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颯陸 翔は殺せない....  作者: 気宇由。
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第2話 2度目の人生!(一度死にます!)

 僕は翔さんと一緒に事務所に戻った。ここまで戻るのにかなりの時間を有したのが、闇の取引をしていた人たちとの一戦より、翔さんの倉庫内の掃除に時間がかかったからだとは口が滑っても言えない。そしてファルコンさんに翔さんがムンバの正体であることを話すと、ファルコンさんはゆっくりと葉巻に火をつけ咥えた。


「とりあえずご苦労だったな..まさかパートナーがムンバだとは..ま、まあ本題に入ろう..」


 ファルコンさんは明らかに動揺している。


「ファルコンさん? 火つけた方咥えてますよ..?」

「あ..ああ..これはほんのアメリカンジョークさ(笑)」


 見え見えの嘘をつくファルコンさんに翔さんが言った。


「で? 依頼というのは?」

「ごほんっ..そうだな、実はお前達にはとある女子高生の暗殺を頼みたいんだ」


 僕は何を言っているのか分からなかったのでもう一度聞く事にした。


「えっと..JKを殺すんですか?」

「そうだ」


 ファルコンさんがそう答えると、翔さんが僕に言った。


「JK..? それはターゲット(標的)のコードネームか?」

「いや違くて、女子高生の略称ですよ」

「なんだそれは、珍しい呼び方をするもんだな」


 今どきJKを知らない方が珍しいんじゃないかと思うが、僕はファルコンさんに質問を続けた。


「でもなんで女子高生を? 言っても未成年ですし..」

「それは俺も知らん。だが、今回のパートナーがムンバという事は..ただならぬ予感がするのは確かだ..」


 まだ心の整理もついていないというのに今度はピチピチJKの暗殺..果たして僕はこのまま話を進めても良いのだろうかと、今更になって気づいてしまった。しかし、そんな事も気にかける事はなくファルコンさんは言う。


「つーわけでな、お前らは明日から高校生になってもらう」

「は?」

「了解」


 翔さんは全く疑問を抱く事なく話を聞き入れた。ファルコンさんは翔さんに言う。


「しかしムンバ、今チャカは何丁持ってる? バカども(密売人)を黙らせるには一丁じゃ足りないだろ?」

「いや、基本拳銃は持たない主義だ」

「・・・・」


 翔さんの一言に思わず咥えていた葉巻を落としたファルコンさん。


「じゃ..じゃあどうやって殺ったんだ..?」


 ファルコンさんが聞くと、翔さんは左手の人差し指をファルコンさんに突きつけ言った。


「これだ。そこらの鉛よりは良く貫通する」

「そ..そうか..そりゃ大層なこったな..ははは..」


 さすがのファルコンさんもこれには苦笑いをしている。しかしそんなチートキャラがいたらこの作品のパワーバランスはどうなってしまうのだろうかという疑問は墓場まで持っていく事にしよう。そんな事を思っていると、ファルコンさんが僕たちに紙切れを渡し言った。


「これは標的のプロフィールだ。明日までにチェックしておいてくれ。それととりあえずお前達は今後お互いの血となり肉となる相棒だ。同じ寝床を用意してあるからそこで暮らせ」

「は?」

「了解」


 だから何故さっきから翔さんは素直に話を聞き入れるのだろうか。はっきり言えば僕は御免だ。指一本で怖い男の人を瞬殺するような人と一つ屋根の下なんて、どうせなら突然転校してきた血の繋がっていない義理の姉が自分の家で暮らす事になるとかにして欲しかった。僕は不服そうにファルコンさんに言った。


「いや..さすがにそれは..パートナーと言えどプライベートってものが..」

「なんだ? 気に入らないのか?」

「いや..嘘です..」


 鋭い眼光で睨みつけるファルコンさんに反抗する事は出来ず、結局翔さんと一緒に社宅を目指していた。

社宅に向かっている途中、翔さんが何かに気づいた。


「取引していた奴らの残党か? 数人俺たちをつけて来ている..」

「え? まじですか..?」


 全くそんな気配は感じなかったが、翔さんの視線の先を見ると、確かに黒服の男達が見えた。僕は動揺しながら翔さんに言った。


「どどどうするんです..?」

「こんな事で狼狽えている様じゃ、お前は近いうちにハチノスにされて火葬場の中でおねんねする事になるぞ。とりあえず路地裏に入って奴らを人気のないところに誘き寄せる...ん?」


