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 夕食後の自由時間。

 私はラウンジで飲み物でも飲もうかなと思い部屋を出た。



 壁にかけられた大きな絵画に、螺旋階段、高い天井。館内は、ただ歩きまわるだけでも楽しい気分になってくる。けれど、ちゃんと部屋までもどれるかという不安が一抹。



 一階に行くべく、エレベーターを待っていると、ルーム長がきょろきょろ周りを見渡しながら歩いているところが見えた。

 何をしてるんだろうと思いつつ、エレベーターの方に視線を戻す。やっと一つ上の階まできた。けれどそこから動く気配がない。


 一方のルーム長は私の前を通り過ぎようとし、こちらに気づいてユーターンしてきた。


「大変なんだ」


 やってくるなりルーム長は、困り果てた顔で言った。


「どうしたの?」


「揉め事が起きて」


「揉め事?」  


 うん、とルーム長は頷く。


「B組の女の子たちが……とにかく来てほしいんだ」


 いやいや、なんで私がB組の揉め事に関わらなきゃいけないんだ。


「あの、B組のことはB組の皆さんで解決したらいいんじゃないかしら」


 ルーム長はすぐさま首を横に振る。

 

「ルーム長とリーダーで、間に入って頑張ってたんだよ。でも駄目で」


「それならなおのこと、私に力になれることなんか」


 言い終わらないうちに、ルーム長が口を開く。


「そんなことないよ。むしろアーメナさんくらいしかいないよ」


「それは買い被りすぎだわ」


 それに全然嬉しくない。


「あっ、私エレベーターのボタンをもう押してしまっていて」


「いいから早く」


 抵抗むなしく、私はルーム長に引っ張られるようにしてその場を後にした。


 そんなに大変な揉め事なら、先生の力を借りるべきなんじゃないの。


 後方でエレベーターの開く音がした。





 ルーム長に連れられ、私は各フロアの隅にある談話スペースにやってきた。

 

 そこは一人がけのソファと、丸い猫脚のテーブルがいくつか置かれている、ゆったりとした空間だった。言い争う声さえ響いていなければ。


 言い争っていたのは、窓際に立っている二組の4~5人ほどの女子のグループだった。


 その二組の間に割って入るように立っている男女が一人ずつ。遠目にでもおろおろとしているのが分かった。


「…あの二人がB組のルーム長とリーダーですか?」


 思わずひそひそ声でルーム長に尋ねた。


「うん。女の子の方がルーム長だよ」と、応じるルーム長もまた内緒話をするかのように声が小さい。

 


 躊躇する私をおいて、ルーム長はその輪に向かって歩いていく。

 一人で突っ立ているわけにはいかないので、恐る恐る後に続いた。



 初めにこちらに気づいたのは、間に立つ二人だった。


 暗闇の中で一筋の光りをみつけたかのように、安堵した顔をしたかと思ったら、私のほうを見てぎょっとした。極めつけに、ルーム長になにかを訴えるような視線を投げた。


 

 続いて「アーメナ様…?」と、二組のグループの中の一人が私たち…というより私に気づいた。


 その小さな呟きを聞いた周りの子も私に気づき、最終的に言い争そっている中心の子たちにまでドミノのように広がっていく。



 「まぁ! アーメナ様!」と、いう悲鳴のような声が響いたのを最後に辺りはシンと静まり返った。



 

 ショックで固まっている私を置いて、ルーム長はB組のルーム長たちと話し出していた。


「あの、来ていただいたのはありがたいんですけど」


 B組のリーダーが、ちらりと私のほうを見る。


「どうして、アーメナさまが」

 

 …私だって来たくて来たわけじゃないのに。


 傷ついたのと同時に、ふつふつと怒りが沸いてきた私は、ルーム長に恨みのこもった視線を送った。ルーム長は不思議そうに首を傾げた。


「途中で見かけたから、頼んで一緒に来てもらったんだ」


「…そうですか」



「それで、揉めた原因はなんだったのかな?」


 グループの中心らしき女の子たちに注目が集まる。


「私たちは違いますわ! アーメナ様!」


「そ、そうなの?」

 

 片方のグループの中心らしき女の子が訴え出た。


「私たちだってちがいますよ、アーメナ様!」


 もう片方のグループの女の子も負けじと訴えてくる。


「まぁ! 突っかかってきたのはそっちじゃない」


「あなたたちが言いがかりをつけてきたのが最初だわ」


 ふたたび喧嘩になりだした二組をルーム長がなだめる。まるで効き目がない。


 収拾がつかなくなりそうなので、尋ねた。


「皆さんの言い分はわかったから。なんで言い争いになったのか教えてもらえませんか?」


 すると、どちらのグループの女の子もそろって顔を見合わせた。お互いに探るような視線を交わして、ちらりと私を見た。


 一人の子がおずおずと口を開く。


「あの、聞いたらアーメナ様が、その…お気を悪くされてしまうかもしれません」


 えっ、私に関係があるの?


 ルーム長が私を見る。身に覚えがないのでぶんぶん首を横に振って見せた。


「私は全然構わないから、続けてもらえる…?」


 そう言うとその子は、頷ずきはしたものの、なおも言いにくそうな素振りをみせた。


 そんなに躊躇するようなことって一体…。

 

 頭の中でぐるぐると、私に対しての思いつく限りの悪口が駆け巡り、私は勝手に大きなダメージを受けた。


「…明日、自由行動の時間があるじゃないですか」


 ピンと来ていない私に、ルーム長がこそっと耳打ちする


「工房見学のときだよ。ワイナリーとかガラス工房とか」


「その時間に私たちが、その、サビス様を誘って一緒に行動しようという話をしていたんです。そしたらセーナさんたちがキレてきて」


 その子はちらりと横を見た。


「キレてなんていません。私たちアーメナ様を差し置いてそんなことするのはおかしいって言ったんですが、聞き入れてもらえず、それで言い争いになってしまいまして」


「アーメナ様、今のは嘘です! たしかに私たち、立場をわきまないことをしようとしてしまって、それは申し訳なかったと思います。でも、セーナさんたちだって同じなんですよ!」



 …そういえば、B組ってサビスとユーグ君のクラスだった…。

 

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