第13話「光と闇を受け入れろ 双矢前編」
てくてくてく……。ゆっくり、一歩ずつ、確実に。彼は歩き続ける……。
「さて、……鬼が出るか蛇が出るか……」
相変わらず鏡しか無い無機質な広々な部屋で。彼らに、光と闇に出会った。
そこには、白いソウヤと黒いソウヤが居た……。影のような炎のようなその実体は、個性というのを極力排除した、いわゆる魂だけの存在のようにも見えた。
そこで、開幕一番は普通のソウヤから口を開くことになる。
「お前らは、……今までの出来事を全部解ってる奴らだな」
『『そうだ』』
光と闇のソウヤは声を重ねる。恨み辛みがありすぎる静かな炎は何もまだ語らない。
「色々あるだろうが、今日は【受け入れに来た】んだからな。そこを間違えるなよ」
そこには中二病の〈生身の自分自身〉が居た。だから素のままで喋る。
黒の騎士3人は語る。過去や今までの事では無く。これからの事のために……。
「さて、どこから話すか……」
『そうだな、それが問題だ』
『ありすぎて解らんな……』
3人とも腕組みをし、その炎はとても静かで、しかし意思は硬かった……。
「……別に今さらいがみ合ってもしょうがないしな……、お互いが持ってる最新の情報を共有しようぜ」
まず光のソウヤが言い、闇のソウヤも返す。
『それなら、まず桃花先生だが。あのピクピクの症状は動画に関係してる事が解ってる』
『それは知ってる、それで何とかしようと思って。あっちコッチアクションを起こしてもまるで良くならないから困ってるんだろ』
光のソウヤが、普通のソウヤに言う。
『で、新しい情報だ。彼女は動画制作中ペンタブを持ちながらロボットになりたいと願ってたのは覚えてるな? それが叶えられてる。だからデータも、文章も残ってないんだ』
「は? 何だソレ……」
『更に、零時迷子の関係上。午前零時に自動回復の自在法が発動して、せっかく軌道修正したいのに。その微々たる軌道修正を1日の内に誰かが修理しちゃってる可能性が生まれた』
「おいちょっと待て、桃花先生は人間だぞ……!」
『動画だけを見ればな、だが世間的には。半分人間半分ロボットのサイボーグ扱いらしいんだ。男か女かどうかは、まだ判断は出来てない』
闇のソウヤが現実を突きつける。
『それで現実世界で12年間、痛みを伴った回復や快楽。果てはいわれの無い罰を与えられてるって感じだな。男女はともかくとして』
流石にそれはと、怒りを覚える普通のソウヤ。
「おい、そりゃあんまりだろ! 桃花先生が、あんなに苦労をして。3年間苦労して、それこそ人生を賭けて。作品を完成させたのに、読者を喜ばせたいのに。その見返りがその後12年間の、今も痛み続けてるって……! おかしいだろ!」
闇のソウヤは現実をもう一度突きつける。
『世間的にはそれを自業自得と言うらしいぜ、よくもあんな酷いことをしたんだ! って感じでな』
「そんなの……本人は知らなかったじゃないか! そんな力があるとも知らずに、頑張って頑張って頑張って。ようやく得られた成果を今は泣く泣く非公開にしてるんだぞ。……そんなのってあるかよ……!」
闇のソウヤは他人事じゃ無いぞと釘を刺す。
「そういう世界に、結果的にしてしまったのは俺達3人だ。ことの出生はともかく、桃花先生のドコに落ち度がある? 悪いのは俺達だ、永遠に動き続ける時計や。VRで寝たきりにして脳に負荷をかけてしまった。俺達男3人の選択と責任だ。そうさ、それこそ責任だろ?」
光のソウヤは普通のソウヤに言う。
『もう、桃花先生だけに謝った所で零時迷子は動き続けて、自動回復するところまで解ってるんだ。なら、俺達に出来ることは、この事実を現実世界の警察にホウレンソウで言う事ぐらいしかないだろ?』
闇のソウヤは助け船を出す。
『一歩ゆずって心の病院だろうな。あっちなら何だかんだうやむやにしてくれて丸く収めてくれるさ。会社は潰れて、薬は新しいのにすり替わる。何て綺麗な世界なんだろうな、ははは』
普通のソウヤは握りこぶしを作る。
「お前ら、本当にソレが正しい世界だと。本気で思っているのか?」
闇のソウヤは。
『言っちゃ悪いが、それらを忘れてたお前が悪い』
光のソウヤは呆れる。
『責任のなすりつけ合いはゴメンだぜ。どうせこの3人、全員に罪はあるんだ。あとはお前が受け入れるかどうかしか無いんだぜ?』
「で、罰則は? おれは懲役何年なんだ?」
『それを決めるのも結局俺達の手だ』
『もはや謝って済むレベルを完全に超えてるぜ?』
言って、光と闇のソウヤは。
『『それを受け入れられるかどうかさ』』
普通のソウヤはそれでも言う。
「一応聞くが、1人でうろちょろしてるだけで。俺に罪があるのか?」
闇のソウヤは。
『それは12年前の話さ。今はどうだ? もはや謝って済む問題じゃ無いぜ? 罰金・罰則・警告、とにかく何でも言い。桃花先生が苦しんだ分の報いを受けなくちゃいけない……。俺、なんか変な事言ってるか? 間違ったこと言ってるか? 的外れな事を言ってるか?』
光のソウヤは。
『いや、言って無い』
そして光と闇のソウヤは言う……。
『『さぁ、受け入れろ!! 現実世界で断罪を受けろ!!』』
「……、……それで前へ進めるのなら……」
もはや弁護しようの余地もない。完全に追い詰められた状態の、普通のソウヤだった。
そこに救いの手は、果たしてあるのだろうか……? 少なくとも今は無い、手詰まりだった。