 殺し屋特有の全く笑えないジョークに苦笑いしていると、翔さんが突然言葉を詰まらせた。


「翔さん?」

「子供だ..連中にぶつかりやがった」


 連中の方を見ると、鬼ごっこをしていた子供が黒服の男にぶつかっていたのだ。


「ご..ごめんなさい」

「あ? クソガキが..スーツが汚れちまったじゃねえか..あ?!」


 これは非常にまずい。僕は焦りながら翔さんに言った。


「やばいっすよあの子! このままじゃ..」


 するとその時、近くを通りがかった人が黒服の男に言った。


「ちょっとあなた達! この子謝っているでしょ? わざとぶつかった訳じゃないんだから許してあげたらどうなんです?」

「誰だてめぇ?」

「開運寺 強子です!」


 子供を庇ったのは女の人だった。しかも見た目は若い。というかこの状況で堂々と名前を名乗れるとは、強靭なメンタルの持ち主なのだろう。しかし、その強子さんと名乗った女の人は黒服の連中に強引に腕を掴まれていた。


「ちょっと! 離してください!」

「だったらお前が代わりに落とし前つけてくれんだろぉ?!」


 彼女を助けに行くべきか僕は悩んでいた。少年漫画の主人公なら迷わず助けに行くのだろう。でも僕は違う、なんの取り柄もない冴えない男だ。ピンチな時に突然特殊能力が芽生えるとかもない。そして気がつけば、もうそこに黒服の連中と女の人の姿は無かった。


「伊男、あの女のおかげで手間が省けたな。帰るぞ」

「待ってください翔さん..」


 僕は思わず翔さんを止めた。

(殺し屋になるくらいなら..せめて人助けでもして死んでやる..)


「僕、あの人助けて来ます!!」

「お前..何を言って..おい! 待て!」


 僕は翔さんの言葉を無視し、黒服の連中の元へ向かった。


(そんなに遠くへは行っていないはず..! 殺し屋なんて御免だ! そんなんだったら可愛い女の子庇って死んだ方がマシなんだ! )


 闇雲に走り続けると、人気のない暗い路地裏にたどり着いた。奥からは女性の声が聞こえる。


「離して!! 警察呼びますよ!」

「好きにしろよ、まあその前にたっぷり可愛がってやるけどなぁ(笑)

「や..やめろ..!!」


 僕は生まれたての子鹿のようにブルブル震える膝を堪えながら、黒服に叫んだ。


「あぁ? お前、うちの組のやつら殺ってくれたやつじゃねえか?」

「こりゃ丁度良いぜ兄貴(笑)」

「ついでに殺しちまおう」

「僕を殺すのは勝手だけど..最強の殺し屋..ムンバが黙っちゃいないぞ!!」


 この期に及んで死ぬのが怖くなった僕は、翔さんの名前を利用した。自分の情けなさに涙すら出そうだ。黒服の連中は一瞬黙り込むと、高笑いをして僕に言った。


「だっはっはっ! ムンバだと? そんなのが実在する訳ねえだろ(笑)」

「まだあんな奴を信じるバカがいるなんてな(笑)」

「本当にいるんだ! お前らなんてな..そのぉ..なんだ..あれだ! 多摩川の魚の餌にされるぞ!!」


 殺し屋が言いそうなジョークを言ってはみたが、反応はイマイチだった。なんなら連中は内ポケットからナイフを取り出しこちらに向かって来ている。


「だったら証明してみな!! ヒャッハァー!」


 奇声を上げて襲いかかってくる黒服の男。流石に2度目は無いだろう。思えば良い人生だった。と胸を張って言える訳では無いが、こういうときに限って実家の両親の顔が思い浮かぶ。


(あぁ、お盆帰れば良かったなぁ..可愛い彼女も欲しかったなぁ..)


