51:エミリアの独白
エミリア・ハイゼルは昔から美しい娘だった。
その美しさは国王陛下にも気に入られるほどのものだった。
彼女が成人を迎えた頃から、国王は視察と称して定期的にエミリアに会いに、伯爵領を訪れていた。
エミリアは自分を見る王の目が気持ち悪くて、最低限にしか接触しなかったが、彼はそんなことは気にしなかった。
訪問を重ねるごとに、毎回お見送りの時しか顔を見せない彼女に心酔していった。
やがて、王の愛妾として城に囲いたいという話が上がった。
一夫一妻制のこの国で愛妾として城に上がるなど、きっと幸せにはなれない。
それがわかっていた伯爵夫妻は、エミリアの病気を理由にやんわりと断った。
そんなある日、王は護衛にウィンターソン公爵を連れて伯爵領にやってきた。
あれは事故だったとハイゼル伯爵夫妻は言う。
夫妻はアルフレッドが王家の血筋であるから、魔力を持つ人間であると思い込んでいた。
だからエミリアに挨拶をさせた。
しかし後に彼はエミリアと同じ、魔力持ちから生まれた魔力を持たない人間だったことを知った。
魅了を掛けてしまったとわかったハイゼル伯爵夫妻は焦った。
このままではアルフレッドはエミリアを求めてしまう。何とかしなければとそう思った。
だが、どこかで打算もあった。
ウィンターソン公爵家は王家に並ぶほどの高位貴族だ。
彼の妻になることができれば、エミリアは王の愛妾にならずに済むかもしれない。
魅了されている彼ならば、エミリアのことを幸せにしてくれるかもしれない。
ハイゼル伯爵夫妻はそんな打算もあり、エミリアに会いにきたアルフレッドを追い返しはしなかった。
その後、案の定アルフレッドはエミリアと結婚したいと言ってきた。
罪悪感もあり、始めはやはり彼の申し出を断るべきかと悩んでいたが、そうしている間に、王がエミリアを迎え入れるための準備をし始めたとの情報が伯爵夫妻の元に入った。
夫妻はもう迷ってはいられないとアルフレッドの申し出を受け入れた。
その事実を知った王は怒り狂った。
あらゆるところに圧力をかけ始めた。
だから、トランク一つと侍女を2人持たせて家から追い出した。
伯爵家にいるよりも公爵家に身を寄せた方が安全だから。
そうして、アルフレッドとエミリアは駆け落ち同然で結婚した。
『私、知っていたの』
エミリアは静かに涙を流しながらそう語る。
自分に不思議な力があることも、両親の企みも、全部知っていた。
それでも流れに身を任せてアルフレッドの元へ行ったのだと。
シャロンはエミリアの前に跪き、彼女の手をぎゅっと握る。
「どうして、拒否しなかったのですか?」
『幸せになりたかったの』
アルフレッドが良い人だと言うのはわかっていた。
魅了されているだけだとしても、きっと自分を大切にしてくれる。
ずっと病に苦しみ、辛い思いを生きてきたのだから、最後くらい幸せになってもバチは当たらないと思った。
どうせ自分はすぐに死ぬのだから、と。
ウィンターソン公爵の妻として屋敷の皆の記憶に残らないように、皆を魅了してしまわぬように、使用人とは距離を取った。
そして自分が死んだあと、いつかアルフレッドが後妻を取り、その人と幸せに暮らしてくれれば良いと思っていた。
けれどエミリアはアルフレッドに恋をしてしまった。
すぐに死んでいなくなる予定だったのに、彼と共に生きる未来を願ってしまった。
だから『アルフレッドと生きる未来を与えてあげられる』という王の口車に乗り、自ら屋敷を出た。
「…もしかして、離宮での生活を覚えていらっしゃるのですか」
『全部は覚えていないわ。断片的には覚えているけれど』
1年目、魅了のことを知らないふりをして、複数人の魔術師に『お願い』をした。そして、臓器を譲ってもらった。
たった一度で終わると思っていたから。
しかし、結果は5人も殺したのに、その命は持って1年と言われた。
絶望したエミリアはその時心を閉ざした。
そこから先のことはあまり覚えていないのだそうだ。
離宮から救出されるまで、アルフレッドがそばにいてくれたような気もするし、そうじゃないような気もする。
『でも、シャロンによく似た雰囲気の人だけはずっとそばにいてくれた気がするの』
だからシャロンの側は心地が良いとエミリアは言う。
ずっと誰にも言わなかった話をし終えたエミリアはシャロンの手を握りながら、ごめんなさいと泣き崩れた。
シャロンはそんな彼女に優しく声をかける。
「それ、私に話されても困るんですけど」




