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 学校での休み時間、さっそく二人に昨日の話をしてみる。


「へえ。コリス君のお友達が遊びに来たんですね」

「素敵ですね!」


 想像よりいい反応だ。しめた。この感じなら家に誘えそうだ。


「私たちも誰かの家で遊びましょうよ」


 エリンちゃんが口をとがらせる。あまりにも完璧な流れだ。私が「じゃあ」と口を開くより「よかったら、うちに来ませんか?」と、ソフィちゃんが言うのが先だった。


 えっ。ソフィちゃんのお家?

 考えていたものは違うものの、これはこれで嬉しい展開だ。


「いいんですか? 行きたいです」と、エリンちゃんが身を乗り出す。


「私も、ぜひお邪魔したいわ」

 

 ソフィちゃんのお家か。どんな感じなんだろう。 


「ぜひ来てください」


 ソフィちゃんがほほ笑んだ。




 日曜日。私たちはソフィちゃんのお宅へとやってきた。

 先に合流したエリンちゃんと二人、門扉の前に立つ。


「え、ここで合ってますよね?」


 ノッカーで扉を叩こうとしていた手を止め、エリンちゃんが私を振り返る。


「表札もあるし、間違いないと思うけど…」


 目の前に広がるのは、個人が管理しているとは思えないほどの、きれいな庭園だった。色どりどりの花が植えられ、なおかつよく手入れが施されている。中でも目を引くのが、咲き誇るバラだ。しばし顔を見合わせた私たちは、うなずきあい、ノッカーで門扉を叩く。すると、どこからともなく、白髪の男性が現れた。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 執事の方に案内され、動物の形に選定された木の横を通り、ツルバラのアーチをくぐりやっと、家のドアにたどり着く。


「アーメナ様、エリンさん」


 弾んだ声とともにドアが開き、ソフィちゃんとソフィちゃんのお母様が出迎えてくれた。ソフィちゃんは花柄の白いワンピースに身を包んでいて、とても素敵だった。隣に立つソフィちゃんのお母様はソフィちゃんによく似た可愛らしい人で、私たちをこぼれるような笑みで歓迎してくれた。



「ソフィさんのお家すごいのね。お庭、とってもきれいでうっとりしちゃった」


「母の趣味なんです。手入れが大変なんですよ」とソフィちゃんが困ったように笑う。


「お家の中もすごいわ!」エリンちゃんはソフィちゃんの家に来てからというもの、キラキラした眼差しであたりを見回し続けている。ソフィちゃんの家は家の中も白っぽいロココ調の家具で統一されていて、それはそれは可愛かった。


「家の内装も母の趣味ですね」


「そうなのね」


「あと」と、ソフィちゃんがいたずらっぽい笑顔でワンピースのすそをつまんで見せる。「この服もです」



 ソフィちゃんに案内されるまま、ソフィちゃんの自室にやってきた。


「ここね! 楽しみだわ」


「どうぞ」という言葉とともにドアが開かれると、エリンちゃんが虚を突かれたかのように固まり、ソフィちゃんが吹き出しそうになっていた。


「母の趣味が嫌なわけではないんですが、私はこういう方が好きで」


 エリンちゃんの部屋は、ダークブラウンの木目調の家具で統一された、落ち着いた空間だった。勉強机に、ソファー、ベッド、背の高い本棚が並ぶ。


「とってもすてきな部屋ね」


 私が言うと、ソフィちゃんは「ありがとうございます」と笑った。


「たしかに居心地のいい部屋だわ」


「でも、エリンさんちょっとがっかりしてるでしょう」


「そ、そんなことないわよ」



 私が持ってきたお菓子に、エリンちゃんが持ってきたお菓子に、ソフィちゃんが用意したお菓子。その全部がテーブルに並べられる。心躍る光景だ。そこへティーセットが運ばれてくる。


