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「ストップ!」


 軽くたしなめるつもりで発したその声は想像以上に大きくて、ヒートアップしていた言い争いさえもぴたりと止んだ。


一同ぎょっとして、私を見る。


 沈黙が気まずい。


「ごめんなさい。急に大きい声を出してしまって」



「いえ! 私たちが悪いんです」「そうです! どうか謝らないでください」

 強張った顔でぶんぶん首を振る女の子たち。


私はなるべく、にこやかに、穏やかに努めて言った。


「まず、みなさん誤解していることがありまして」


 私は話した。サビスと私は決っして、そういった仲ではないのだと。エリンちゃんたちに話すときよりずっと言葉を選んで。


 みんな半信半疑といった感じだったけど、とりあえず頷いてくれた。




「そろそろ自由時間も終わりになるし、部屋に戻ろうか」


 ルーム長の言葉を皮切りに女の子たちはぞろぞろと談話室を後にしていく。


「アーメナ様、お先に失礼します」


「お騒がせして申し訳ありませんでした」



 本来の静けさを取り戻した談話室に、深いため息が響く。


それはB組のルーム長のものだった。


「あっ、すみません」


 なんでこっちを見て謝るの。


「いいえ。…なんというか、大変でしたね」


「はい」


「こういったことは頻繁にあるの?」


 B組のルーム長とリーダーは深く頷き、ポツポツ話し出す。


「部屋割りを決めた後もすごく揉めました」


「食事のときの席を決めた後が一番酷かったですよね」


「うん。あのときはサビスさんたちのグループが選んだ席の隣にどちらが座るかで喧嘩してたね」


 二人の愚痴はだんだんと熱を帯びてゆく。私とルーム長は、うんうんと頷きながら、聞き役に徹していた。


 なにせ揉めていた現場を見た直後だ。相槌にも力が入る。



「水面下でやるからタチが悪いんですよ」


「サビスさんとか、担任の先生がいるときには怖いくらい仲が良くて」


「…それは厄介だわ」



 新学期からクラスで起こっていたことを二人は一通り話し、ふーっと息をついた。



「…すみません。つい」


「いいえ。溜め込んでしまうのはよくないですから」


「僕も話が聞けてよかったよ」


「…ありがとうございます。ルーム長もアーメナさんも」


「本当に助かりました」


 口々に言う二人にルーム長が首を横に振った。


「僕は何もしてないよ、今回のことはアーメナさんのおかげだよ」


「いえ、私こそ何もしてないですよ」



 別れ際、B組のルーム長が「あの」と、私を呼び止めた。


「もしアーメナさんがよかったら、また力になっていただけませんか?」


 ええ…それは、ちょっと…。


「また今回みたいなことが起きたとき、ということよね?」


「はい。恥ずかしながら、私じゃ力不足で」


「あっ、もちろん、どうしてものときだけなので」


 そう言うと、黙ってこちらを見つめ私の答えを待つ。


 そりゃあ、力にはなりたいとは思うよ。でも、サビスのクラスっていうのが…うーん…。


「…私でよかったら」

 

 あまり期待されても困るので念を押すように言う。


「ただ、私が力なれることなんてあまりないとは思いますが」


「そんなことないです」、「そんなことないよ」と三人がはもった。



 B組の二人と別れ、私はルーム長と二人、もといたエレベーターまで歩いた。


「B組は大変そうね」


「やっぱりサビス君がいるからね」と、苦笑するルーム長。


「うちのクラスはラッキーだよ何事もスムーズに決まって」


 確かに。特に揉めた記憶はない。流れるように、部屋割りも食事の席も決まっていった気がする。


「僕の部屋あっちなんだ」


「そうなんですね」


「急にごめんね。今日は助かったよ、ありがとう」


「いえ」


 恨み言の一つや二つ言いたくなったものの、ここはぐっと堪える。

 ルーム長は、ルーム長で貴重な自由時間を奪われたわけだし。




 ラウンジでゆっくりするのは明日に持ち越しだ。


 早く部屋に戻ろうと、早足で絵画の前を通り過ぎたところで、しばし硬直する。部屋はどっちだっけ………私はどこへ向かっているんだろう。


 大慌てで回れ右をし、ルーム長を呼び止めた。


「すみません、21号室ってどちらかわかります?」


 急に名前を呼ばれて、驚いていた様子のルーム長は私の言葉にちょっと、いや、かなり笑ったものの、律儀に部屋まで送ってくれた。

 さすが、面倒見がいい。


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