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颯陸 翔は殺せない....  作者: 気宇由。
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第7話 くノ一見参!

 不登校児の騒動後、取り立ての連中は親父の所に行くようになったらしいが、人じゃないナニかに襲われたというトラウマから執拗に取り立てなくなったそうだ。こうして無事に解決し、俺たちの正体がバレる事もなく、再び穏やかな学校生活が訪れた。という訳もなく、翔さんは標的である強子さん暗殺のために奮闘していた。


「今日中にケリを付けようじゃないか魔性の女..!」

「今日は何するつもりなんすか? なんか昨日遅くまで作業してましたけど?」


 今日は一段と気合いバチバチの翔さんは、ポケットから何かを取り出した。


「翔さん?! それ拳銃じゃないすか!!」

「お前の目は節穴か? どう見てもモデルガンだろ」

「あ、言われてみれば確かに..」


 殺し屋がモデルガン持ってたら誰でも拳銃に見えるとは思うが、俺は翔さんに聞いた。


「何でモデルガンを?」

「こいつは一見普通のモデルガンに見えるが、改造を施して威力を底上げした。そうだな、黒板くらいなら簡単に風穴を開けられるだろうな」

「それもはや本物の拳銃と変わんないでしょ?!」


 俺は思わずツッコミを入れる。その時、女の人が翔さんに声をかけた。


「お前..颯陸 翔だな! この前お前がナイフを持った男たちを一瞬でのしたを見たぞ!」


 見た目は強子さんに負けず劣らずの美人だ。高めに結ばれたポニーテールが良い。翔さんは女の人を睨みつけ言った。


「何者だ..貴様..」

「私は早乙女(さおとめ)しのぶ! くノ一の末裔だ!! 夢は世界一の忍になる事だ!」


 この人は○影にでもなりたいのだろうか。ゆくゆくはお尻から尻尾が九本生えたりとかしないよな?そんな心配をしていると、翔さんが言った。


「ほぉ..スパイというわけか..余計な詮索はやめとけ、早死にする事になるぞ」

「そんな事は百も承知! 私はただ、お前の弟子になりたいだけなのだ!」

「断る、失せろ」


 翔さんは即答で答えた。あまりにも塩対応な翔さんなので、俺は気の毒だと思い自称くノ一の方を見た。


「な..! 即答..しかも..下僕を見るかのような目で罵倒..くっ..たまらん..!」

「ん? あんた最後なんて?」


 自称くノ一は何故かちょっと嬉しそうだ。しかも最後に放った言葉は俺の聞き間違いだろうか? 俺は思わず聞き返した。


「く..屈辱と言ったのだ!! 気にするな..」


 いや、絶対あの女、たまらん..って言ったよな。しかし待て、ここでまだ決めつけるのは早い。そこで俺はもう少し様子を伺うことにした。


「何故だ!! お前のように強くなりたいんだ!」

「得がない。というかそもそもお前に興味が無い」

「なっ..?! またも即答だと..?! しかもその目..ぐはっ..!」


 自称くノ一は悶絶している。察した俺はすかさず翔さんを連れてその場を離れた。


「翔さん..あいつは関わらない方がいいです。筋金入りの超ドM女です」

「お..おう」


 教室に戻り、クラスメイトに早乙女しのぶについて聞いてみたが、誰もが口を揃えて「あいつはやべえ」だそうだ。3年らしいが、言うまでもなく友達は1人もいないらしい。


「顔は可愛いと思うんだけどなぁ..」

「伊男、帰りの会が終わったらやつの後頭部に改造したモデルガンをぶっ放して気絶させ、人気のない所に連れて行って確実に仕留める」

「いやいや! 死ぬから! 廊下が血の海になって明日の朝刊でモデルガンで女子高生殺害ってなるから!」


 翔さんは本気だ。あの人の常識では人間は鋼鉄の肉体を持っていると思い込んでいるようだがそれは翔さんだけだ。なんとしても止めなくては。


「はい! というわけで話はこれで終わり! 気をつけて帰ってな! 部活のやつは頑張れよお!」


 先生の言葉で帰りの会が終わった。いよいよ始まってしまう。何としても生徒がいる中で女子高生のグロテクスな姿を晒すわけにはいかない。しかし、すでにその場に翔さんの姿は無かった....


「しまったぁ!! 考えてたら見失った..! 強子さんも教室にいないし!」


 俺は慌てて教室を出た。そして一階の廊下に差し掛かったあたりで翔さんが身を潜めているのを見た。


「いた! 翔さん..! 何度も言ってるじゃないすか! 普通の人間ならそのモデルガンで即死ですよ!!」

「ばかっ..! 静かにしろ..! お前は奴を甘く見過ぎだ..あいつはただの女子高生じゃない..」


 翔さんが狙いを定める方を見ると、強子さんがご機嫌にスキップしている。強子さんそれどころじゃないんだよまじで..


