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颯陸 翔は殺せない....  作者: 気宇由。
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第5話 バレた?! 不登校児を救え!

 今日も今日とて、俺は眠い目を擦りながら学校へ行く。パンケーキ毒殺計画が失敗してからというもの、翔さんの朝4時からのトレーニングはいつにも増してハードになっていた。しかしそんな翔さんなのだが、俺は昨日から気になっている事があった。


「翔さん、昨日の夜居ませんでしたけど、何かしてたんですか?」

「いや..ちょっとな..」


 なんか妙に落ち込んでいるように見えるが一体何があったのだろうか。


「リッくん! 伊男君! おはよー!」

「お..おはよう!」


 そしていつものようにハイテンションで挨拶をしてくる強子さん。正直心が痛い。


「あ! そいえばね? 昨日の夜、寝ようと思ってベッドに横たわったんだけど、天井に人影が見えたの! もしかして幽霊なのかな?」

「ん? 昨日の夜..?」


 まさかと思い翔さんを見つめると、俺の方を見てはっきりと言った。


「俺だ」

「俺だ。じゃないでしょ..?! 何やってんすか! 不法侵入で牢屋ぶち込まれますよ..?!」

「2人とも何話してるの?」

「いや! 幽霊だったら怖いねぇってね(笑)」

「何かに憑かれてるのかなぁ?」


 幽霊よりもおっかない相手に目を付けられてるよと言いたい気持ちを抑え、俺は翔さんと教室に向かった。にしてもこの人の非常識な行動にはもっと注意しなければ。


「しかしあの女..俺の殺気に気づくとは..不覚..!」

「天井に誰か張り付いてたら誰でも気づくでしょ! 金輪際こういう事はしないでくださいよ..!」


 そうこう話していると、誰かが俺たちを呼び止めた。


「そこの2人! ちょっといいかな?」

「俺たちの事..?」


 どうやら話を聞くと、この人は隣のクラスの沢田 慎吾(さわだ しんご) という人らしい。相談事があると言うが、何故俺たちなんだろうか?


「沢田君だっけ? どうして俺たちに?」

「あんたら、魔法でクラスメイト助けたんだろ? だったらその魔法もう一度使ってくれよ!」


 この学校の生徒は魔法学校にでも通っているつもりなんだろうか? 魔法なんて使える訳ない。しかし少し気になるので話を聞いてみる事にした。


「何度も言うが、あれは魔法じゃなく颯陸流あんさ..」

「いや! ちょっとした手品だよね翔くん? で? 沢田君の相談事って?」


 翔さんがまた余計な事を言おうとしたのでなんとか誤魔化し話を続けた。そして沢田が口を開く。


「実は..俺の親友が数ヶ月前から学校に来なくなってさ、気になってあいつの家行ったんだよ。そしたらあいつの家の前に柄の悪い大人達がいっぱいいて..俺怖くなって逃げたんだ。2人とも、柄の悪い連中からクラスメイト助けたんだよな?! だったら今回の..」

「断る!」


 沢田の話を遮るように翔さんがキッパリと言った。さすがに気の毒なので俺は翔さんにひっそりと言った。


「翔さん..! せめて話くらいは最後まで聞いてあげましょうよ..!」

「何故だ? 俺があいつを助ける義理が無いだろ?」

「ま、まあそれはそうだけど..」


 確かに翔さんの言うことも正しい。全く面識のない人に突然相談されても素直に助ける気にはならない。どうすべきか悩んでいると、再び沢田が口を開いた。


「知ってんだぞ..あんたらの正体..」

「嘘でしょ..?」

「なっ..?!」


 俺と翔さんは戸惑いを隠せなかった。まさかこんなにも早く俺たちの正体に気づかれるとは。ていうかいつバレたのだろうか。


「俺だってこんな汚い事したくないけどよ..バラされたくなかったら親友を助けてくれ! 頼む!」


 沢田はそう言って深々と頭を下げた。すると、翔さんが俺を呼び止め小声で言った。


「よし、殺そう」

「ええ、それしか方法はないですね....じゃなぁい! 絶対ダメだから!」

「1人くらい構う事か..! 任務遂行の為に数十人を殺すことなぞザラにある、気にするな」

「こっちはザラにないんですよそんな事! 俺の前では絶対関係ない人は殺させませんからね!」


 俺は翔さんに釘を刺すように忠告をした。そして小声で俺の考えを話した。


「とりあえず、この人の相談を解決してここは黙っててもらいましょう..!」

「なっ..! 俺には魔性の女を殺すという大事な..」

「これも任務の一貫です! 詳しく話を聞いてみましょう!」


 そして半ば強引に話を進め、沢田から詳しく話を聞く事にした。


「とりあえず、なんで君の親友は怖い大人達に狙われてるの?」

「多分だけど..あいつの親父ギャンブル癖が酷くて、借金抱えたままどっかに飛んじまったって話だ。噂では闇金にも手付けてたって話だし..きっとそのせいであいつが狙われてんじゃねえかと思って..」