「わあ! かわいい!」


 ティーカップも、添えられたティースプーンさえもバラの装飾が施された乙女心をくすぐるものだった。


「ソフィさんの家は可愛いものであふれてるのね。羨ましいわ」


 エリンちゃんがうっとりとつぶやく。


 お菓子と紅茶を楽しみながら、私たちは話に花を咲かせた。

 家族のこと、学校のこと、そして、いつも通りサビスの話になったところでエリンちゃんがおもむろに切り出した。


「アーメナ様はサビス様のこと、どう思ってるんですか。いつもあまり興味を持たれていないですよね。サビス様の話に」


 口に含んだ紅茶が変なところへ入りそうになる。

 まさかこっちに話が飛んでくると思わないじゃないか。


「そうですわ。そこのところどうなんです」


 二人につめよられ、たじろぐ。どうっていわれても…。

 いつもならなんとなくごまかしてしまうところだけど、今日はどうも胸の内を少し打ち明けたい気分だった。二人の反応がかなり怖くはあるけれど。


「私はサビス様のことはなんというか…」


 二人はどんな反応をするのだろうか。考えたくはないけれど、嫌われたり、距離を置かれたりする可能性だって十分にあるのだ。やっぱり話すのはやめておこうか。


 二人はじっと私の言葉を待っていた。そんな風に見つめられると緊張して余計に言いづらいじゃないか。そんなに真剣に聞くような話じゃないのに。


「…恋愛的な意味では魅力を感じないの」


 だって、精神的な年齢で言えば5つくらいも年下だし。

 この世界のサビスは漫画と違って、魅力が半減してる気がするし。

 そもそも私は、前世ではユーグ君派だったし。

 サビスのようなクール系よりも、物腰柔らかい人が好みだし。


 二人は私の言葉に息を吞み、固まってしまった。


 最初に口を開いたのはエリンちゃんだった。


「ど、どうしてですか?」


「サビス様のどこがダメなんです」ソフィちゃんも続く。


「私は、なんというか…年上の方のほうが好みみたいなの」


「サビス様は大人っぽいじゃないですか。同い年とは思えないです!」


 たしかにサビスは年齢の割に落ち着きを払ってるし、大人びてる。立場のせいなのかな。


「サビス様に魅力を感じないだなんて…」


 ソフィちゃんが信じられないという顔をする。


「アーメナ様」


 な、なんでしょうか。ソフィちゃん。


「サビス様ファンクラブに入ってください」


「…え?」


 聞き間違いかと思うくらいに予想外な言葉だった。


「そうすればサビス様の魅力がアーメナ様にもわかります」


「そうですわ! 私たちでサビス様の魅力を教えます」


「ちょうどいいので、会員証を発行しちゃいますね」


「私も手伝うわ!」


 呆気にとられている内に話が進んでいる!

あわてて会員証を用意するため部屋を出ようとする二人をとめる。二人とも心底不満げに席に着いた。


「…気を悪くした?」


「なににです?」ソフィちゃんが小首をかしげる。


「…サビス様に魅力を感じないっていう発言」


「サビス様ファンクラブに入らないことに気を悪くしてます」


「私もです。入会してください」とエリンちゃんが口をとがらせた。


 ご立腹のようだ。


「サビス様に魅力を感じない云々は、アーメナ様のこと見てたらさすが伝わってきてましたし」


 ソフィちゃんの言葉にエリンちゃんはこくこく頷いてみせる。


「アーメナ様ってば、サビス様の話ぜんぜんきいてないし、なにかと話題変えようとしてきますもん!」


「割と態度にでてます」


 そうなんだ。これでも隠そうとしていた方なのに。いや、途中からあきらめてたかな。でも、気を付けてはいたはず。


「アーメナ様ってあんまり自分の気持ち話さないじゃないですか。だから、こうやって話してくれたことは嬉しいです。…内容に関しては残念なかぎりです」


「そうですわ。心中を話してくれたことに関しては嬉しいです」

 

 口々に言う二人に、私は心底ほっとした。すべてを話すなんて到底無理だけど、それにしても私は私のことを話さなすぎだった。二人の言うとおりだ。


「そうね。これからはもっと話すわ。私のこと」


「そうしてください」


 二人は頷き笑って見せた。


 仕切り直しに、私たちはティーカップを軽く持ち上げ乾杯をした。そうして飲んだ紅茶は、びっくりするくらい美味しかった。





 


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