第11話「光と闇を受け入れろ 文美前編」
西暦2035年10月2日。
EWO3、メンテナンスが終わり、ゲーム再開となった。
メンテでは特にシステム的な変更点は無く、あったことと言えば非公式にゲームマスター2人に体温計っぽいのを配られた。ことぐらいである。
ログインしたギルド『四重奏』へ待っていたのは新たな期間限定イベントの告知だった。
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《イベント名「光と闇を受け入れろ」》
~難易度A~
1フィールド、1プレイヤーのみ参加可能の期間限定クエスト。
自分の過去と未来、善と悪、光と闇。2つの世界を受け入れて新たな力と成せ。
報酬は、環境『万華鏡』。
効果。
1プレイヤーのみに発動可能。発動したプレイヤーの光と闇、2つの幻影を現出させることが出来る。この幻影には実体があり、本人の意思とは関係なく自立して動ける。また本人のスキルは全て使える。
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「お、ついに来たかイベント」
センクウは喜ぶが、ヨスズは内容に不安な様子。
「これって、自分の光と闇と出会って。それらを全て受け入れろってイベントでしょ? ……ん~、私自分の闇を受け入れられるかしら?」
ソウヤはソウヤで「大丈夫かこれ?」と不安になる。
「自問自答とは違うのか? 実体があるって事は交渉だけじゃなく、戦闘にもなるのかな?」
アユミもアユミでちょうど良いと少し喜ぶ。
「私にとってはちょうど良いかな~。自分を見つめ直せるし~」
どうやら都合がいいらしい。
「じゃああとでな!」
「行ってきます!」
「闇に飲まれるなよ!」
「それじゃあレッツゴー!」
というわけで、4人はそろぞれ。別々のゲートを潜って、環境『万華鏡』の中へと入って行った。
◆
「光と闇を受け入れろ 文美前編」
◆
フィールドは鏡だらけだった。
まるで不思議の国のアリスの世界に迷い込んだような雰囲気だが。その実、鏡しか無いのでどちらかというと無機質だった。
そしてアユミの目の前には白色の自分と、黒色の自分が待っていたかのように立っていた。
光のアユミは『こんにちわ~』と言い、闇のアユミは『こんばんわ~』と言った。
普通のアユミは「こ、こんにちわ? で良いのかな? こんばんわ?」
光のアユミは抱きついてきた。
『堅っ苦しいことは抜きにしてさー、速くアユミの全てをさらけ出して欲しいなあ~』
闇のアユミは抱きついてきた。
『ね~ね~速く遊ぼう、体を交わらせてソウヤ君を悩殺しようよ~』
光と闇のアユミは声を重ね合わせて言った。
『『速くソウヤ君と愛を通い合わせたいよねえ~♪』』
(あ、やっぱりこれ精神攻撃系のイベントだ……イヤ違うか……)
コレは最初から攻撃をする口実作りのためのイベントじゃ無い。
自分を【受け入れろ】、それがこのイベントの最大の難問だ。
光と闇のアユミは交互に言う。
『さぁさぁ、堅っ苦しくならないでね? 甘い甘い言葉を交わしましょう』
『私は私なんだから、さっさと観念して受け入れれば良いんだよ?』
『『ソウヤ君と愛を通い合わせたいって~~~~♪』』
「イヤちょっと待って! 話が飛躍しすぎ! 第一私はそんな……ソウヤくんとは……」
光と闇のアユミは重ね合わせて言う。
『『何を言ってるの? これは私、アユミ自身の本音だよ? 本心だよ? 過程や行程なんてすっ飛ばして、速く一緒に居たいよね。永遠にずっと愛し合いたいよね? ずっと幸せで幸運幸福な、家庭を築きたいよね?』』
普通のアユミは焦る、ヤバイ、これは恥ずかしい奴だ……!
「だからまだだって! まだ会って間もないんだよ!? 記憶だっていまいち解ってないし……」
光のアユミは。
『速く受け入れようよ! 説明なんていらないよ! 証明もいらないよ! もうずっと解り合ってるじゃない! 婚期逃しちゃうよ! 巨乳なのに』
闇のアユミは。
『それとも、ずっとすれ違いで甘えたいのかな? 悲劇の少女を演じたいのかな? また虫の中に墜ちちゃうよ? 巨乳なのに』
「ひッ……!」
心の中で響く、念じる。まるで呪いのように……。
(受け入れろ! 受け入れろ!受け入れろ! 受け入れろ! 受け入れろ!)
光と闇のアユミは重ね合わせて言う。
『『速くソウヤくんと交わりた~い♪』』
(これを、……受け入れろって言うの……!?)
アユミは、混沌の中に魅了を観た……。
闇のアユミは「クフフ」っと半笑いをする。
『精神攻撃って基本だよね~♪』
普通のアユミは決意を硬くする。
「た、確かに。記憶も、想い出も何もかもズタズタに引き裂かれたかもしれない。接合性なんて何もかも無くなって! 過程や行程をすっ飛ばして、速く結婚したいって言う欲求もある……」
一泊「スウ……」、と息を吸って。間を置いてから……。反論する。
「でもそれは! 歩みをすっ飛ばした先には無いと思うの!」
これも本心だ、自分の本心には本心で立ち向かわなきゃ勝てない。
『『……』』
そして、それでも、そんな簡単に、いかないから〈難易度A〉なのだ。
闇と対峙するだけならまだ難易度も低かったかもしれない。ここには光の自分も居る。
自分の影だけと戦って勝つだけなら、単純明快だったかもしれない。
光のアユミが言う。
『ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。それを受け入れて。私達がどれだけ本気か……。遊んでる場合なんて無いんだよ。速く、指輪を、ほら。速く速く速く……!』
「!?」
それは遠い何処かの記憶。
闇のアユミは言う。
『いいよね、寿命が長い人は……。もしたった1週間しか生きられなかったら……。世界があと1日だけだったら。同じこと言える? ねぇ? あはは♪ あ~あ、娘が欲しかったなあ~♪』
2人対1人、しかも本心と本心のぶつかり合いな上に、基本ただ喋るだけ……。だからキツイのだ。
光と闇のアユミは重ね合わせて言う。
『『速くソウヤくんと交わろ~よ~♪』』
この精神攻撃は、普通のアユミにはとてつもなく効く……。
そしてこれは、普通のアユミが乗り越えて、受け入れなければならない壁だ。