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こちらが商品の『囚われの○○』でございます。

「はぁい、それではみなさん。ルールの説明に戻りましょう! 第1回の映像を流しますので、こちらにご注目ください!!」



 壇上にいるウサギの仮面をした司会はスクリーンへと手を向けた。


 そこには第1回目の連帯責任オークションの様子が映されている。幾つものウィンドウに分割されており、当時の会場の賑わいや参加者たちの動きがリアルタイムで撮られているようだ。



「ふひひっ。第1回目にもかかわらず、開始前からかなり盛り上がっていますね! お次は参加者たちの様子を覗いてみましょう!!」



 司会の台詞に合わせて5つのウィンドウがピックアップされ、拡大されていく。

 各ウィンドウには全く同じ内装の正三角形の部屋が映っている。そしてそれぞれの部屋には、参加者が1人ずつ隔離されていた。



「彼らこそ、連帯責任オークションの参加者として選ばれた者たちでございますッッ!! 5人全員が、部屋に用意されたモニターを随分と真剣な表情で見つめておりますね~。ですが、それも当然でしょう。そこにこそ、彼らが参加した理由があるのですからッッ!!」



 続けてオオカミ仮面の司会が「彼らが見ている映像が、こちらのウィンドウですッッ」と言うと、スクリーン上に新たなウィンドウが出現し、何処かの部屋が映し出された。


 薄暗い部屋を、天井から吊られた裸電球がぼんやりと照らしている。

 部屋の中央に鎮座しているのは、如何にも座り心地の悪そうな金属製の椅子。そこには一人の少女が目隠しをされた状態で座らされていた。


 身じろぎはするものの、椅子の上からは動くことができない。どうやら彼女は縛られ、この部屋に監禁されているようだ。まるで電気椅子で処刑を待つ死刑囚のようにも見える。


 この映像を見ていた会場の観客たちは、ザワザワと騒ぎ始めた。ただ、それは恐怖や困惑といったものではない。興奮する者やニヤニヤと意地の悪い笑みをする者など、好意的に見ている輩がほとんどだ。

 いったいこれから、どんな残虐なショーが見られるのか。そんなことを期待しているような(フシ)さえある。



 だが参加者たちはそうでは無かった。

 口元を押さえて驚愕の表情を浮かべる者や、目を背ける者など。


 その中でも、特に顕著な反応を示した男がいた。

 可哀想な少女の様子を見ていた5人のうち、1人が突然立ち上がったのだ。



『今すぐ解放しろ』『許さねぇ』『会わせろ』



 そんなことをモニターに向かって叫びながら、部屋の中で暴れ始めた。



「お、おっと?? ど、どうしたのでしょう? このままではオークションどころではないですね。ま、まぁ心配はございません。我が斜陽倶楽部は……た、対策もバッチリでございますので……」



『ぐぎゃっ!?』



 突然その人物がビクン、と跳ねた。しばし呼吸が止まっていたのか急に息をカハッと吐き出し、フローリングの床に崩れ落ちた。


 運営が何らかの方法を使い、遠隔で痛めつけたのだ。どうにか立ち上がったその人物は苦痛に歪んだ表情を浮かべながら、大人しくノートパソコンのある席へと戻っていった。


 運営に見られていることを思い出して冷静を取り戻したのだろう。目はキッとモニターに向けたままだが、先ほどまでの反抗的な態度は失われてしまったようだ。



 そんな過去の映像を現在のオークション会場で見ていた者たちから、ドッと歓声が上がった。

 こんなサディスティックな演出でも、観客にとっては愉快な娯楽でしかないようだ。



「ふひひひっ……そうです。この囚われた少女こそ、オークションにかけられた最初の商品でございます。 ルールその1、『出品された商品は事前に参加者が希望したものが用意される』。いやぁ。彼が希望したのはなんと、人間だったのですねぇ」


「わ、私たち斜陽倶楽部では、ありとあらゆる希望に応える力を持っております。彼の望みを叶えた私どもは、なんて善き人間なのでしょう……」



 ヒヨコの仮面をカタカタと揺らしながら皮肉を言う司会の言葉に、会場はさらに沸いた。

 少なくとも、この場に善人と呼ばれる者は存在しないだろう。



「はぁい。そしてルールその2は、『出品者が決めた即決額(上限)からスタート』です。さぁてぇ~、この少女にはいったい幾らの価値がつけられたのでしょう~?」



 参加者全員が再び席へとついた瞬間。ノートパソコンの画面に、()()()()()()()()が映し出された。



「おおっと、1億円ですッッ!!」


「ここにいらっしゃる方々にとっては、端金かもしれませんが……彼らをご、御覧ください」


「ふひひっ。初手でこれは中々に難しい金額のようで。皆さん、随分悩んでおりますねぇ。……ですが、時間は刻一刻と過ぎていきますよ」


「さぁて~、彼らはどうするのでしょうねぇ。果たして、少女は幾らで落札されるのかぁ~!?」



 これが出品者がつけた、彼女の値段。人ひとりの値段とはいえ、かなりの大金である。一つ目から高額な商品が出てきたことで、モニターの前の5人は相当難しい顔をしている。


 しかし金額の下にあるデジタルのタイマーは既にスタートしており、カウントダウンが始まっていた。



 いったい誰が幼気(いたいけ)な少女を出品したのかは分からない。だが少女が売り物だということは、これから落札した者が所有権を得るということは明白だ。


 そう、彼女の運命は参加者5名の誰かに握られていた。


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