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遠足の日です。るんるんだね。
行き先は都市部から離れた所にある自然公園。
いやぁ、空気が綺麗。風が気持ちいい。天気もいいし、最高だね。クラスメイト達を見るとみんなあまり楽しそうではなかった。遠足だというのにそこまではしゃいでいる様子もなく、おとなしく先生の後をついていく。
「どうせなら私、もっと華やかな所がよかったです」
エリンちゃんが愚痴る。え、ここ充分華やかだと思うんだけど。
足元には見たこともない小さな花が。ほら、これ可愛くない。あっちの植物は見られるのが世界で七か所しかないそうですよ。あれ、興味ない…?
前世でも小一の時、遠足は自然公園だったなぁ。ここみたいな広いところじゃなかったけど一面に咲いたチューリップがそれは綺麗だった。色とりどりでさ、みんなもっとはしゃいでたよ。
「クラスで別行動だからサビス様の姿も見えないですし、退屈ですわ」
…ソフィちゃんまで。楽しんでいるのは私だけなのかな。なんだか寂しい。みんなもっと楽しもうよ。心の中で呼び掛けた声が届くはずもなく、少し落ち込みながら先に進んでいく。
青々と葉が茂った木々から差し込む木漏れ日。群生する植物たち。
うわぁ…神秘的だなー。映画の中にいるみたいだ。森の精霊とか出てきちゃったりして。いや、本当に出会ってしまうかもしれない。心の綺麗な人だけが見えるのだ。胸を高鳴らせながら歩いていく。
精霊にも妖精にも出会うことなく、遠足は終了しました。若干期待してたんだけどな。…つまんないの。
よく晴れた日の午後。私は庭に出てお茶をしていた。可愛いバラの模様が入ったティーカップに注がれているのは、甘いミルクティー。カップに口をつける。うーん、美味しい。
そして私、なんだかお嬢様っぽくない。すっごく優雅じゃない。
一度やってみたかったんだよね。こういうこと。思わず口元が緩む。おっと、ニヤニヤするのはお嬢様らしからぬ行為だぞ。気を付けないとね。
ミルクティーのお供はほろ苦いガトーショコラです。これは前世からの好物だ。甘-いミルクティーとほろ苦いガトーショコラがよく合う。いくらでも食べられそうだな、どうしよう。
少し離れた所にコリスもいる。コリスは子供らしく庭で土をいじっているようだ。
うん、微笑ましいね。私も小さい頃はよくしたよ、泥遊び。もちろん前世でだけどね。泥団子づくりなら右に出る者はいなかったのだ。コリスにもピカピカの泥団子を作るコツを伝授してあげようか。お姉さまの株はさらに上昇するに違いない。
そんなことを考えていると、コリスがこちらに向かってかけてきた。どうしたのかな。
「姉さま、手だして」
手を出せばいいのね。なんだろう。摘んだ花のプレゼントだったりして。
はい、と手のひらを差し出す。コリスがなにかを置いた。数が多いな。
「姉さまに見せたかったの。ダンゴムシの赤ちゃん」
ぎゃぁああっ、と喉元まで出かかった叫び声をなんとか飲み込む。
私の手のひらにはころころと丸まったダンゴムシが。それも一匹じゃない。うげぇ…気持ち悪いよ。私、虫は苦手なんだって。そんな胸の内をにこにこ笑顔のコリスに言えるわけがない。
私の喜ぶ顔が見たくて、見せに来てくれたんだよね。気持ちはすっごく嬉しいよ。涙が出そうになるくらい。そう、私の目が潤んでいるとしたらそれは喜びからだから。
「ねっ、小さくてかわいいでしょ」
「…そうね、小さい…わね。どこで見つけたの」
言いつつ、しゃがみこみダンゴムシたちを地面に下ろす。
「落ち葉の下にいたんだよ」
「へえー。そうなのね」
ああっ、手を洗いたいー。
「あともう一つあってね。もう一回、手だして」
なんでしょうか。怖いよー。恐る恐る手を差し出す。コリスはポケットからごそごそと何かを取り出し私の手のひらへ………
「すごく、大きいダンゴムシ見つけたんだよ」
「うぎゃぁああああ!」
私は叫び、ダンゴムシは地面に落ちた。無理。あれは無理。あのサイズはなかなかいないぞ。しかも奴は丸まらず手のひらを歩き回っていたのだ。つついたら丸まるのがダンゴムシの性じゃなのか。どういうことだ。
「姉さまもしかして虫、きらいなの…?」
コリスが呟くように言った。そんな悲しそうな眼で見つめないでくれ。
「違うのよ。大きくて、びっくりしてしまっただけなの。ほら小さいもののときは平気だったでしょ」
「それならいいんだけど…。驚かせちゃってごめんなさい」
ほっ。コリスは納得してくれたらしい。
「私こそ、落としてしまってごめんなさい」
それから、ふと思い出し、
「ポケットの中に虫を入れたら駄目だよ。可哀想でしょう」
と、付け加えておいた。コリスは分かったと言って、向こうへ駆けていく。まだ何か入っていたんじゃないよね。
私は手を洗うため、蛇口目掛けてダッシュした。