11 サビス
アーメナの髪は今日もくるくるになっていなかった。入学式は密かに期待していたのだが…。胸ほどまである黒髪は真っ直ぐ下ろされていた。
彼女の髪があのくるっくるっになるのはやっぱり、中等部に入ってからなのだろう。
アーメナといえば、入学早々取りまきが出来ていたのにはびっくりだ。その中に見たことがある顔があると思ったら、アーメナの一番の手下である、エリン・ホードストだった。
手下達を従えて、悠々と歩くアーメナを見た時はぞっとした。
「サビス様はアーメナ様と、どういう関係なのですか」
一人の女子が唐突に聞いてきた。周りの女子達から期待のこもった眼を向けられる。
俺とアーメナの関係…?
彼女とは一度会って話しただけだ。関係もなにもない。これからも関わらないと決めている。
「親同士の付き合いがある」
そう答えておいた。
図書館に行くことにした。教室にいると、煩わしい事が多い。
静かな空間にほっと息をつく。さて、何を借りようか。
本を探していると、濡烏色が視界に入った気がしてビクッとする。…見間違いか。念のため辺りを見ておく。
………なんでアーメナがこんな所にいるんだ。
どうする。教室に戻ろうか。まぁ、アーメナの場所からは俺のことは見えないだろう。ここからアーメナの様子を窺うことにする。本とか読むのか。イメージにない。
…アーメナの様子がおかしい。さっきから変に周りをきょろきょろしている。
見られたら困るようなものでも借りるのか。そんな本、学校の図書館に置いてないと思うんだが。
まさか、なにか悪巧みをしてるんじゃないだろうな。
彼女が手に取ったのは別に普通の小説だった。なんであんなに挙動不審なんだよ。
カウンターで手続きを済ませ、真ん中の読書スペースに座り本を読み出す。
読み始めたはいいがちょくちょく顔を上げて、出入り口に目を向ける。
…分かった。誰かと待ち合わせでもしてるんだな。
が、彼女のもとには特に誰も現れる事無く、アーメナは時計を見て立ち上がった。そして、来た時とは打って変わって、大層、気を落とした様子で図書館を去って行く。
その悲壮感漂う背中をしばらく見つめる。
しまった。アーメナに気を取られて、本を探すのを忘れていた。時間もないので何も借りずに教室に戻る。
にしても、あいつは何がしたかったんだ…? 謎だな。
クラスメイトに、ユーグ・バレーヌという奴がいる。彼は「ラブラナ」の登場人物でその立ち位置というのが、サビスの親友なのだ。
「サビス君、今日もモテモテだったね」
からかうように言ってきた栗色の髪が、ユーグだ。席が前後なのでよく話しかけてくる。
「家名に騒いでるだけだよ」
「いやぁ、それだけじゃないと思うけどな」
親友にはなりたくないと思いつつも、話しかけられると返事をしてしまう。なんというか、愛嬌がある奴だ。