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颯陸 翔は殺せない....  作者: 気宇由。
9/29

第9話 刺客登場!

「翔さん..いつまで掃除やってんすか? 学校遅刻しますよ?」

「急かすな。心の乱れは掃除に支障をきたす」

「はいはい..」


 翔さんはいつもこうだ。部屋の掃除をし始めるとキリが無くなる。毎朝遅刻ギリギリに登校するのにも慣れたほどである。そんないつものなんの変哲もない1日の始まりなのだが、昨日ファルコンさんから気になる報告があった。


「そいえば翔さん、昨日ファルコンさんが言ってた《アナコンダ》って何なんですか?」

「今ロシアで最も力を持っているというマフィアの組織の名だ。1、2年前からモスクワを根城に力をつけていたらしい」

「え?! そんなヤバいとこの人がこの日本に?」


 ファルコンさんの話ではそのアナコンダという組織の目撃情報がこの日本であったらしい。奴らには近づくなと言われたが、そもそもどんな人物なのか分からない為対策のしようが無い。


(ま..まあ..そんなにスゴイ組織の人たちと出くわす事なんてないでしょ..)


 多少の不安を抱きながら、俺は翔さんと学校に向かった。教室に着くと、なんだかざわついている。


「なんか今日はやけにみんなソワソワしてません?」

「そんな事はどうでもいい..今日こそは標的を..!」


 相変わらず強子さんに夢中の翔さんだが、そんな翔さんに噂の標的が声をかけてきた。


「おは! リッくん、伊男くん! 知ってる? 今日転校生が来るんだって!」

「転校生? この前俺たちが来たばかりなのに?」

「そそ! なんでも帰国子女だって話よ!」

「へ..へえ..」


 なんか凄く、いや物凄く嫌な予感するが、大丈夫だと自分に言い聞かせ、俺は席に着いた。


「お前ら席すわれぇ! ホームルーム始めるぞぉ!」


 先生の号令で生徒たちは一斉に席に座る。そしてざわつきが収まったところで先生が言った。


「知ってる奴もいるかもしれんが、今日から転校生がこのクラスにやってくる。みんな仲良くするようにな。よし、入っていいぞ」


 [ガラガラ!!]


 扉を開けて入ってきたのは金髪ロングに整った顔立ちの女の人だった。高校生とは思えないその見た目に生徒たちは見惚れている。


「すっげえ美人..外国人かな?」

「ていうか胸でかくね?」

「俺声かけてみようかな(笑)」


 ざわつく生徒たちの声を横耳に俺も少しホッとしていた。


(なんだ..もしかしたらアナコンダの人が来たりしてとか思ってたけど、普通に美人な女の人だったな)


 そして先生の合図で転校生の女の子は口を開いた。


「ズドラスートヴィチェ..いや..ここは日本だったな..私の名前はアンナ・ウラジーミロヴィッチ。貴様らのような下等な奴らと一緒に過ごすのは苦痛だが、これも任務..いや、私の目標の為だ、よろしく」


 いや、これは安心できない。挨拶の癖が誰かさんに少し似ている気がする。俺は恐る恐る翔さんに尋ねる事にした。


「翔さん..? ズドラスートヴィチェって何語ですか?」

「ロシア語でこんにちわだな。それにあいつ、懐にショットガンを隠してるな..」


 はい絶対に確定。昨日ファルコンさんが言っていた人の正体は絶対にこの人だ。しかし何故よりにもよってこの学校に来たのだろうか。すると、女の人は強子さんの前に行き、鋭い眼光で睨みつけ言った。


「 Я похороню тебя в аду!!」

「え? なんて言ってるの? もしかして私の友達になりたいの? 大歓迎だよお! よろしくね! アンナちゃん!」


 何かとてつもない事を言っている気がするので翔さんに聞いてみる事にした。


「翔さん..? あの人今なんて?」

「貴様を地獄に葬ってやる。だな」

「めちゃくちゃ怖い事言ってますやん!」


 という事は、この人の狙いも強子さんという事なのだろうか? なんかもう強子さんって何者なんだろう。こんなにヤバい人たちに命を狙われるなんてそうそうある事では無い。俺は翔さんに言った。


「翔さん..! あの人も強子さんを殺す為にここに来たっぽいっですよね? どうします?」

「標的の重複は殺し屋界ではよくある事だ。奴より先に殺せばいいだけだ。いつも通りでいい」


 ファルコンさんの言った通り、アナコンダの一員に関わって抗争でもおっぱじまったら嫌なので、とりあえず関わらないようにしようと心に誓い、1日が始まった。


「ねえねえアンナさん! 連絡先教えてよ!」


 男の生徒がアンナさんに声をかけた。アンナさんは生徒を睨みつけ言う。


「組織の機密情報をここまで素直に聞いてくるとは..ジパングの連中も落ちぶれたものだな..」

「は..はい?」


 すると、アンナさんはあろう事か、懐に隠し持っていたショットガンの銃口を男の生徒に向け言った。


「ケツの穴2つにされたくなかったら今すぐ消えろ..子宮から出直せ坊や」

「ちょちょちょ..! あんた何やってんの?!」


 俺は思わずアンナさんに声をかけてしまった。


「ん? 誰だ貴様..」

「佐江那 伊男です..! こんな所でショットガンぶちかましていいわけないでしょ?!」

「知るか! 1人や2人殺すくらい日常茶飯事だろ!」


 言うまでもなく、声をかけた生徒は唖然としている。俺はすかさずフォローに入った。


「あー..気にしなくていいよ! これモデルガンだから! この人サバゲーオタクらしいんだよ..」

「へ..へぇ..そっか」


 若干引き気味ではあるがとりあえずこんな所でいいだろう。それにしてもこの人は翔さんよりもタチが悪いかもしれない。こんな所で騒ぎを起こされては俺たちの任務にも支障をきたしてしまう為、これは何か対策を考える必要があるとしみじみ感じていた。俺は小声で翔さんに相談した。


