第21話 キャロライン・キャサリン・綾瀬
私の名前はキャロライン・キャサリン・綾瀬。日本名は綾瀬絵里と名乗っている。アメリカのロサンゼルスで生まれ、18歳でFBIになった。19歳の時には既に捜査官として悪名名だたる犯罪者どもを牢獄に送ってきた訳だが、そもそも私が何故FBIに入ったのか、それはとあるマフィアをこの手で葬る為....そいつの通り名はムンバと呼ばれており、殺し屋界で最強と言われているマフィアだ。奴だけは絶対に私が葬らなければいけない..なにを犠牲にしても..! ここまで執拗に奴にこだわるのには理由がある。それは今から10年程遡る....
おっとその前に..ここからは英語の会話が続くので、バカなお前たちにも分かるように日本語で翻訳してやろう。
「キャシー! お昼ご飯出来たわよ!」
「はーい! ママ!」
当時私は14歳..FBIとは無縁の普通の中学生だった。
『続いてのニュースです。昨夜、ロス市内の女子中学生がまたも何者かに攫われる事件が発生しました。犯人は未だ逃走しており、市警は捜査を進めている状況です。市内に住む学生の皆さん..特に女子中学生の皆さんは注意して行動してください』
「またこの事件だわ..今回で何件目? キャシーも友達と遊びに行く時は場所と何時に帰ってくるか連絡してちょうだいね?」
「大丈夫だよ! 私が返り討ちにしてあげるから!」
「またそんな事言って..本当なら一歩も外に出したくないんだからね?」
ちょうどこの日は友達と遊びに行く予定があったので、半分他人事のつもりであまり気にする事なく外に出た。
「じゃあママ行ってきまーす!」
「本当に気をつけるのよ? 人通りの少ない道は通らない事! 約束よ?」
「分かってるよ!」
そして私は友達と待ち合わせしていた場所に着いた。
「お待たせー!....って、まだエマがいない..? いつも私より早いのに..」
いつも集合時間より早く着くエマが、その日は珍しく来ていなかった。しかも待てど待てどエマは来ない。私は不安が募っていた。
「おかしいなぁ..もしかして....いや、それは無いよね..」
1時間ほど待っただろうか。エマは全く来る気配がない。心配になった私はエマの家に向かった。
「もしかして今日遊ぶこと忘れてるのかな?」
エマの家に向かっている途中、見覚えのある物が落ちていることに気づいた。
「キーホルダー..? しかもこれ、私がエマの誕生日にあげたやつだ..」
その時、私は最近ニュースで市内を騒がせている物騒な事件のことを思い出した。当時の私は不安と恐怖で頭が混乱していた為、警察に連絡することなくエマの行方を探してしまった。
「エマー!! どこにいるの!!」
名前を叫んだが、言うまでもなく返事は無い。すると、廃屋の前に明らかに怪しい真っ黒のワンボックスが止まっている事に気づいた。嫌な予感がした私はその廃屋にゆっくりと入った。
「さあて..いっぱい可愛がってあげるからね?(笑)」
「んんっ..! んんんっ!! んっ..!」
中からは大人の男の声と、口を何かで覆われていてなにを言っているか分からないが、明らかに何か訴えている女の子の姿があった。姿を見る為、ゆっくりと物陰から顔を出すと、そこには口と手足を紐で縛られたエマの姿が見えた。私は小声で呟く。
「エマ..?! やっぱり攫われてたんだ..! 早く助けないと..!」
しかし、心ではそう思っても体が言うことを聞かない。恐怖で手足が震えて動かないのだ。私は自分に言い聞かせた。
(しっかりするのよ私!! エマを助けるの!! 動け私!!)
私は震える膝を思いっきり叩き、自分を奮い立たせ、大きく深呼吸をして男に叫んだ。
「エマを離して!! け..警察に言うわよ!!」
「ああ? お?(笑) 可愛い獲物がノコノコとやって来やがった(笑) こりゃあ運が良いや!」
私はすぐさまポケットから携帯を取り出そうする。しかし、エマを探す事に夢中になっていた私は、途中で携帯を落としている事に気づかなかった..
(携帯が無い..! 落としたの..?)
