2
夕食中、私はついつい考え事をして、手が止まってしまった。今後のことで考えなければならないことはたくさんある。
「どうしたの。姉さま」
気がつくと、弟のコリスが心配そうにこちらを見つめている。ちょっと食欲がないのだ、とごまかす。
嘘だけど。
「パーティーが近いから緊張してるのね」
お母様が気遣うように言う。
「でも心配ないわよ。王族関係の方は来ないし、代々付き合いのある方ばかりだから」
そう、もうすぐパーティーがある。そこまで大きいものではないし、お母様が言うように代々付き合いのある方ばかりだ。ただ一つ問題がある。ロイホン家が出席するのだ。
つまり、ヒーローが来る—————
油断していた。ラナンキュラス学園入学までまだ時間があるから大丈夫だと。そうだよね、アーメナの家とヒーローの家、ロイホン家は付き合いがあるのだ。それも深い。漫画でもふれられていたことなのに私ときたら……
学園以外でも顔を合わせる機会はあるよね。
私が出した答え、漫画の登場人物たちには近づかない。特に主人公とヒーロー。
ただ、どうしても会う機会はある。立場上仕方がないことなのだ。そういう時に下手に避けて、悪印象を抱かせてもだめだ。だから顔を合わせたら、ノーラド家の娘らしく、礼儀正しく失礼のない対応をすること。
そして、間違ってもヒーローを好きになるようなことがあってはならない。
登場人物たちに近づかない。もう一度、胸の中で呟く。そうすれば、漫画通りの未来は避けられるはずだ。
ああでも、ヒーローに会ったとき私はどうなるのだろうか。好きなってしまったりしないのか、すごく不安だ。
………はぁー。行きたくないなぁ。パーティー…。
「姉さま、大丈夫?」
おっと、いけない。またコリスに気をつかわせてしまった。
「夕食のとき、お母さまがいってたみたいにパーティーが心配なの?」
「少し不安ね。でも、大丈夫」
こんな幼い弟に心配かけるなんて、なんてことだ! 気をしっかり持つんだ私。
「姉さまなら、大丈夫だよ」
コリスがにっこり笑って、励ますように言った。その可愛さに私のハートは撃ち抜かれた。
アーメナには家族がいた。まぁ当たり前のことなんだけどね。漫画では出てこなかったから。あの、アーメナの家族だから、どんな悪人かと思ったら、お父様は見かけは怖いけど、家族思いだし、お母様は綺麗で優しい。ただ、礼儀にはかなり厳しい。そして、アーメナには弟がいた。それも素直で可愛い。いったいアーメナはどこで道を踏み外したんだ。
私は前世では一人っ子で、妹でも、弟でも、姉でも、兄でもいいから、兄弟がほしかった。だから、すごく嬉しい。
私、頑張るよ。コリスのために。