「翔さん..あの人かなりヤバいですよ? このままだと..」

「喋るな..今標的を殺すためのイメージトレーニングしている所だ..」


 翔さんは相変わらず強子さんに夢中で聞く耳を持ってくれない。これは俺が何とかしなければ。そう考えているうちに今日の授業も終わり、帰りのホームルームが終わりを告げた。


「伊男、今日こそ奴を仕留めるぞ」

「は..はい」

(あれ? いつの間にかアンナさんが居ない..)


 いつものように強子さんの後を追う俺と翔さんだが、アンナさんのことも少し気になっていた。あの人がこのまま真っ直ぐに家に帰るとは思えない。


「伊男、標的があの曲がり角を曲がった所で仕掛けるぞ..」

「分かりました!」


 翔さんは先回りして強子さんが来るのを待つ。そして、強子さんが角を曲がった時、すかさず翔さんがバタフライナイフを構えた。


「来たな! 開運寺強子!!」

「ん? 貴様は教室にいた奴..?」

「やっと見つけだぞ! 颯陸翔!!」


 これは最悪な事が起きてしまった。偶然ではないと思うが、翔さん、アンナさん、しのぶさんの3人が曲がり角で鉢合わせてしまったのだ。3人は数秒睨み合って、口を開いた。


「お前..ロシアンマフィアの奴だな? こいつは俺の獲物だ、邪魔をするなら貴様も殺す」

「ほぉ? 小さすぎてマトリョーシカかと思ったぞ..貴様如きが私を殺すと..?」

「翔! 早く私を痛めつけ..! ではなくて、早く私に稽古をつけろ!」


 収拾がつかなくなってしまうので俺は3人の仲介に入る事にした。正直今すぐ帰りたい。


「3人とも落ち着いてください!! とりあえずしのぶさんはこっち来て!」

「お前は冴えない男か」

「おいドM変態女、佐江那、伊男。な? ちゃんと区切れ?」


 とりあえずややこしくなるのでしのぶさんをこちらに引き留め話を続けようとした時、強子さんが言った。


「3人とも! 仲良くしなよ! 心配しなくてもみんな平等に友達だから!!」

「えーとぉ..強子さん..これ以上拗らせないで..」


 翔さんとアンナさんは依然として睨み合っている。そして、アンナさんが懐に持っていた拳銃を翔さんに渡し言った。


「やった事あるだろ? 勝負はこれで決めよう」

「早撃ちか..死んでから後悔するなよ..」


    [ヒュ〜〜]


 辺りは風の音だけが聞こえる。緊迫した空気の中2人は睨み合い、そしてお互いが懐にしまった拳銃を構えた。


「クシュンッ!!」


 その時だった。あろう事か強子さんが大きなくしゃみをした。アンナさんは強子さんを睨みながら翔さんに言う。


「先にあいつを殺そう」

「あの女を簡単に殺せると思うなよ..あいつは只者じゃない.」


 気を取り直し、再び互いが睨み合う。周囲は風の音だけが聞こえる。そして2人が懐から拳銃を取り出し構えた。


「な..何故だ..?」

「お前が探しているのはこいつのことか?」


 2人が拳銃を構えたと思いきや、アンナさんは何も持っていなかった。何が起きたのかと驚きを隠せないアンナさんだったが、翔さんが2丁拳銃を持っていた事に気付き言った。


「いつの間に..私の拳銃を..?」

「お前が構える一瞬の隙に奪ったのさ..お前の負けだなミス・アナコンダ..」

「バカな..」


 アンナさんは悔しそうに唇を噛み締める。まあでも仕方ないよ、相手は最強の殺し屋なんだから。


「異論はない..さっさと殺せ..」

「潔いな..さらば」


 翔さんが引き金に指をかけたその時、強子さんが飛び出した。


「翔くん! さばげー? だっけ? こんな所でしちゃ危ないよ!」

「貴様..その女を庇うと..?」


 強子さんはサバゲーと勘違いしているようだが、これはマジの殺し合いだ。俺は強子さんに言った。


「強子さん..! 今日はもう帰りましょ..?」

「だめよ! 2人が仲直りしてくれないと!」


 頼むから強子さんは帰ってほしい。これが本物の殺し合いだとバレてしまえば本末転倒である。俺がアタフタとしていると、アンナさんが行動に出た。


「そうか..そんなに私に殺されたいんだな強子! 良いだろう..!」

「ちょっ..! アンナちゃん?!」


 アンナさんはそう言って強子さんを攫ってどこかに行ってしまった。俺は翔さんに言う。


「翔さん..! 連れ去られちゃいましたよ! このままじゃ先に!」

「分かってる! 奴を追うぞ!」

「おい..お前ら..(しのぶ)を忘れるな..」


 何かめっちゃめんどくさい事になったが、強子さん暗殺の任務を遂行する為にはアンナさんをどうにかしなければならない。先が思いやられるが、俺たちは跡を追った。




読んでいただきありがとうございます。

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