『弱がりだー』
「そこで重要なのは、〈負けて愛しちゃう私も。勝って愛しちゃう私も居るってこと。〉対義語だけならね」
闇と光のヨスズは驚愕する。今までそんな気持ち無かった、負けて敗北して終わりのビジョンしか無かった。
『『!? 何その思考……! そんな私知らない……!』』
「そりゃあ人間と対話してるんだから、そういうことだってあるでしょ? 私は、愛のある私も、愛のない私も。受け入れるって言ってるの、その二つの世界を統べるのが、真の王だから」
光と闇のヨスズは抵抗する。
『『そんな! 結果は無いわ! 私には、勝っちゃう私と負けちゃう私しか居ない! そして負けちゃう私の方が価値がある! だから負けちゃう私の方が善なのよ!』』
「でもさ、この世の中には〈引き分け〉に価値があるゲームだってあるのよ。結果を出さなきゃ隠蔽も許される。そんな世の中を、私は受け入れる」
『『み! 認めない! 私は! あなたが屈服して! 苦悶の表情を見せるのが好きなのに! 大好きなのに! そんなの……そんなのって……!』』
「あら? 立場逆転? 私そういうのも好きよ? リバース。だから今度は。あなた達が私を受け入れる番よ。光と闇の私が、この普通の私を受け入れられどうか」
『『は!? こんなつまんなくて、価値がなくて、苦悶と愉悦の表情も無い私を受け入れろって! そんな私なんて! 認めるわけねええええだろうがああああああああ!!!!?????』』
「私は認めた。ツンとかデレとか、燃えとか萌えとか、まあ悪くないけど。良い加減、負けてイキ続けてる私は見飽きたわ。それでフェードアウトする作家は正直、2流作家よ」
『『は!? はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?』』
ブシュン!!!!
光と闇のヨスズは、自分自身に耐えきれず。実体化出来ずに逃げ出した。
「今度は、私を受け入れてね。光と闇、価値のない私を受け入れてね」
――言って。
「お~い。私は受け入れたのに。光と闇の私は逃げちゃったよ~。この場合どうなるの~?」
《審議中、審議中……。光と闇を受け入れろ、はプレイヤーヨスズが受け入れるイベントです。よって、普通のヨスズは受け入れたのでイベント自体はクリアとなります》
「はぁ……、ずいぶん気持ちの整理がつかなかったけど。踏み込んで観れば……あんがいチョロかったわね……私……」
《イベント名「光と闇を受け入れろ」。プレイヤーヨスズ、ゲームクリア!》
◆
ゲートの外へ戻ってきたヨスズは安堵した。
「はぁ、冷静に考えて気持ち悪かったわ……私……」
そこにはソウヤとアユミが居た。
「大丈夫だった? 精神崩壊とかない!?」
「心配したぜ! ……イヤマジで!」
「まるで保護者みたいじゃない、大丈夫。自分で乗り切ったから。あぁ……、あとはセンクウか……」
ギルド中央広場はやはり阿鼻叫喚な声が聞こえる。果たしてセンクウは自分自身を受け入れられるだろうか……。