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11 生活魔法と属性

「合格だよ。よく頑張りました」

「やった!」


 握りしめた拳を空高く突き上げ跳ね回る。俺の周りは光る文字に埋め尽くされていた。ついに俺はやったぞ! クロ兄の許可が出たところで、いよいよ実際に魔法陣を教えてもらえることとなる。


「まずは生活魔法からだ。生活魔法の魔法陣は、限界まで簡略化させられているのが特徴だね。その代わり詠唱で補うんだ」


 生活魔法は、誰にでも簡単に使えるように改良されてきていて、適性の属性を持っていなくても使える。クロ兄が地面に描いたのは、円の中に八芒星、三角形、逆三角形、の3種類だった。これらをなぞることで習得するのだ。


 まずは、円の中に八芒星のものからだ。これは、「点灯(ライト)」の魔法陣だ。主に照明として使うものだ。セオリー通りに、円を最初になぞる。それから中に八芒星だ。なぞり終えると、なぞった跡が金色に光った。

「くろにぃ、いろがちがうよ?」

「魔法陣として成立しているものは属性の色に光るんだ。『点灯(ライト)』は光属性だね」


 魔法陣として成立していない図形や文字は、本人の魔力の色で光るのだという。その色を「魔力の基本色」というらしい。俺の場合は紫だ。クロ兄も紫だが、俺のが明るめの紫なのに対して、クロ兄のは少し暗めの青紫だ。魔力の色はひとりひとり違っていて、全く同じ色の人間は存在しないのだという。


 円の中に三角形の魔法陣は、「点火(イグニッション)」だ。なぞり終えれば、赤く光った。赤は火属性を示しているらしい。この魔法は、火種として使う。魔法でつけた火は通常の火より消えにくいのだ。これはめちゃくちゃ便利な魔法だと思う。俺たちスラムの人間は、火打石と火打金を使って暖炉に火をつけている。これが結構手間だ。そして、一度つけた火が消えないように管理しなければならないのだ。


 最後に、円の中に逆三角形の魔法陣だ。「出水(ウォーター)」である。光った色は青で、水属性だ。この魔法は、生活用水に使う。王都の人間は、ほとんどの人間がこの魔法を使えるので水が原因の病気の心配がないのだ。スラム街では近くの川の水が飲まれているが、正直あまりきれいとは言えない。せめてもの抵抗に俺たちは煮沸してから飲んでいるが、蛇口をひねればきれいな水が出た前世が恋しくなる。


「生活魔法の魔法陣は、浮かべて決まった呪文を詠唱すれば誰でも簡単に魔力が流せる、という話だったね」

「いちおう、やってみるね」


 ダメ元ってやつである。思い浮かべれば、右手の中に金色に光る魔法陣が浮かび上がる。


「やさしきひかりよ、やみよをてらせ、『点灯(ライト)』!」


 言い終わった瞬間、心臓が大きな音を立てた。脈が速くなって、ぐるりと体の中でナニカが渦巻くような感覚がする。それが指先に向かっていき、……薄い氷が割れるような音がした。魔法陣を見れば、跡形もなく消えていた。これが「魔力を流せない」という感覚か、と俺は唸り声を上げる。クロ兄がそんな俺を見て笑う。


「ふふ、体の中を魔力が巡る感覚は分かるかい?」

 先ほどの感覚がそうなのだろうか。だったら、魔力はちゃんとあるんだって感じ取れたってことでいいよね? 

「うん!」

「その感覚を大事にしようね。魔力の操作は魔法の基本中の基本だ」


 魔力操作が上手くなれば、普通の人間だとは思えない身体能力や異様な防御力を得ることが出来るらしい。クロ兄が痩せていて筋肉量も少なそうなのに、重いものを軽々と持ち上げたり、屈強な盗賊をぶっ飛ばしたりしているのは魔力による身体強化のおかげらしい。


「さ、初級魔法の魔法陣から覚えようか。これは適性属性の調査も兼ねるんだ」


 各属性の初級魔法は、ボール系魔法と呼ばれるものだ。10段階あるといわれる魔法の中では一番難易度が低いものなのだそうだ。俺が見た「火球(ファイヤーボール)」は火属性のボール系魔法だったということなのか。


 これら初級魔法は、その属性に適性を持っていれば誰でも魔法を発動させることが出来るので、適性属性の調査に使われるようになったのだとか。適性属性が派生属性だった場合も、派生元の属性の初級魔法ぐらいなら発動できるので、基本の4属性で調べてからその系統の派生属性の調査をするらしい。


 王家の人間や上級貴族は膨大な魔力と強い適性を持つ。適性は、家ごとに引き継がれる属性であることがほとんどだ。貴族たちにとって魔力量と適性は重要なステータスなのだ。もし、両親や親族が持たない適性属性の子が生まれると、血縁を疑われてお家騒動になることも。血筋って怖っ!


「突然変異、先祖返りもあることは確実だよ。まれではあるけれど、貴族の子で適性の属性どころか、魔力も持たない人もいるし、平民で親族に魔力を持つ人がいなくても膨大な魔力と強い適性を持って生まれてくることもある」

「へんけんはだめってことだね」


 複数の属性に適性がある場合、最も高い適性を持つ属性を「主属性」、それ以外を「副属性」と呼ぶ。基本の4属性の土属性と、その派生の木属性の二つの適性を持っているとき、より適性が高い方が主属性ってことだ。たいてい、派生属性を使える人はそちらの方が適性が高い。ちなみに、王家で基本の4属性全てに適性を持つ王子様が生まれた時は、お祭り騒ぎだったのだとか。


 複数の属性に適性といっても、基本の4属性から複数適性を持つことは上級貴族でも滅多にない。王族では、10人に1人ぐらいなのだとか。それって、多いの少ないの?と思ったが、この国の国王は前国王の指名制で、生まれた順は関係ないそうだから、適性の属性がステータスといわれる世の中で、4属性から複数適性を持っている時点でほぼ王位確定とされるのだ。それが、4属性全てとなれば……


「ようするに、めちゃくちゃすごい、ってことだね!」


 実感がわかないが、すごいってことだけは分かった、ような気がする。前世日本人、まず絶対権力者という存在のイメージがあまりできていなかった。クロ兄の話を聞いてるうちに、ちょっとはできるようになっていると思いたいが正直どうなんだろう。まあ、俺が関わることは一生ないわけだから(震え声)。とりあえず、この世界の人間の命、特に最下層のスラム街の人間の命が恐ろしく軽いことは理解した。不敬イコール死ってこと! 


「うんうん、すごいことだ。王位争いにならないのは有り難いことだね」


 クロ兄は、俺のしょうもない感想に深く頷き、そして僅かに口角をあげた。おそらく偉い貴族様だったクロ兄の言葉には、俺の「すごい」とは比べものにならない重みがある。






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