表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/43

第7話 青紫の魔術・赤紫の魔術

 今年の花季は、各地で大きな虹が何度も見られた。

 花季はドラゴンたちの繁殖期である。今年は特にウォータードラゴンがさかんに愛を囁いていた。彼らの求愛の水ブレスは、青空に大きな虹を描く。

 諸君らの中にも、花季の虹を楽しみにしている人は多いことと思う。


 ところで虹は何色か、知っているだろうか。

 この国では虹は五色で「火土木水風」と言われる。もちろんこれは魔力の属性にちなんだものだ。魔力の属性と色の関係はそれぞれ、火は赤、土は黄色、木は緑、水は青、風は紫である。魔物からとれる魔石も、その属性に似合った色をしている。

 もし子どもに虹の絵を描かせたら、きっとそれは「赤黄緑青紫」の五色の虹になるだろう。


 ところがこれは世界共通の虹の色ではない。

 とある南の島国では虹は常に「赤黄青」の三色で描かれる。何故ならその国では魔術は「火土水」の三つの属性でできていると考えられているからだ。

 意外に思うかもしれないが、これはある意味、非常に理にかなった考え方である。


 木属性の魔術のほとんどは土属性と水属性の合成魔術に置き換えることができる。同様に風属性の魔術は火属性と水属性の合成魔術に置き換えることができる。

 つまりこの世界の魔術の多くは、「火土水」の三属性があれば発動できるわけだ。


 では我が国のように五属性で魔術を学んでいる国は劣っているのか? いや、そうとも言えない。木属性の魔術は、土と水の合成魔術よりもずっと早く発動できて威力も大きい。

 それぞれに利点があり、どちらがいいとはいえない面がある。我々はただ虹は五色と考える事に慣れているし、魔術を五属性として使うのに慣れているのだ。


 もうひとつ例を挙げよう。ニホンでは虹は七色と言う。

「赤橙黄緑青藍紫」

 魔術のないニホンではあるが、これを思い出したとき私にとって驚くべき発見があった。赤と黄の間にある橙色。この世界には橙色と言ってもいいくらい濃い黄色の魔石がある。それは最高級の土属性の魔石と言われる希少な太陽石サンストーン。太陽石を使うと、土属性の中でも金属を扱える特殊な魔術になるが、これは土と火の合成魔術でも再現できる。非常に難しい上級魔術だ。

 藍色と言っても過言ではない濃い青色の魔石もある。暗蒼石サフィーロは水属性の魔石で、上級魔術である氷系の技を発動する。そしてこれは水と風の合成魔術で再現できるのだ。


 長々と難解な話をして申し訳ない。重要なのはここからである。

 虹の色は三色にも五色にも、七色にも見える。虹の色の境目とはかように曖昧なものなのだ。

 魔術もまた同じである。諸君は風属性の「微風そよかぜ」という魔術を知っているだろうか。あまり使う必要がないので学園で習ったとしても覚えていないかもしれない。

 これは火と水の合成魔術でも再現できるのだが、この時、普通であれば火と水の魔力を同量混ぜ合わせる。


 では同量ではなくどちらかの魔力が多ければどうなるだろう?

 そのような試行錯誤から生まれたのがこの二つの魔術式である。

 私はこの二つの新しい魔術を「涼風」「温風」と名付けた。これは本当に画期的な魔術である。


 暑季の盛り、暑さに耐えられず高い金を払って魔術師に氷を作ってもらう必要はもうない。涼風の魔術式にそっと魔力を流そう。一度の発動で30分間、あなたの周囲を優しく涼しい風が包むだろう。

 寒さの厳しい凍季、外に出るときに着膨れて動けなくなることはもうない。温風の魔術式に魔力を流せば、あなたの周囲だけまるで花季が訪れたかのように感じるだろう。


 この二つの魔術式はどちらも、一回あたりたったの5Gで使うことができる。面倒で複雑な魔力量の調整は、全部この魔術式が引き受けてくれる。あなたはほんのわずかな魔力を流すだけである。

 なお、これらの魔術式で作れる冷風、温風の魔術は温度と発動時間が常に一定になっている。


 個別に発動時間や温度を変えた魔術式が欲しい場合は、チュレヤの町のドレンシー魔道具店にて相談してほしい。特注のため少し時間はかかるが、諸君は最高に便利な風属性の魔道具を手に入れるはずだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