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「今日サビス様はブイヤベースを食べたそうよ。デザートにはニューヨークチーズケーキ。飲み物には ウーロン茶を選ばれたんですって」
恒例になってしまった今日のサビス様報告会。情報を仕入れてくるのは、いつもソフィちゃんだ。
その情報は日を追うごとに詳しくなっていく。
…うん、いったいどこから仕入れてくるんだ。さっき授業中に発言したとかも言ってたよね。
キャーキャー盛り上がっているところ悪いけど、サビスの昼食に興味ないんだよ私。
「アーメナ様、サビス様と仲がいいなんて羨ましいです」
一人の子が言った。
「両親公認の仲なんでしょう」
と、もう一人の子が。
ちょっと、ちょっと、なにその話。誰から聞いたの。
「当然じゃない。アーメナ様以上にサビス様に相応しい方はいないわよ」
やめてください、エリンちゃん。
「私、サビス様と仲がいいなんてことないですから。いったい誰に聞いたの」
「またまた。私、入学式の後にアーメナ様とサビス様のご両親が話しているのを見ましたよ」
私も見ました、と声が上がる。まずい。もしこの話がサビスの耳に入ったら…。まるで私がほら吹いたみたいじゃないか。漫画のアーメナになっちゃうよ。
「あれはたまたまなの。その場にサビス様はいなかったし、私とサビス様がちゃんと話をしたのはたったの一回しかないわ」
「でも、サビス様が言ったそうです。アーメナ様と仲がいいと」
えっ。それは絶対にないよ。そんなこと言わないって。
「私もそう聞きました」
鼻息を荒くして、肯定するエリンちゃん。
「それは聞き間違いかなにかですね。とにかく、私とサビス様は特別親しい間柄ではないので」
強引に話を終わらせる。みんなまだ言い足りなそうだったけど。そして、もう一度念を押しておいた。
今日は家庭教師の日です。レイチェル先生と話せるのがうれしい。
「あれから、仲のいい子はできたかな」
勉強に一区切りつき紅茶を飲んでいると、レイチェル先生が聞いてきた。ううっ、そのことですか。
「…頑張ってみたんですけど、だめでした」
「うーん、駄目だったか…。ごめんね、私がもっといいアドバイス出来たらよかったんだけど」
とんでもないです。これは私に大きな原因が。
「アーメナちゃんなら、必ずできるよ。お友達」
「はいっ」
力強い言葉に元気が出た。そうだよね、いつか必ずできるよね。
「気になっている人とは進展あった?」
「えーっと、それは…なんというか、気持ちが落ち着いてきたというか」
あの先輩と出会ってから、しばらく毎日のように図書館に通っていたんだけど、結局一度も会うことはできなかった。それでいつからか、行くのをやめてしまったのだ。
よく考えれば会ったのはたったの一度だし、一言二言会話しただけなんだよね。ちょっと盛り上がり過ぎたかもなぁ。でもやっぱり素敵だったなあの先輩。もう一度会っていたら、それこそ本気で好きになってたと思うんだよね。
今でも本を借りるため、たまに図書館に行くことがあるんだけどどこかで会えたらいいなって思っている部分もある。
「…そっか。よし、そろそろ勉強再開しようか」
「はい」
カップをサイドテーブルに置き、ペンを手に取る。勉強がんばるぞー。おー。