 諦めたその時、見覚えのある黒い影が僕の前で止まった。それを見た黒服の連中は立ちすくんだまま持っていたナイフを落とした。


「嘘..だろ..?」

「左頬に三本の傷..」

「本物じゃねえよな..?」


 前に立った男は僕に言った。


「だから止めただろ、闇雲に追いかけても標的の力量を把握していなければ皆無だ」

「翔..さん? どうして..?」

「パートナーが死ねばその時点で任務失敗だ。俺はどんな依頼も正確かつ華麗にこなす。1ミリの失敗もあってはならないのだ」


 僕は涙目で翔さんを見つめた。心なしか目の前に立っている最強の殺し屋が、ヒロインのピンチに駆けつけたヒーローに見える。その時、頭の中にあった蟠りみたいなのがスッと消えて、僕の中で一つの答えが出た。


「翔さん..僕はあなたが居なきゃ2度死んでた..だから、昨日までの僕はここで死んだ事にします。これからは殺し屋の伊男として僕は..いや、俺は生きます!」

「ほぉ..だったらその前にこいつらを片付けないとな」


 翔さんは少し笑っているように見えた。そして黒服の連中を睨むと一瞬にして目の前の男を片付けた。


「君は教育に悪いから見ない方がいいよ!」

「あ! ちょっと..!」


 捕まっていた女の人に流石にこのグロテクスな現場は見せられないので俺は彼女の目を覆った。


「まさか本当に生きていたのか..?!」

「地獄に言ったら閻魔に伝えておけ、これから忙しくなるとな..」

「ぎやぁー!!」


 翔さんのなんか妙にかっこいい捨て台詞と、連中の断末魔が路地裏中に響いた。事が終わったようなので、俺は彼女の目を覆うのをやめ言った。


「はいこの通り! イリュージョンです! 彼の超能力で柄の悪い連中はテレポーテーションしましたぁ!」


 流石にこの誤魔化し方は無理があるだろうか? 女の人は数秒黙り込んでから口を開いた。


「すごい..魔法だわ..」

「おっと?」


 どうやら彼女の頭の中は夢の国だったようだ。とりあえず誤魔化せたようなので俺は翔さんにお礼を言おうとそちらを見ると、翔さんは熱心に掃除をしていた。俺は女の人を見て苦笑いを見せた。


「あはは..あの人掃除大好きなんですよ..変わってますよね(笑)」

「マメな人なんですね! お二人とも、この度は命を助けてくださり本当にありがとうございます! 命の恩人です! またどこかで会えたらその時は私がお二人の力になりますから!」

「いえいえ..俺は何も..」


 深々と頭を下げ、女の人はその場を後にした。というか、彼女の名前..どこかで聞き覚えがあるような気がするがまあ良いだろう。殺し屋なのになんか良いことをしたような気分で少し複雑な心境ではあるが、俺は翔さんの元に駆け寄り言った。


「翔さん! 2度もありがとうございます!」

「別にお前の為じゃない、依頼だからだ」

「そうですね..! でも翔さん、俺殺し屋になるとは言いましたけど変わりませんからね」

「何がだ?」

「人を殺さない殺し屋になることですよ!」


 翔さんは少し笑った。実は今日助けた女の人が今回の依頼の標的だったと気づいたのは社宅に帰ってからのことだった。こうして波乱の1日は幕を閉じ、俺と翔さんは今、とある高校の教卓の前に立っていた。


「え..えと..今日からお世話になります、転校生の佐江那 伊男です! 宜しくお願いします..!」

「颯陸 翔だ。気に食わない奴はころ..」

「コロンブスなんですよね? そう、この人コロンブスがどうしても気に食わないらしいんですよあはは..」


 翔さんがとんでもない事を言おうとしたので俺はなんとか誤魔化した。すると、1人の生徒が立ち上がって突然大声を上げた。


「ああ!! お2人は先日命を助けてくれた人ですか?!」

「ん? もしかして..開運寺 強子(かいうんじ きょうこ)さん?!」

「はい! まさかまた会えなんて! こんな偶然もあるものなんですね!(笑)」


 この出会いが本当に偶然であるなら神様はどれほど意地悪なんだろうか? まさか命の恩人が貴方の命を狙っているとは..本当にこれからどうなってしまうのだろうか..こうして俺たちの波乱の高校生活が幕を開けたのだった..


読んでいただきありがとうございます。

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