斜陽倶楽部の○○○○○
「ふぅ。自分で改めて見たけれど……我ながら、随分思い切ったことをやっていたわね」
モニター室の一番立派な椅子に腰かけていた私はふぅ、と息を吐いて背もたれに寄りかかった。
視線の先では、半年前の私が緊張した面持ちでオークションの商品が発表されるのを見守っている。
『4つ目の商品、それはぁ~』
『な、なんと……!!』
『斜陽倶楽部の運営権!! つまりは、乗っ取りでございますッッ!!』
『ふひっ。なんて大胆不敵!! というより、頭がオカシイといっても良いですな!!』
そう、私がこのオークションで希望したのはコレだった。この連帯責任オークションを取り仕切る斜陽倶楽部のトップの座が、私はどうしても欲しかった。
何故かって?
だってこんなスリリングなショーを観れるなんて、ここ以外には日本のどこにも無いんだもの。
世界でも有数の企業を持つ親の元に生まれ、何不自由なく過ごしてきたけれど……それにはもう飽きた。
私には兄が居たけれど、親の資産は私にも分配されるだろう。きっとそれだけで何の苦労もせず、一生を終える。
親の見繕った男に抱かれ、子どもを産み、のほほんと一生を終える……あぁ、想像しただけで身の毛がよだつ。このまま最後の瞬間まで何の刺激も無く、ただ与えられたモノを享受して生きていくなんて。
だから私はこのオークションに目をつけた。
他のパーティに出席した際に偶然、このオークションが開催されるって情報を手に入れた。その時私は、生まれて初めて心の底から欲しいと思えるモノができたのだ。
だから、この機会をずっと狙ってきた。
『でぇすぅがぁ~!!』
『と、当時の斜陽倶楽部は法外な値段を吹っかけました』
『当たり前ですッッ。元々は複数の資産家により秘密裏に作られた、いわゆる貴族の集まりッッ!!』
『商品として出したものの……ふひひっ。そのお値段は何と、1兆円!! 小娘に払えるわけが無い』
やれるものならやってみろ、とでも思ったのか何なのか。斜陽倶楽部の運営陣は、アホみたいな額を提示してきた。もちろん、他の参加者にも払えるわけが無い。
だから私は結託することにした。
それも、運営以外の全員と。
まずはじめに、他の参加者たち。
彼らは1兆円なんて払えなかった。あらゆるプレッシャーに耐えながらここまで頑張ってきたのに、馬鹿な私のせいで滅茶苦茶にされたのだ。当然、彼らは怒り狂っていた。
しかも競りが流れれば、全員が2000億円の負債。とんでもない額だ。どうせ破産するならば、私一人でやれと罵られたっけ。
当然、私が落札すると言い切った。
これに関しては嘘も偽りも無い、本心だった。
当たり前だ、コレが欲しくて私は参加したのだから。
だが問題はその後だ。明らかに私の所持資産は足りないし、他の4人も差額を払えない。これを解決しない限り、協力なんてしてくれないだろう。
次に観客。
これに関しては私は私を担保にした。簡単に言えば、人質である。
会場に集まっていたのは資産家の集まりだっただけあって、両親の会社と付き合いがある人も居た。自画自賛になっちゃうけれど、もし私を手中に入れることができれば、色んなことに使えると思う。
結果的に言えば、私には5000億円の価値が付いた。
お陰様でパパの会社はのちに乗っ取られちゃったみたいだけれど……私は斜陽倶楽部を手に入れさえすれば実家がどうなろうと気にしない。
まぁ観客も、面白ければそれで良いってカンジだったのかもしれない。どちらにせよ、私には首輪が付けられたのだから。
私にとってはスリルが得られれば良かったから、お互いにそれでWin-Winだ。
ただ、これじゃあまだ足りない。
だけど、突破口はある。
目を付けたのは、最初に女の子を落札していた男。
私に融資してくれた観客のひとりを、彼にも融資させた。
斜陽倶楽部のオーナーが私になれば、彼の所有権は私になる。少女の自由と引き換えに、私は彼を仲間に引き入れた。このままではどちらにせよ詰んでいたし、少女を失ってしまうよりも私が救った方がマシだろう。
さすがに私よりかは価値は下がってしまったみたいだったけれど、それでも彼についた値段は2000億円だった。
だが彼が味方に付いたおかげで、形勢は完全にこちらが有利になった。
数では2対3だけど、問題は無い。
最後の仕上げは脱落した大男さん。私は、あの縛られていた彼を使わせてもらった。私は大男さんが転がっている部屋に行き、こう囁いた。
『最後のオークション、貴方は自分自身を希望しなさい。そうしたら、私が救ってあげるから』
そう、5つ目の商品を希望したのは彼だった。
しかしその前に所持金がマイナスになってしまったので離脱してしまったけれど、参加する権利はまだ失ってはいなかった。
だから私は、彼に自分を出品させて資金を稼がせたのだ。
4つ目の商品を落札した私はここのオーナーだ。当然、大男さんの所有権は私にある。
つまり私は彼を出品することも、好きな値段を付けることもできる。
誰も借金持ちの男を落札なんてしない。
競りが流れれば、その分の金額が私に丸々返ってくることになる。
だから私は、彼に4つ目の商品と同じ1兆円の値段を付けた。
――これで、ゲームオーバーだ。
こうして私は、参加者全員を巻き込んでこの斜陽倶楽部のオーナーとなることができた。
まぁ1兆円なんて吹っかけちゃったけれど、4人からそんな額を回収するなんて不可能だった。最初に借りた5000億円はもちろん、返せない。
だから私は雇われオーナーとしてここで働くことになった。まさか私が、彼らの借金まで肩代わりするハメになるとは思わなかったけど……今は向こうの会場で司会として無理矢理働いてもらっている。
そんなことよりも、だ。紛いなりにも、私が第2回連帯責任オークションのオーナーとなったのだから。今回のショーを思う存分、楽しませてもらおう。ルールも前回には無かった項目を独断で追加した。
『ルールその7。支払い能力をオーバーした場合、その者はオークション終了後に自身を支払いに使用される』
ゲームオーバーになった参加者には、楽しいショーを演じてもらうように変更したのだ。
だから今回はよりエキサイティングになってくれると良いな~。
「なにより、今回は参加者も面白いことになりそう……!!」
何故だかは知らないけれど、今回の参加者には私のお兄ちゃんが居る。
何を思っての参加なのかは分からないけれど……私を存分に満足させてね、お兄ちゃん♪
――第一部、斜陽倶楽部の新オーナー編 完
ここで第一部は終了です。
第二部からは主人公が変わり、本格的なゲームがスタートする予定です。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
ルールの矛盾点や疑問点がございましたら感想などでくださると嬉しいです。
評価やブクマは創作の励みです!
そちらも是非、お願い致します。