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 コリスは私の隣にいるシュルヴィ先輩の姿に困惑したらしく、傍まで来て、足を止めた。


「あちらに居るのは弟さん?」


「はい。そうです」


「挨拶しても大丈夫かしら?」


「大丈夫だと思います。今、呼びますね」


 私がおいでおいでとジェスチャーをすると、コリスはほっとした様子で、こちらに向かってきた。


「初めまして。シュルヴィ・レピストです」


「コリス・ノーラドです」


 自己紹介をしたコリスの声が、若干上ずっている気がして、首をかしげる。途中からはすっかり緊張が解けた様子で挨拶していたんだけどな。などと思っていたら、「よろしくね」と微笑みかけられた、コリスの耳が真っ赤に染まっているのを見て、そういうことかと納得した。


 コリスが初等部に入学したとき、シュルヴィ先輩は中等部。今回みたいなパーティーがあるわけだから、接点はあるけど、うーん。


「弟さん、とっても可愛いのね」


 そうでしょう、そうでしょう。コリスのことを褒められるのは嬉しい。それこそ自分のことのように。

 だらしなく緩みそうになる口元に、力を込めている私の横で、コリスは何とも言えない複雑そうな顔をしていた。コリスのこんな表情を見るのは初めてだ。可愛いはやっぱり駄目なんだね。何より、シュルヴィ先輩には言われるのは嫌だったんだろうな。


 シュルヴィ先輩が私たちのもとから去っていた後、コリスが尋ねてきた。


「姉さまは、シュルヴィさんと仲良しなの?」


「そうね。仲良くしてもらってるかな」


「パーティーに来れば、また会えるの?」


「会えると思うよ」


「そっか」

 

 私の言葉を聞いたコリスの嬉しそうな顔に、姉として可愛い弟の淡い恋心を応援しようと心に決めた。ほんの少しだけ寂しいのも事実だけど。


「パーティーって楽しいんだね」 


 コリスが声を弾ませる。楽しいならなによりだ。


「姉さまのいってたとおり、お菓子も美味しいし」


「たくさん食べてたものね」


「うん」


 コリスと笑いあっていたところへ、ロイホン夫妻が声をかけてきた。サビスも一緒だ。突然のことに、目の前がぐらりとする。

 よりによって、このタイミングですか。


 奇襲に顔を引きつらせつつも、なんとか笑顔を作って夫妻と挨拶をした。コリスも後に続く。


 サビスはといえば、いつもの無表情で一応、会話に参加していた。

 サビスって漫画の登場人物っていうのも勿論あるのだけど、そもそも何を考えてるんだか分からなくて、怖いんだよな、とその顔を見て思う。


 漫画ではこんな何を考えてるんだか分からない奴じゃなかったはずなんだけどな。感情表現が豊かってわけでもなくて、クールではあったけど……漫画のサビスみたいなぶっきらぼうで、不器用な感じを目の前にいるサビスからは微塵も感じない。

 中等部に入学する頃には、漫画のサビスみたいになっているのだろうか。それとも、主人公と出会って変わっていくのだろうか。


「コリス君、もう制服は作ったの?」


「いいえ。まだです」


 コリスが首を横に振る。


「そうなのね。制服、楽しみね」


 微笑むロイホン夫人の横で、サビスが一瞬だけ驚いた顔をしているのを見た。一体、何に対しての驚きだったんだろう。


 私とサビスは、挨拶こそしたものの、会話らしい会話もすることなく、パーティーを終えた。今までで一番、顔を合わせていた時間は長かったと思うのだけど、その間私からサビスに話しかけることもなければ、サビスが私に話しかけてくることもなかった。サビスと向かい合わせになっていたあの時間は、途方もないくらい長く感じた。


 帰りの車で、コリスは最初こそ興奮したようにパーティーのことを話していたのだけど、急に静かになったと思って目をやれば、すやすやと寝入っていた。余程疲れたみたいだ。


 心地よさそうな寝息をたてるコリスの頬を、我慢できずにつんとつつく。つきたての餅のような柔らかさに悶えた。



「アーメナに続いて、コリスももう学校に通う歳になるのね」


「早いものだよな」


「ええ」


 お父様とお母様の会話が、どんどん遠くなっていく。




「アーメナ」

 

 お父様が私の肩を叩いた。

 目を開くともう家だった。私まで眠ってしまっていたらしい。


 






 


 


 















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