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颯陸 翔は殺せない....  作者: 気宇由。
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第4話 パンケーキ毒殺計画

 俺の名前は颯陸 翔(さつりく しょう)。12歳の頃から殺し屋業を生業とし生きている。自慢ではないが、今まで任務を失敗した事は一度たりとも無い。1年前くらいに世間を騒がせたメキシカンマフィア壊滅の事件は、軍事勢力で鎮圧したと言われているがあれは全て俺が殺った。そしてそんな俺に今回課せられた任務はとある女子高生の暗殺。以前は俺のフィンガーピストルが空を切る形となったが今回こそはこの...


「リッくん! 何か考え事? 相談乗るよ!」


 こいつがターゲットの女子高生、開運寺 強子(かいうんじ きょうこ)。命を狙われているのにも関わらず平気で俺に話しかけて来る。恐らくこの女は俺を試しているのだろう..最強と謳われた殺し屋が舐められたものだ。


「貴様をころ..いや..2限目の予習をしていた..」

「意外と勉強熱心なんだね!」


 パートナーの伊男から、殺すや暗殺と言った類の言葉は発さないよう口酸っぱく言われている為ここは適当にあしらっておこう。


「力や権力だけが強さじゃないからな、本当に強い人間になりたいなら知識も得る必要がある、故に俺..」

「あぁ! そうだ! この前食べたパンケーキがとっても美味しくてね! リッくんや伊男君にも食べてほしかったの! 今日の放課後空いてる?」


 この女..この期に及んで尚、俺を試すつもりなのか? しかしこれは暗殺の絶好のチャンス..ここはこいつの口車に乗ることにしよう。


「ほぉ..パンケーキか..俺も丁度食べたいと思っていた」

「じゃあ決まりだね! あ! 結衣ちゃん! 結衣ちゃんも今日の放課後パンケーキ食べに行く?」

「え! 良いの! 行きたーい!」


 俺に暗殺されないように第三者の人間を呼ぶとは、この女もかなりのやり手の様だ..しかし案ずる事はない。いついかなる時であっても冷静を欠いてしまえば屍も同然..奴に掻き回さ..


「リッくんはどんなパンケーキが好きなの?」

「....イ..イチゴだ..!」


 

 そして放課後、俺と伊男は標的とその友達と共にパンケーキ屋に向かった。伊男は小声で俺に何か言っている。


「翔さん..! さすがに連れがいたら殺しは出来ないんじゃないです?」

「俺を誰だと思っている、既に策は考えてある」


 店に入り、店員に案内され席に座る。ここで注意するのは標的の前に座ることだ。こんな事もあろうかと事前に用意しておいた翔特製の毒薬を奴が頼んだパンケーキに仕込むにはこのフォーメーションが最適だろう。数時間後に効くよう作られている為のんびりうつつを抜かしている時にコロッと逝くことになる。


「私のおすすめはこの店自慢のフワトロパンケーキなの! リッくんたちもぜひ食べてみて!」

「んー、私は食べたことあるから今日は違うやつにするね!」

「な..なら俺は強子さんと同じやつにしようかな! 翔くんはどうする?」

「俺はイチゴ三昧ベリベリーパンケーキだ」


 重要なのはここからだ。それは毒薬をどうやって仕込むか。標的の横には友人がいる為、下手に動けばバレてしまう。ここのウェイターを脅して事前に入れさせる事もできるがスマートじゃない。となれば方法は一つ....


「お待たせしました! こちら特製フワトロパンケーキ2つとチョコバナナパンケーキになります! ベリベリーパンケーキはもう少々お待ちくださいませ!」

「私と結衣と伊男君が頼んだやつね!」


 メニューが俺たちのテーブルに置かれる。すかさず俺は2人に言った。


「外を見ろ! 腑抜けのマフィアが舞曲(ワルツ)を踊ってやがるぞ! 傑作だ!」


 これでどうだ。俺たちの業界ではお決まりの常套文句だ。足元に乱射される拳銃によって慌てふためく様はまるで、芸のない踊り子。一般的には『あんなところにUFOが!』などと言うらしいがそんな言葉より10倍は有効だろう。俺は余裕の表情で2人を見た。


「もう、リッくんったら! こんな街中でそんな事あるわけないよぉ(笑) さすがの私も騙されないんだから(笑)」

「翔くん案外お茶目なんだねっ!」


 そんなはずはない。これを言われて注意を引けなかった事など一度もないのだ。まさか既に俺の思惑に気付いているとでも言うのだろうか。伊男は俺にコソコソと何かを言ってくる。


