1 転生
日曜日。休日といえども、俺には休みはない。朝からバイトがあるのだ。のろのろと朝食の準備をする。
大学生になって、親元を離れて一人暮らしを始めた。もう2年となる。初めの頃は、自炊をして洗濯をして、と張り切っていた訳だが、1ヶ月も持たなかった。今や、ペットボトルやコンビニ飯の残骸、脱ぎ捨てた服の散らかった汚部屋である。
バイトをしなきゃ、生活が出来ない。友達と遊ぶ時間もない、彼女もいない。バイトから帰って夜な夜なゲームをする。そんな生活だ。
大学に憧れていた高校時代の自分をぶん殴ってやりたい。
戸棚を開けて愕然とする。溜め込んでいた、パンもカップ麺もない。思わずため息が出た。
「ふああぁ」
特大のあくびをしながら、バイト先へと向かう。
歩道を進んでいくと、工事現場の騒音が聞こえてきた。こんな朝から近所迷惑じゃないのかとか考えながら、もう一度あくびをした。
バイトが始まる前から、何だか疲れた感じがした。
「おい!! そこのあんた!!」
そんな焦ったような声が上から降ってきた。何事かと上を向けば目の前に鉄パイプの影が迫っていた。
やけに頭に響くような衝撃を受けた。倒れた俺を潰さんとする衝撃が俺の体を襲う。
何とか動こうとするも、指先1本すら俺の思うようには動いてくれないようだ。
目の前に広がる真っ赤に染まった世界を見て、血ってこんなに赤いんだなとか、あの声は俺に向けられたものだったのかとか、妙な感想しか思い浮かばない。思考は靄がかかったようで上手く回らない。
俺はまだ死にたくない。だってまだ大学生だ。
でも、将来どうなりたいだとか、生きて何をしたいのだとか、何も思い浮かばなかった。そんなものだろう。
俺を送り出してくれた両親には申し訳ないという気持ちはあるけれども。
本当に、なんてことない人生だった。
そう思いながら、俺の意識は薄れていった。
――――――――――
意識が浮上する。
何だこれ息が苦しい。首を締められているような息苦しさだ。声を出そうにも上手くいかない。全身が熱を持ったように熱くて、痛い。
周りの人焦ったような声をあげているようだが、なんて言っているのか上手く聞き取れない。少なくとも、日本語では無いように聞こえる。
痛くて苦しくて、必死にもがいた。
息をするのも億劫になってきたころ、誰かが俺の左手首を触るのを感じた。
すると、さっきまでの苦しさが嘘のように消え失せていた。安心して息をついたとき、聞こえてきたのは、
「んぎゃあああぁぁ!」
そんな自分の泣き声だった。
意味が分からない。分からないが、どうやら俺は、赤ん坊になってしまったらしい。