15
もうすぐ交流パーティーというものが行われる。学園が主催するパーティ-なのだけど、招待状が配られるのが一定以上の家柄の子だけなのだ。ただ、その定義というのが曖昧で、学校に納める寄付金の額によるんじゃないかと一部ではささやかれている。
私のところには当然のように招待状が配られた。生徒同士の交流のためのパーティ-なので、保護者は来ないし、接点のない初等部の先輩方と仲良くなれる機会なので、かなり楽しみにしている。なにより友達ができるかもしれない! 夢にまで見た友達だ。ああっ、交流パーティーが待ち遠しいな。
一つサビスが出るという問題があるけれど、学校行事だし顔を合わせたって挨拶する必要もないしね。 近づかないように気をつければ大丈夫。
うーん。どれにしようかなぁ…。
昼食のメニューで私はいつも悩む。今日あるものが明日あることは滅多にないのだ。ドリンクやパン類は別として。野菜のグラタンか、鯛の包み焼きか…。クロワッサンも美味しそうだな。デザートのベイクドチーズケーキとフォンダンショコラも捨てがたい。
長考のすえ、野菜のグラタンとクロワッサンに決めた。クロワッサンはカロリーが気になるけどデザートを食べなければ問題ないよね。
エリンちゃんたちの座る方へ歩いていき、席に着く。
「アーメナ様、サビス様がいます!」
エリンちゃんが腕を掴んできた。痛い。
食堂内を見渡すとサビスがメニューを選んでいるところが見えた。そしてサビスは一人ではなく、誰かと一緒だ。
あれはもしかして…?
「あら、サビス様と一緒にいる方は誰かしら」
「本当だわ。お一人じゃないのね」
たぶん…
「ユーグ様ですわ」
私が言うより早くソフィちゃんが答えた。
「サビス様とは同じクラスで、仲が良いみたいです」
さすが情報屋ソフィちゃん。でも、彼に関しては私の方が詳しいかな。
ユーグ・バレーヌ君は「loveラナンキュラス学園」のメインキャラクターの一人だ。サビスの親友で人懐っこく、誰にでもフレンドリー。主人公とサビスの橋渡し役にもなってくれる。読者人気も結構高かったんだよね。かくいう私もサビス派でもなく、当て馬派でもなく、ユーグ君派でしたから。
わぁ…。あのユーグ君がいるんだ。遠くてよく見えないけど、にこにことサビスに話しかけている。その快活そうな笑顔や、薄い茶色のくりっとした髪が漫画の姿と重なった。
ユーグ君のことを見ていると、隣にいたサビスがこちらを見た。あわてて顔を背ける。危ない、危ない。
「サビス様は何を食べているのかしら。ここからじゃ見えないわ」
エリンちゃんが悔しそうに言った。えー、またその話? もう飽きたよ。ああでもない、こうでもないと言い合うみんなに適当に相槌を打ちながら、クロワッサンを頬張った。
昼食の時間が終わり、昼休みに入った頃。
「分かりましたわ! サビス様が召し上がったのは、野菜のグラタンとクロワッサン。デザートにフランボワーズのタルト、飲み物は………」
ソフィちゃんが意気揚々と報告してきた。ソフィちゃんの情報網にあらためて敬礼です。
そして私、サビスとメニューが被っちゃたよ。しかも奴はちゃっかりデザートまで食べているじゃないか。なんだか悔しい。