「なるほど..そうだとしたら気の毒な話だな..」


 肩代わりによる金銭トラブルはたまに聞く話だが、それが未成年というのはあまりにも気の毒だと同情していると、朝礼の時間が近づいていることに気付いた。俺と翔さんは慌てて教室に向かった。


「まあ、とりあえず続きは放課後聞くから!」

「だったら! 放課後校門に来てくれ!」


 翔さんも不服そうではあるが、任務遂行の為ならととりあえず話を聞き入れてくれた。


「お前はどこまでお人好しなんだ..」

「だって..事実なら可哀想じゃないすか?」

「同情の余地は無いな、理由がどうであれ己の弱さが引き起こした結果に過ぎん」

「みんながみんな翔さんみたく強くないんですよ!」


 そして放課後になり、俺たちは沢田に言われた通り校門に向かった。


「来てくれたか! 早速だけど今から親友の家に行こう!」

「おい待て! まだ手を貸すと言ったわけでは..!」

「とりあえず行きますよ翔さん..!」


 強引に翔さんの腕を掴み、俺は沢田に連れられ親友の家を目指した。家に近づくと、男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「今日中に返せねえなら、ババアの保険で払ってもらうぞ!!」

「今日なんて..そんなの無理ですよ! ちゃんと返しますから..それだけはやめてください!」


 怒鳴り声が止むと、玄関から数人の男が出てきた。声を聞いていた沢田は迷わず男に飛びかかった。


「お前..!! 悪いのはタクじゃねえだろ..?! 取り立てるなら親父のとこに行けよ!」

「あ? 誰だてめぇ? 放せやコラァ!」


 掴みかかった沢田を男は振り払い、溝内にパンチを入れた。


「ぐふっ..! く..くそぉ..」

「金返してもらうまではあいつに付き纏うからなぁ? お前らも金借りる時は気ぃつけろよ(笑) がっはっは!」


 男達はそう言って笑いながらその場を後にした。俺は倒れ込む沢田を起こし言った。


「おい大丈夫かよ..! いくらなんでも無茶でしょ?」

「ちくしょ..」


 翔さんは顔色一つ変える事なく沢田を見つめ言った。


「無様だな、勝てないと分かっているのに何故立ち向かった?」

「親友が困ってるからですよ..俺、諦め悪いですから..それより..タクが無事か知りたい..」


 そう言って俺たちはタクという親友の家に入った。勝手に入っていいのかは分からないが、とりあえずタクのいる部屋に向かうと、話し声が聞こえてきた。


「母さん..ごめんな..? 俺のせいで..」

「謝らないで? タクは何も悪くないのよ..? 私の体が弱いばかりに..コホッコホッ..! ごめんね?」

「タク!! 無事か?!」

「慎吾!! どうしてここに!?」


 当然の事ではあるが、慎吾は驚いた表情で沢田を見た。沢田が何か力になれないかと聞くと、タクは下を俯き言った。


「余計な事しないでくれ!! 金は俺が何とかする!」

「でも..タクお前..ヤバい奴らに目付けられてんじゃ..?」

「放っとけよ! お前には関係ない..! 出てってくれ!」


 タクは声を震わせながら怒鳴り、そのまま部屋を出ていく。気のせいかもしれないが、去り際に瞳から涙を堪えているように見えた。


「皆さん..タクのお友達?」

「はい..親友です..!」

「いや..! 俺たちはあくまでも付き添いというか..」


 部屋にいたタクの母親が俺たちに話しかけた。体はげっそりとやせ細り、時折咳き込んでいる。


「ごめんなさいね? でもああ言ったのは皆さんを巻き込みたくないからだと思うの..だから..コホッコホッ..! 許してあげて?」

「分かってますよ、何年も親友やってますから..」

「あの子も幸せものなのね(笑) 私は病にかかってしまってなかなかあの子と出かけたりできないから、安心したわ(笑)」


 タクの母親は咳き込むのを堪えながら話を続けた。


「あの子ね? 母さんの病気が治ったら旅行に行こうって、アルバイト始めて一生懸命働いてくれたの..だけど..取り立てに全部取られてしまってね..お金は私が出すからって言ったのだけれど、俺が払うって聞かなくて(笑) 頑固なのは私に似たのかしらね(笑)」

「いいやつですよ! タクは!」

「いい子に育ってくれてよかったわ..だからこそ、私はあの子を守る義務がある..私が何とかしてあげないと..」


 会話を終え俺たちは家から出た。すると、慎吾が突然口を開いた。


「許せない..! 俺、もう一度あいつらに話してきます!」

「ちょ..ちょっと落ち着きなよ! さっき痛い目に遭ったばっかでしょ?」

「あんなの、タクの痛みに比べたらなんて事ない..!」


 止めようとするが聞く耳を持ってくれない沢田、どうすべきかと思い翔さんを見ると、ぼそっと何かを呟いた。


「くだらん..俺は帰る..」

「ちょ..! ちょっと翔さん..?!」


 翔さんはそう言ってその場を後にする。柄の悪い連中に直談判しに行く人と、くだらないと吐き捨て家に帰る人..もう状況はめちゃくちゃだ。俺は一体どうすればいいんだろうか....


 

 




 

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