「はっは!! どうしたよ? 警察に連絡しないのかい?(笑)」
「くっ..! 警察に頼らなくなって..私があなたを捕まえる..!!」
「あ〜..怒る姿も堪らないねぇ..!! 最高だよ!!」
男はそう言いながら悶えている。そして、ポケットからナイフを取り出し私の方にゆっくりと近づいてきた。
「ほらぁ..良い子だから..抵抗するだけ無駄だよ? 痛い事はしないからさ?(笑)」
「こ..来ないで..!!」
抵抗しようとするも、私は恐怖で動けない。しかし男はそんな事もお構いなしにこちらに向かってくる。
(ダメだ..! 殺される..!)
その時だった。突然、私の目の前に誰かが現れた。
あまりに一瞬の事で状況を理解出来なかった私はその場で尻餅をついた。
「だ..誰..?」
「....」
私の前に立った男は、無言で犯人を睨みつけている。見た目は私とさほど歳が変わらないくらいの雰囲気だ。左頬には何かに引っ掻かれたかのような3本の傷がある。
「大人..じゃない..?」
そして男が突然話し出す。
「お前..目立ちすぎだ..最近のニュースはお前の事ばかり..!!」
「あ? 何が言いてえんだてめぇ?」
「俺より目立つな!!!!」
(気にするとこそこ?!?!)
思わず私は心の中でツッコむ。犯人の男は謎の男の子に言った。
「冷やかしは嫌いなんだ..それに..男に興味ねえんだよ..! 殺してやる..!!」
そう言って犯人は謎の男の子に襲いかかった。まだ私と歳が変わらないような男の子じゃ流石に無理かと、男の子を手を引こうとしたその時だった..
「ぐはぁっ..!! バタッ..!」
瞬きする間に犯人の男が倒れていた。何が起きたのかと男の子を見ると、左手の人差し指が真っ赤に染まっていた。男の子は怯える私に言った。
「心配するな..こいつは任務とは関係ないから殺していない..それよりも..この廃屋は掃除した方がいいな..」
「助けてくれたの..?」
「いや違う、俺より目立っていたのが嫌だっただけだ」
「は..はぁ..」
[ウーー! ウーー! ピーポーピーポー!]
「女! 警察に俺の話はするな..」
その時、数台のパトカーと救急車の音が廃屋に鳴り響いた。どうやら後で聞いた話では、たまたま散歩していた近くの住民が、黒のワンボックスを見て怪しいと思い警察に通報したらしい。ホッとした私は大きくため息をつく。そして男の子にお礼を言おうとしたが、そこにはもう彼の姿はなかった。
「君たち!! 大丈夫かい?!」
「私は平気です!! それよりエマが!!」
「我々が来たからもう大丈夫! 怖い思いをさせてしまったね..申し訳ない..」
「マイクさん! 犯人と思しき男が倒れています!」
犯人が倒れている事に気づいた警察はその場で犯人を確保した。エマも大きな怪我は無く、この事件は幕を閉じた。私は警察が事件の詳細を知るために事情聴取を受けていた。
「とりあえず2人とも無事で良かった..そいえば、誰が犯人を..?」
「いや..私が来た頃にはもう男の人は倒れていました..」
(一応恩人だし..理由は分かんないけど黙っておいてあげよう..)
「そうなのかい? 実は男の左肩に何かが突き刺さったような跡があってね..近くに薬莢は落ちていなかったから拳銃によるものでは無かったんだ..そうなると..もしかしてムンバが現れたんじゃないかと思ってね..」
ムンバと言えば、家庭用お掃除ロボットの名前だけど、なぜこの状況でその名が出たのか分からなかった私は警察に聞いた。
「ムンバ..?」
「そう..恐ろしい殺し屋だよ..最近この辺でもマフィア間の抗争が起きているからね..FBIが血眼になって彼の行方を追っているそうだから..キャシーちゃんも気をつけてね」
その時私は気づいた。私の命を救ったのは殺し屋だったんだと。そして私が庇ったのも..殺し屋。私はアメリカ中を揺るがす大犯罪者を助けてしまったのだ....
「ムンバ..必ず私が捕まえてみせる..!」
そして今に至る。この手で逃してしまった犯罪者をこの手で捕まえる..! あいつに救われた命だからこそ..私があいつを捕まえなければいけないのだ....
「クシュンッ!!」
「翔さん? 風邪ですか?」
「世界的に有名になると噂する奴が増えるからな..」
読んでいただきありがとうございます。




