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パーティーの会場には見事な庭園があった。
色とりどりの花が植えられていて、よく手入れされている。
といっても、分かるのは薔薇くらいしかない。あの紫の花は朝顔だろうか。
「綺麗なダチュラねぇ」
うっとりと呟く母。ダチュラだそうで。
アーメナはこの辺りにはいないようだ。ここに留まれば、接触を避けられるかもしれない。
顔を合わせた人達と、挨拶をする。名家の長男らしく、礼儀正しくだ。何人かと挨拶したところで父が困った顔でこちらを見つめて、
「うーん。もう少し愛想良くできないかい?」
と、苦笑交じりに一言。
………なるほど。
声を掛けて来る人が後を絶たない。そろそろ疲労が溜まってくる。しかし、名家の長男らしい挨拶を続ける。礼儀正しく、愛想良くだ。
「そろそろ向こうに行きましょうか」
声を掛けて来る人の波も一旦引き、一息つこうかとしているところで、母が言った。
いや、それは困る。向こうには多分アーメナがいる、とは言えず口ごもっていると、父に手を引かれてしまい観念した。
シャンデリアが輝く室内に、渋々足を踏み入れる。
「おっ。ノーラドさんがいる」
父の視線の先に、アーメナが立っていた。
なるほど。間違いない。将来悪女になりそうな顔をしている。
アーメナは漫画よろしく、濡鳥色の髪をしていた。隣にいる父親も同じ髪色だった。
漫画を読んでいた時には気が付かなかったけど、この世界では黒髪が少ないので、かなり目を惹く。人形のように整った顔に、真っ白い肌…………なんだろう違和感を感じる。
まあ、まだ幼いから当然か。
漫画でのアーメナの姿を、思い描く。
………あっ! そうか。
「………………髪が、」
不味い、声に出ていた。
そうだ髪がくるくるじゃないのだ。
「私の髪がどうかしましたか」
聞こえてたのか。結構小さい声だったぞ。
「いや、何でもない」
咄嗟そう言うと、アーメナは俺を睨んできた。
鋭い目つきに血の気が引いていくのを感じる。言い訳が出てこない。
何も言わずにいると、俺を見つめる顔が一層険しくなっていく。
殺される。このままじゃ殺される。…あれはそういう眼だ。
「分かったよ。………髪が綺麗だなと、思った」
これしか思いつかなかった。
アーメナは納得していなそうだったが、ひとまずその場は収まった。
彼女に好意を持たれるような言動は、控えるべきだった。でも、仕方がなかった。命の危機が迫っていたのだ。髪が、までしか言っていなくて本当によかった。髪がくるくるじゃない、まで言ってしまっていたらと思うと………。
想像して背筋が寒くなる。
そして、てっきり天然のものだと思っていた、アーメナのあの髪、実はパーマをかけるか、巻くか、して作られたものだと分かった。驚きだ。