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颯陸 翔は殺せない....  作者: 気宇由。
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第3話 ムンバ動く!!

 ここは野場井高校(やばいこうこう)の2年D組の教室..若干24歳の俺は(翔さんは22歳らしい)17歳のピチピチ男子高校生として姿を偽っている。まさかこうしてまた学園生活を送る事になるとは誰が想像していたであろうか。翔さんは殺伐としたオーラで標的の強子さんを見ている。


「翔さん..! そんなに睨んだらバレちゃいますよ?」

「どっからどう見ても普通の女子高生にしか見えん..」


 俺は小声で翔さんに話したが、変わらず翔さんは睨み続けている。すると、誰かが翔さんに声をかけた。


「翔くんだっけ?」

「奇襲..?!」


 翔さんは声をかけて来た女子生徒に人差し指を突きつけ睨みつけた。慌てて俺が止める。


「ああ! これは違うんだ..! この人すぐ人に指さす癖があるからさ(笑) もう翔くんったら人に指差さないってお母さんに教わらなかったの? あはは..」

「なるほどねぇ..! び..びっくりしちゃったぁ..! そんな事より翔くん、魔法を使って強子ちゃん助けたってほんと?」


 実はあの騒動から、学校内では2年D組の転校生が正義の魔法使いだと噂になっていた。


「あれは魔法じゃない..颯陸流暗殺じゅ..」

「あれはちょっとした手品なんですよね! なんでも翔くんが独自に編み出したとか編み出してないとか(笑)」


 頼むから翔さんは黙っていてほしい。昨日も念のため左頬の傷を消すように言ったが、やっとのことで快諾してくれた。俺は小声で翔さんに言った。


「ちょっと翔さん..! 暗殺とか殺すとかそういう事は言っちゃダメですよ! 殺し屋だなんてバレたら依頼は失敗ですよ!」

「ダメなのか..! 義務教育で人の殺し方くらいは心得ているものだと思っていた..」

「習う訳ないでしょ!! どんな学校なんすかそれ!」


 翔さんの常識と世間一般の常識はかなりかけ離れているようだ。


「りっくん! 何か趣味とかあるの?」

「りっくん..? 俺のことか?」


 その時、強子さんがあの生きた都市伝説と言われる最強の殺し屋を愛称で呼んだ。この人は殺されたいのだろうか。俺はすかさず翔さんをフォローした。


「愛称ですよ! これくらいの年頃の子はこうやってあだ名を呼び合って親近感を強めていくんです! 許してあげてくださいね!」

「コードネームか..? まずは相手の懐に漬け込んでいく算段という訳だな..」

「いや..そういう訳ではないと思いますけど..」


 翔さんは険しい目つきで強子さんを見つめ言った。


「趣味は掃除だ。『来た時よりも美しく』は俺のモットーだからな..」

「へぇ! 見た目の割に案外家庭的なんだね! 良い旦那さんになりそう!」

「だとしたら..なんだ?」


 翔さんは鋭い目つきで強子さんに言った。恐らくこの人は強子さんが何か探りを入れて来ているのではないかと勘違いしているようだが、これは当たり障りのない普通の会話だろう。俺は翔さんに言った。


「そんなに気張らなくても..向こうは翔さんが殺し屋だなんて気づいていませんよ(笑)」

「しかしあの女..さっきから前髪を指でクルクルしているぞ..あれは何かのモーションじゃないのか..?」

「熱い視線送り続けてるからでしょ?! あれは単なる恥じらいみたいなもんですよ! 女の子可愛い仕草ランキングでも割と上位のやつですよ!」


 翔さんの常識外れの発言と俺のツッコミは放課後まで続いた。俺が帰り支度をしていると、翔さんが言った。


「伊男、放課後標的の帰り道を先読みし息の根を止める。あの女の下校ルートは調査済みだ」

「いよいよやるんですね..」


 新鮮な学園生活のせいで、ピチピチの女子高生を暗殺しなければいけないという事をすっかり忘れていた。そうだ、俺たちはこれから(俺は見てるだけ)あんなに健気で可愛いJKを殺さなければならないのだ。


「こちら翔、ひとろくさんまる(16時30分)これより依頼を遂行する」

「誰かに通信取ってるんですか?」

「いや、やってみただけだ」

「そうですか..」


 思わずなにわの伝家の宝刀なんでやねんが出そうになったがなんとか堪えた。強子さんが通るであろう帰り道の隅で身を潜めているが、一向に来る気配はない。翔さんは悩んでいた。