「翔さん..! いきなり何言ってんすか! マフィアがワルツって..訳わかんないっすよ!」

「いやしかし..これを言えば確実に注意を引けるはずだったんだ..!」

「普通に、UFOだ! とか言えばいいでしょ?!」


 伊男は何も分かっていない。俺の言葉で注意を引けなかったというのにそんなくだらないハッタリで引けるはずがない。だがしかし伊男に理解してもらう必要があるのでここは言う通りにしてみよう。


「あ..! あんなところに..ユ..UFOが..!」


 どうせ無理だろうが、とりあえず2人の反応を見た。


「うそ?! どこ?!」

「まじで?!」


 こんなバカな事があっていいのだろうか..マフィアのワルツを信じないでUFOを信じるだと..? やはりこの女は普通じゃない。しかしそんなことを考えている時間はない。俺は2人が外を見ている間に、標的のパンケーキに毒薬を仕込ませた。


「翔くん! 騙したね! UFOなんていないじゃん!」

「なーんだ、宇宙人に会えるかと思ったのにぃ! リッくんったら!」


 そんな事はどうでもいい、早く食べろ。しかしここで早く食べるように促すと勘づかれる可能性も考えられる。ここは一旦待つことにした。


「じゃあパンケーキ食べよっか! 結衣ちゃん、私のやつ一口食べてみる?」

「え? いいの!」


 そんな..バカな..この女、友人に毒見をさせるつもりか..?! 普通の女子校生だと思っていたがどうやら相当な魔性のようだ。まさか友人と偽って囮を連れて来ていたとは予想外だった..


「美味しいものはシェアしないと! 伊男君とリッくんも食べなよ!」


 次は俺たちの番か..落ち着くんだ俺、奴のペースに振り回されれば作戦は台無しだ。次の策を練っていると伊男が小声で何かを言ってきた。


「翔さん..! これ食べたら俺も結衣ちゃんもあの世行きですよ!」

「わ..分かっている..! 俺に任せておけ」


 俺は一呼吸置いて、標的に言った。


「いいだろう! 俺が最初に食べる! これは何の変哲もないただのパンケーキだからなぁ!!」


 これでどうだ。ここまで自信気に食べると言われれば、あの女も毒が入っていないと思うはず..さあ、次はどう出る魔性の女!


「リッくん、食いしん坊なんだね! 子供なんだからぁ!」


 こいつ..! それでも尚、俺に食わせるというのか..!? 数ある毒性にも耐えられるよう幼い頃から訓練は受けてきたが、俺特製のこれ(毒薬)はさすがの俺でも死ぬ。考えろ俺..! 次の策を..!


「お客様!! 申し訳ありません! こちらのフワトロパンケーキに賞味期限切れの材料を使ってしまったのでこちらで作り直させていただきます!」

「そうなんですね! お気になさらないでください!」

「大変申し訳ありません! 少々お待ちください!」


 その時、ウェイターが毒を仕込んだパンケーキを回収した。恐らくこの女はここまでを計算済みだったのであろう、余裕の表情を見せている。ここまでの屈辱は初め..


「お待たせしました! イチゴ三昧ベリベリーパンケーキになります!」

「リッくんの頼んだやつめっちゃイチゴじゃん!」


 ようやく俺の頼んだパンケーキが運ばれたが、どうせこの女のことだ、ウェイターとグルで毒でも仕込んでいるんだろう。しかし、さっきも言ったように俺はあらゆる毒に耐性を持っている。特有の匂いもないという事は俺には効かない。せいぜい俺が悠々と完食する様を見ているがいいだろう。俺は微笑を浮かべながらパンケーキを食した。


「ぐっ..! なんだこれは..?! う..美味い..」

「リッくんのリアクションオーバーすぎだよぉ! こっちまで嬉しくなっちゃうじゃん!(笑)」


 俺とした事が、思わず本音をこぼしてしまった。しかし、このパンケーキのほのかな甘みとベリーの酸味のバランスが絶妙だ。さらに微かに香るバニラエッセンスが食欲を引きたた..ちがう..! そうじゃないだろ..! 今はどうやってあの女を毒殺するかが重要なんだ。無心にパンケーキを頬張る俺に伊男が言った。


「翔さんめっちゃ食ってんじゃん..」

「伊男..今回は一時休戦だ..」

「でしょうね..(この人絶対色々勘違いしてただろぉなぁ)」


 精神を削られ疲れ切った体にパンケーキが染みた。しかしこのままで終わると思うなよ標的..次こそは必ずお前の息の根を止めてみせる..!


「ほらリッくんー、慌てて食べるから口にクリーム付いてるよ(笑) 拭いてあげるからこっち向いて!」

(くそ..くそぉ..! 負けてたまるかぁ..!!)









読んでいただきありがとうございます。

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