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 部屋のドアを開けるとエリンちゃんとソフィちゃんがパタパタと駆け寄ってきた。


「アーメナ様!貴重な自由時間が終わってしまったじゃないですか。シャワーを浴びたら、すぐ消灯時間ですよ!三人で語り合おうと思ってたのに!」

 と、エリンちゃんが捲し立てる。


 私は事の転末を話した。サビス云々のくだりは濁して。


「…B組ですか」


 ソフィちゃんが苦い顔をした。


「大変みたいですね」


「そうみたい。私はまるで知らなかったのだけど、ソフィさんは?」


「色々聞いてます。それこそB組のルーム長やクラスの方…時々タム君からも」

  

 私はタム君の姿を思い描いた。エリンちゃんに怯えるタム君、エリンちゃんの前だと寡黙になってしまうタム君。


「…タム君はB組で上手くやっていけているかしら」


「私も心配だったのですが、案外上手くいっているそうです」


 ソフィちゃんは力強く頷いた。


 


 シャワーもドライヤーも済ませ、あとは寝るだけなんだけど、問題が一つ。

 私たちは3人。そして、ベッドは二つ。なので一人でこの大きなベットを使える人と、二人で使う人が出てくるわけで。


 ここは公平にじゃんけんでと言おうとした時ソフィちゃんが


「ぜひ、アーメナ様がお一人で使ってください。私とエリンさんでもう一つを使いますから」と、先手を打ってきた。


「そうして下さい!」


 エリンちゃんも加わる。

 私は首を横に振った。


「いえ、ここは公平にじゃんけんで決めましょう」


 せっかくの厚意だけど、受け取るわけにはいかない。


「そういうわけにはいきませんよ」

「そうですよ!アーメナ様が使ってください」


 二人は頑なだった。けれど私も折れる気はなかった。

 二人にとって難しいことなのは理解している。でも私は、二人と対等な関係で在りたいと…友だちになりたい思っている。


 些細なことかもしれないけど、いつも通りここを譲られてしまったら、もうずっと叶わない気がするのだ。


 だから、少し卑怯な手を使う。


「ソフィさんもエリンさんもそんなに私と一緒に寝るのが嫌なの?」


「いやいやいや」


「そんなわけないじゃ無いですか!私たちはただ――」


「じゃあ、公平にじゃんけんでいきましょう」


 私が拳を突き出したので、二人もおずおずと手を差し出した。



 じゃんけんの結果、私はエリンちゃんと一緒に寝ることとなった。じゃんけんぽんっと各々が手を出した瞬間のソフィちゃんの顔は忘れられない。やってしまった!と、顔に書いてあったのだ。


「そろそろ、電気を消した方がいいかしら?」


「あっ、電気なら私が」


 私の方が近いから、とパチンと明かりを落とす。ソフィちゃんが小さなうめき声をあげた。


「アーメナ様とソフィさんと同じ部屋で寝るなんて!興奮して眠れそうにないですよ」


 などと言っていたエリンちゃんは五分と経たず、スースー寝息をたてていた。


 例によって私はなかなか寝付けないだろうと思っていたんだけど、目を閉じてじっとしていると意外にも、うつらうつらとしてくる。

 身体が沈み込んで行くような感覚…ふわふわする意識の中、お腹に重い一撃を喰らった。


「ぐっ…」


 …エリンちゃんの足だ。

 随分と私の陣地へ侵入してきているエリンちゃんをぐいぐいと元の位置に押しやって、私はもう一度横になった。


 再びうつらうつらとしてくる。現実と夢の狭間の心地良さに身を委ねた。

 

 ――バシッ


「うっ!」


 頬を、私の頬を、何かが叩いた!

 …伸ばされたエリンちゃんの手だった。


 さっきよりも幾らか雑にエリンちゃんをぐいぐいと押しやる。

 刹那、手と足がばっと伸ばされた。もし、私が横になっていたら…命中していただろう。


 私はすごすごと自分の枕と毛布を持ってソファーへ移動した。



 

 朝、目覚めると鈍い体の痛みと、なんとも言えない気怠さに襲われた。背中が汗でじっとりしている。


「あっ、アーメナ様!目が覚めましたか?」


「おはようございます。アーメナ様」


 エリンちゃんは髪を結っていて、ソフィちゃんはベッドを整えている最中だった。普段は見ることのない二人の姿だ。


「ええ、おはよう」


 ソフィちゃんがその手を止める。


「どうしてソファーで寝ていたんですか?やっぱり一人がよかったなら言ってくれれば――」


「あー…いえ、喉が渇いたからお水を飲みに起きて、そのままソファーで寝てしまったの」


「ソファーで寝るのは体に良くないですから、気をつけてください」


「ええ。気をつけるわ」


 身を持って実感したところですから。


 

 朝食は混むだろうから、ゆっくりめに行こうなどど話し合っている間、エリンちゃんはずっと髪を結んでいた。


「よかったら、結びましょうか?」


 エリンちゃんが目を丸くした。


「えっ、アーメナ様がですか?」


「いつもの様に2つに結べばいいのよね?」


 こくこくと頷くエリンちゃん。


 エリンちゃんのつやつやした焦げ茶色の髪に触れる。私の髪より細くて、ふわっとしていた。毛量が少ないのも羨ましい。私の髪は一つに結ぶと綱のようになってしまうのだ。


 髪を真ん中で分けて、片方の束を手に取る。

 …あれ? 意外と難しい。自分の髪だと簡単にできるんだけど。

 長さが違うからだろうか。


「…アーメナ様?大丈夫ですか?」


 エリンちゃんが遠慮がちに聞いてくる。


「…ええ!」 


 そうは言ったものの、綺麗な二つ結びはできそうもなかった。どうしよう。今更できないと言うのは…。


「アーメナ様、変わります」


 ソフィちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。


 慣れた手つきで、エリンちゃんの髪を結い上げていく。あっという間に綺麗な二つ結びが出来上がった。


「きつかったりしませんか?」


「何も問題ないわ。私いつも髪はお手伝いさんに結んでもらっているから、自分じゃできなくて…すごいわ! ソフィさん」


 エリンちゃんが嬉しそうに言う。


「ごめんなさい。力になれなくて。…できると思ったのだけど」


 居た堪れない思いで言うと、エリンちゃんはぶんぶん首を横に振った。


「いいんです! 私、アーメナ様のお気持ちがすごく嬉しかったですから」


 「気を使って言っているわけじゃないですからね!」と、エリンちゃんは付け加えた。


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