16
待ちに待った交流パーティーだ。会場は想像通りの華やかさ。綺麗なドレスを身にまとった先輩方に、ピシッとスーツ姿の先輩方の姿はとても同じ初等部の生徒とは思えません。
私も今日は制服ではなく、ドレスを着ている。水色のレース生地のフレアドレスだ。家族のみんなにも可愛いと言ってもらえたしね。気分はお姫様だ。
周りを見るとそれぞれ固まって話に花を咲かせている。気軽に声を掛けられる相手がいない私は一人会場内をうろつく。エリンちゃんたちもいないしなぁ…。いつも傍にいてくれたエリンちゃんやソフィちゃんたちがいないので少し心細い。
いや、気を強く持つんだ私! 私はここで友達を作るんじゃなかったのか。
決意を固めたところでデザートのコーナーを発見し、吸い寄せられるようにそちらへ向かう。
その一角には、何十種ものスイーツたちがそれは綺麗に並んでいた。うふふ、どうしようかなぁ。こんなにあるとどれにしようか迷ってしまう。初めて見る名前のケーキに惹かれつつも、結局オペラを皿に取った。
おお、やっぱり美味しい。微かに香るコーヒーの香りがいいんだよね。
「アーメナさんよね」
オペラに舌鼓を打っていると、声を掛けられた。
「はい。アーメナ・ノーラドです。初めまして」
「こちらこそ初めまして。シュルヴィ・レピストです」
そう言って微笑んだシュルヴィ先輩は、波打つプラチナブロンドの髪が印象的な美人でした。なんでも家とシュルヴィ先輩のレピスト家は付き合いがあるらしい。そして私の姿を見て、もしかしたらと声を掛けてくれたそうだ。
「そのドレス素敵ね」
きゃっ。褒められた。嬉しい。
「ありがとうございます」
その刺繍が入ったラベンダー色のドレスも素敵です。先輩の儚げな雰囲気にとっても合っています。
その後はシュルヴィ先輩の友達が話しかけに来てくれた。先輩方に囲まれて夢のような時間でしたよ。知り合いも増えたしね。
口寂しくなったので、もう一度デザートコーナーに向かうことにした。次は何を食べようか。さっぱりしたゼリーなんかがいいかな。
軽い足取りで歩いていていく。
ゴールを目前にしたところである人の姿を見つけて足が止まった。
サビスがデザートコーナーの傍でケーキを食べているじゃないか。なんでよりによってここで食べるんだ。スイーツを手にするにはサビスの前を通らなければいけない。早くそこからどいてよ。
私の気持ちはつゆ知らずサビスはケーキをつつく。あれはなんだろう。タルトタタンかな。美味しそうだな。
そういえばサビスは一人っきりだ。もしかしてぼっち? 私の仲間か。同類なのか。
待てど暮らせど奴は立ち去るそぶりを見せない。
仕方がない。私はどうしてもスイーツが食べたいのだ。そう、ささっと前を通り過ぎればいいんだ。きっとやれる。
意を決して足を踏み出した。早歩き早歩き。
前を通ったとき、サビスはふと顔を上げ私を見た。運の悪いことに私もそのときサビスを見ていたのだ。見ないように気を付けていたのに。
一瞬目が合う。
本当に僅かな時間だった。だというのに時間が止まったかのように長く感じられた。
ばくばくする心臓を抑えさっとケーキを取り、逃げるように立ち去った。
ああ、びっくりした。
サビスの姿が見えない場所まで来たところで、やっと足を止める。
とにかくケーキはゲットできた。皿に乗っているのはタルトタタンだ。だって、ぱっと目についたのがこれだったんだもん。サビスが食べていたものを取ってきてしまったのは複雑だけど、美味しいなこれ。味わって食べたくなるのも分かるよ。
「あっ。アーメナさんだ」
甘いケーキを続けて食べたので、しょっぱいものが欲しくなり軽食でも取りに行こうかとしていたところ後ろから声がした。今、私の名前を呼んだよね…?
くりっとした明るい茶色の髪に思わず息が止まりそうになる。
振り返るとユーグ君が立っていた。
「初めまして。アーメナ・ノーラドです」
高鳴る胸を抑えて自己紹介をする。あのユーグ君が目の前にいるなんて。
「知ってる、知ってる。そういえば話したことなかったね、ユーグ・バレーヌです」
そう言って人懐っこい笑みを浮かべるユーグ君。
私、今ユーグ君と話している。信じられないよ。ああ、でもユーグ君は「loveラナンキュラス学園」のメインキャラクター。私が近づかないと決めた相手の一人だ。
「アーメナさん何か食べた?」
私の手に持つ皿を見て、ユーグ君が聞いてくる。
「はい。ケーキを食べました」
「ケーキかぁ。俺まだ食べてないや。何が美味しかった?」
「タルトタタンがなかなか美味しかったですよ」
「タルトタタン! 食べてみるね。ありがとう」
にこにこ笑うユーグ君を見ていると、思わず口元がゆるんでしまう。ただそろそろ会話を切り上げたほうがいいよね。名残惜しいけど。
「いまからサビス君の所に行くんだけど、アーメナさんも一緒に来ない?」
げっ。サビスのところか。
「ありがとうございます。でもそれは遠慮しておきます」
丁寧に断っておく。サビスのところじゃなかったらついて行っていたかもしれない。なんというユーグ君マジック。
「じゃあまたね」とユーグ君は去って行った。
タルトタタンと答えたのはまずかったかな。いやいやさすがにそれは考えすぎだ。
それからサビスには素敵な友達がいたんだった。ぼっちではないね。