「これでチェックメイトだ..」


 そう言って翔さんがモデルガンの引き金を引いたその時、それは起こった。


「やっと見つけだぞ! 颯陸しょ..! ゴフッ..!!」


 翔さんのモデルガンの射線に早乙女しのぶが現れたのだ。案の定、ドM女の溝内に弾が的中ししのぶさんはその場で倒れ込む。それを見た俺は呟いた。


「死ん..じゃった..」

「ああ、死んだな」

「死んだな。じゃないでしょ!! 何やってんすか!」


 俺はワンチャンに賭けてしのぶさんが息をしているか確認するため近づいた。


「生きてます..?」

「....くっ..くっ..! 気持ちいい..!」

「は?」


 どうやら生きていたらしい。なんならちょっと喜んでいるようにも見えるのは気のせいだろうか。しのぶさんは立ち上がり、翔さんに言った。


「貴様..! 気持ち良すぎて昇天..! じゃなくて私じゃなかったら死んでいたぞ!!」

「いや、そこまで言ったら無理があるでしょ..」


 呆れながらしのぶさんの方を見ていると、横からとてつもない殺気を感じたので、俺は恐る恐る横を見た。


「お前のせいで..標的を見失っただろ..死を待って償え」


 翔さんはそう言って自慢のモデルガンをしのぶさんに連射した。その様はまるで感情のない殺人ロボット。これにはさすがのしのぶさんも....


「な..! 何という鬼畜の所業..! ぐふっ!..あひゃっ..! ごはぁっ..! あ..悪魔だ..♡」


 なんて事はない、喜んでいる。そしてしのぶさんは何も喋らなくなった。


「逝ったな。行くぞ、伊男」

「イきましたね..」


 おそらく翔さんが思っている逝ったとは意味が違うと思うが、俺と翔さんは再び強子さんを追った。


「ようやく追いついたぞ魔性の女..しかしあのキモい女のせいで弾を使いきってしまった」

「じゃあ、どうするんです?」

「こいつを使う」


 次に翔さんがポケットから取り出したのはスタンガンだった。ていうか翔さんのポケットはバイオレンス四次元ポケットなんだろうか。


「こいつでやつの動きを止める..」

「いよいよやるんですね..」


 命を狙われていることも梅雨知らず優雅にスキップをしている強子さん。今度こそはもうあの子の健気な笑顔を見ることも出来ないだろう。俺は強子さんの様子を目に焼きつけた。


「こいつで眠ってな! 魔性の女ぁ!!」

「ぐわぁ〜!!」


 鳴り響く悲鳴に俺は思わず目を瞑る。そして静かになったところでゆっくりと目を開いた。


「強子さん....って、またあんたか!!」

「はひ..はひ..! 体がしびれりゅ〜..!!」


 そう。またもあの超ドM女が翔さんの目の前に現れたのだ。


「あんた不死身かよ!! あんだけ連射されて何でそんなピンピンしてんだ!!」

「か..体だけは丈夫なのだ..」


 それより心配なのは翔さんだ。2度も暗殺を阻まれたらさすがに翔さんもご立腹のはずだ。俺は恐る恐る翔さんを見た。


「貴様..一度ならぬ二度までも..苦しんで死にたいようだな..」


 ほら言わんこっちゃない。こうなったらこの人はもう止められない。だがおそらくしのぶさんからしたらご褒美だろう。


「どう苦しませてくれるんだ?! 火炙りか?! 鞭打ちか?! はぁ..はぁ..答えてくれ!!」


 この状況はもうどうしたらいいのだろうか。正直俺には手に負えない。諦めたその時、女神が舞い降りた。


「リッくん! こんなとこで何..って.. 女の子をいじめちゃダメだよ!! 仲良くして!!」

「貴様には関係ない..!」

「関係あるよ! リッくんの友達は私の友達!!」


 騒動に気づいた強子さんが翔さんに言った。その様はまるで戦場に舞い降りた女神。俺は思わず手を拝んだ。


「友達じゃない..! くそ..俺は帰る..!」

「おい待て颯陸翔!! 苦しめてくれないのか?!」

「もうこの人末期だ..」


 翔さんはそそくさと家に帰っていった。地面に膝をつきながら翔さんを呼び止めるしのぶさんに、強子さんが言った。


「大丈夫? ぼろぼろだよ?」

「こんなのどうって事ないゾ! 私はくノ一の早乙女しのぶだからなあ!」

「ダメだよ手当てしないと! ほらついてきて! 私がやってあげるから!」

「こら..! 待て..! 颯陸翔!! また会おう!!」


 そしてしのぶさんは強子さんに連れて行かれた。厄介な人に目をつけられてしまった翔さんだが、大丈夫なんだろうか。ていうか、この世界で1番強いのは強子さんなのかもしれない。


(確かに..ただもんじゃないかもな..強子さん..)



 




読んでいただきありがとうございます。

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