「何故だ..標的はいつもこの道を通るはず..」

「ま..まあ道草でも食ってるんじゃないすか?」


 しかし、待てど待てど強子さんは来ない。いよいよ翔さんも痺れを切らしたのか、歯軋りで前歯がすり減って来ている。


「翔さん?! 前歯無くなるよ?!」

「こんなとこで何してるの?」


 俺が翔さんの前歯を心配していると、クラスメイトの武田さんが声をかけて来た。


「いやぁ..強子さんを待ってるんだけどなかなか来なくてね」

「強子なら今日駅前のドーナツ屋で新作が出るとか言って駅の方向かったけど?」

「え? そうなの?」


 恐る恐る翔さんの方を見ると、この世の終わりを目の当たりにしたかのような表情で何かを呟いている。


「な..んだと..! はめられた..? この俺が..?」


 いや、どう考えてもまぐれだろう。俺は翔さんに言った。


「偶然ですよ..考えすぎですって..」

「そ..そうだな..これも全て計算済みだ..ドーナツ屋に急ごう」


 明らかに動揺しているようだがそこは触れないでおこう。こうして俺たちは駅前のドーナツ屋を目指した。


「いましたね、ちょうどドーナツを買い終わったんでしょうか?」

「命を狙われているというのに優雅にドーナツか..肝の据わった女だな..」


 ドーナツ屋に着いた俺たちは、陰から強子さんの動向を辿っていた。翔さんは獲物を狙う獣のように様子を伺っている。


「いいか伊男、標的を仕留める時は一発だ。常に持っている拳銃の弾丸は1発だと思え」

「は..はぁ..」


 普段拳銃を持たない人に言われてもイマイチ説得力は無いが、翔さんはまるで狩人の眼差しで強子さんを見つめる。そして強子さんが人通りの少ない道に通ったの見計らって人差し指を構え襲い掛かろうとしたその時、それは起きた。


「あっ!」


 強子さんが何かに気づき後ろを振り向いたのだ。すかさず翔さんは後退りし、俺の横で何かを呟いていた。


「そんな..! 俺のスニーキングは完璧だったはず..! 俺の殺気に気づいたというのか..?!」


 まさかと思い強子さんの方を見ると、何かを言っているのが聞こえた。


「弟の分を買い忘れちゃった! 私のバカ..!」


 何のことはない。ただ弟の分を買い忘れただけだったようだ。しかし翔さんは強子さんに恐怖すら感じているようだった。


「あの女..何者なんだ..?」

「いや、普通のJKですよ..」


 翔さんは気を取り直し再び臨戦態勢に入る。ここまでのまぐれももう起きる事はないだろう。目の前で可愛いJKが死んでいく様を見る事に悲しささえ感じるが、俺も殺し屋の端くれだと自分に言い聞かせその場を見守った。


「次は必ず仕留める! しっかり見ていろ伊男..!」


 そして翔さんは再び強子さんに襲い掛かる。さようなら強子さん、安らかにお眠りくださいと心の中で念じたその時、それは起きた。


「嘘..だろ..? 俺の攻撃を交わした..?」


 強子さんが突然しゃがみ込み、翔さん自慢の颯陸流暗殺術、フィンガーピストルを交わしたのだ。これには流石の俺も強子さんが只者なんじゃないかと思わざるを得なかった。俺は恐る恐る強子さんを見た。

 

「あちゃぁ..靴紐解けてたぁ、誤って転んだらドーナツが台無しになるとこだったぁ、アセアセ」

「え?」


 もうあの人は何かとんでもない守護神に守られているのだろうか。ある意味只者では無いのかもしれない。ちなみに翔さんは人差し指を構えたままその場で立ちすくんでいた。


「あれぇ? リッくん? いつの間にいたの?!」

「....」


 翔さんは驚きのあまり声を出せないでいた。すかさず俺も強子さんの元に行き、翔さんのフォローに入る。


「ドッキリだよね! 強子さんをびっくりさせようと思って後ろから人差し指でつつこうとしたんだよね?! ね! 翔くん!」

「なーんだ! ちょっとびっくりしちゃったよお(笑) もうリッくんったら! あはは!」


 何だろうこの微妙な空気は、翔さんは一向に身動きを取れないでいる。生きる都市伝説とまで呼ばれている最強の殺し屋、颯陸 翔さんは殺せなかったようです....





 


 



読んでいただきありがとうございます。

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