夕焼け
ずっと覚えている、夕焼けがある。
修学旅行の、帰りのバスの中から見た、夕焼け。
小さめの雲がいくつも重なり、茜色と藤色が薄暗く変わる空の色に混じった、少し混雑した、空模様。
同じ色彩が、彩度と明度の違いで、複雑に交差し、染め上げた、空という、キャンバス。
あの時の空が、今でも私の中に、しっかりとある。
何度、夕焼けを見ても。
何度、良い夕焼けだと感じても。
いつも思い出すのは、あの日の夕焼け。
あの日見た夕焼けは、いったい何が違うというのだろう。
旅行帰りのバスの中は、行きのバスの高揚感に包まれた騒がしさとは違い、おだやかな空気が、流れていた。
今から家に帰るのだという安心感と、楽しかった旅行の終わりを噛み締める、ひと時。
隣の席の友達は、眠っていたはずだ。
だが、私は、それが誰だったのかさえ、覚えていない。
だというのに。
あの空は、はっきりと、覚えている。
あの日の空が、忘れられない。
あの日の空は、忘れないだろう。
あの日の空を、忘れたくない。
今日の夕焼けも、綺麗だった。
私はこの先、あの日の夕焼け以上の夕焼けを、見る日が来るのだろうか。
いつ訪れるか分からないその瞬間を思いながら、ふと、気付いたのは。
たくさんの人たちと、ふれ合ってきた、自分のこと。
たくさんの人たちと出会って、言葉を交わしてきたけれど。
いつも思い出すのは、あなただけ。
いつも思い出すのは、あなただけ。
あの日の空と、同じなのは、あなただけ。
忘れられない、空があり。
忘れられない、人がいる。
忘れる空を毎日眺めて、忘れられない空を思い出す。
忘れる空を、毎日眺めて。
忘れられない、あなたを、想う。