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2日目最初の予定は陶芸体験だ。実は私、これには少し自信がある。なんたって、前世で一番の得意教科が美術だったのだ。
考えた末、花瓶をつくることにした。部屋に飾れそうだし。
先生にならって、粘土を柔らかくした後、台座にセットする。
ろくろを扱うのは初めてだったので、要領を得るまで時間はかかったものの、できた作品は周りと比べてもなかなかの出来だった。
「まあっ!アーメナ様お上手です」
「さすがです!」
みんなも口々に褒めてくれる。
「ありがとう。みなさんのも素敵だわ」
できた作品を乾かすべく、棚に置いていると、あるテーブルの周りに人だかりができているのを見た。言わずもがなサビスのテーブルだった。ユーグ君もいる。
いつものことなので、特に気にせず、自分の席へ戻ろうとしたとき、「凄いです!サビス様」と声が聴こえてきた。
人だかりの切れ間から、サビスの姿が見えた。ちょうどろくろを回しているところだった。
…えっ、うまっ!
てっきり太鼓持ちだと思っていたのだけど、先生がお手本として見せてくれたような、なめらかな手つきだった。
確かに漫画でのサビスは文武両道でなんでもそつなくこなすキャラだったけど、こっち方面までさらりとこなしてしまうとは…。漫画では描かれなかった一面だ。
「サビス様芸術の才能もあるのね!」
「素敵ね〜!」
作品を置きにきたみんなは口々にサビスを褒め出した。
…なんか、面白くない。
一方、隣のユーグ君は…奇妙な形の物体を創っていた。そうだよね、最初から上手く作れる方がおかしいのだ。ここからどうするんだろうかと思っていたら、ユーグ君は手を止めて、満足気に頷いた。あっ、これで完成なのか。
「…ユーグ様、なんて言っているのかしら」
サビスに話しかけるユーグ君を見て、ソフィちゃんが呟いた。
「感想を求めているように見えるけど…」
視線が集まるなか、サビスは頷きながら何かを言った。それを聞いたユーグ君が満面の笑みを浮かべる。
サビスの意外な一面を知った。
続いて、ワイナリーの見学に行った。
青い空と緑に覆われた峰を背景に、広大な葡萄畑と赤みがかった煉瓦の建物がある。一枚の写真のような風景が目の前に広がっていた。気持ちのいい風を受けながら、葡萄の種類についての説明を聞き、醸造所での見学に移った。大量の葡萄が機械で潰される様子や一面に樽が並んだ様子は見応えがあった。
当然、ワインのテイスティングはできなかったものの、美味しい葡萄ジュースを飲ませて貰えた。
ホテルの部屋に帰ってきた私たちは示し合わせたように、ソファーへ傾れ込んだ。
「…疲れましたね」
「たくさん歩いたものね」
二人は頷く。
「どうして、ワイナリーなんでしょうね。思っていたよりも、楽しめましたけど」
「そうよね」
昼食はワイナリーが経営するレストランで食べたのだけど、ワインとの相性を楽しむような料理が主だった。美味しかったけど。
「サビス様が陶芸をする姿は素敵でしたね」
「ええ。うっとりしてしまいました」
ひと通りサビスについて語り終えると、ソフィちゃんは宿泊旅行のしおりを取り出してパラパラとめくった。
「夕食まで時間がありますけど、どうしますか?」
私は咄嗟に言っていた。
「ラウンジに行くのはどうかしら」
昨日のリベンジだ。
ラウンジにはちらほら生徒がいるのみで、空いていた。私たちは窓際の景色がよく見える席に腰掛ける。
「わぁっ! 自家製ジェラートが食べられるんですね!」
「そうなの! 美味しそうよね」
ジェラートには定番から、アボカドやとうもろこしといった変わり種まであった。
私たちはそれぞれ、ジェラートと飲み物を注文する。冒険せず、王道を選んだ私と違い、エリンちゃんはとうもろこしをソフィちゃんはアボカドをチョイスしていた。
「二人とも勇気があるわね」
二人は顔を見合わせた。
「意外と美味しいそうだと思ったので」
「私もです。とうもろこし味って絶対美味しいですよ」
ええ…そうかな?
運ばれてきたジェラートは色鮮やかで美味しそうだった。二人がスプーンを口に運ぶのを思わず注視してしまう。
「あっ、アボカドですね」
ソフィちゃんが目を見開く。
「美味しいです」
エリンちゃんのとうもろこしも美味しかったらしく、一口食べるなり大絶賛だった。私が頼んだマンゴーのジェラートももちろん美味しかったけど…やっぱり気になる。
ソフィちゃんの2日続けてベットを一人で使うのは申し訳ないという申し出で、もう一度じゃんけんをすることになった。
結果、エリンちゃんの一人勝ちという最適解が出た。




