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気が付いたら総合評価が1,000pt突破して、PVも20万を超えてました。応援してくださってありがとうございます。皆さんの応援のおかげで、エタらずに続いています。

 昼食会の三品目は、マッシュルームのスープ。

 旬には半月ばかり早いが、気の早い個体というのはどこにでもいる。その中から質の良い物を選び調理するのは大変だが、だからこそ刺さる。


「ただの昼食会に、ずいぶんな手間をかけるんだな」


「この手間が分かる人間ってのは貴族でも少ないからね。発掘できるかもしれない機会があるなら、逃したくないんだよ」


 スプーンですくうと、口いっぱいにマッシュルームが広がる。

 マッシュルームをそのまま食べた方が早くない? ってくらいのマッシュルーム感だけど、普通に食べるよりも濃厚。おまけに生臭さとかのイヤな部分を排除しているので、マッシュルームが好きならばこれだけ飲みたくなる一品。


「期待されてるってのは分かるけど、残念だったな。俺の舌はそこまで上等じゃねえ。このスープだってそうだ。普通にマッシュルームを食うよりも美味いってのは分かるけど、何が使われてるかなんてのはさっぱりだ」


「普通に食べるよりも美味しいって分かるだけでも充分だよ。その証拠に、あっちを見なよ」


 あっちとは、女性陣の方である。


「美味しいけれど、焼いたマッシュルームが出た方が嬉しいわね。ジョゼちゃんとカーチェちゃんはどう思う?」


「……わ、わたしは、生臭いのが苦手なのでこっちが。でも、チーズと乗せて焼いた方が……好きかも」


「あたいはもっとパンチが欲しいから、チーズとか肉とか入ってる方が嬉しい」


「そうよ、それだわ! このスープにはチーズが足りないのね! セーちゃん、チーズを追加したのと変えてもいいかしら!?」


「……もういいや。適当に対応しといて」


 皿を差し出したのは駄姉と、エルフのシルディーヌさん。エルフなのに生臭物を食べるのかと思われるかもしれないが、この世界のエルフは食べる。

 というか、菜食主義で生きていけるわけないだろう。

 この世界には幻獣などの危険生物がわんさかいて、マナ回路といったエネルギーを多大に消費する技術がなければ死に絶えるほどに危険だ。貧しい地域であれば毒を食べるエネルギーを獲得するような世界だ。

 生臭だとか気にしているヒマはない。


「あらら、カーチェちゃんは取り換えてもらわなくていいの?」


「セド様の料理は、出されたものそのままが一番ですから」


「まあまあまあ、物足りない物でもそのままなんて、愛なのね!」


「そ、そうなんですか……!」


 なんかよく分からない方向に話が進んでる。

 けど、カーチェはそのままが美味しいって分かっているのか。ちょっと……じゃないな。かなり嬉しいぞ。今日はエドワード君に合わせて上品に組み立てたけど、今度カーチェに合わせたコースを作ってご馳走しよう。


「とまあ、これが普通の反応なんだよ」


「……すまん、うちのパーティーが」


「気にしないで良いよ、なんせ片方はうちの駄姉だからね」


 というか駄姉、あんたは何でチーズを乗せてもらってんだよ。礼儀作法をどこへやったんだコラ。しかし、あのチーズは美味しそうだ。贅沢にもスープが見えないくらい一面に浮かべて、表面を焦がして溶かしてる。

 このひと手間を加えたのは、ネリーだな。

 魔法の無駄遣いと嘆くべきか、繊細な制御と褒めるべきか。


「味の保証はできないけど、アレやる?」


「コレには合わないからいい。やるならせめて、オニオンだな。コンソメにして、パンなんかを浸してチーズ乗せてオーブンでこんがりってヤツなら……ああ、クソ。食いたくなってきた」


「ほう、それは美味しそうだ。今度試してみよう」


 美味しそう、というかソレ美味しい。

 日本でも食べたことある。どっかのお高いファミレスの、定番商品だったはず。うろ覚えだが、アメリカの有名女優が食べたことあるとかないとか。


「試すんだったら、一声かけてくれないか? 材料費はもちろん、研究費用が必要ならいくらか出してもいい」


「お、おう……予想外に食い付くね。費用が抑えられるなら大歓迎だけど、いいの?」


「何がだ?」


 僕の疑問を理解していないようだ。


「何がも何も、最初はあんなに突っかかってきたでしょ。心当たりは色々とあるから、それ自体は別にいいんだけど、遺恨がある相手と料理なんて出来るのって話。あと、周りからの評判だって悪くなるよ」


 評判ってのはバカに出来ない。

 渋々ながらも幻獣討伐に向かったのだって、僕の評判を上げる為だったし。八百長じみた討伐が本当の討伐になったのは予想外だったけど、グロリアを少しは使えるようになったから別にいいか。

 そういえば、その件で王宮に出仕しないといけないんだっけ。

 まだ呼ばれてないけど、心構えだけはしておこう。


「ああ、そうだったな。……なんというか、その……すまなかった」


 ビックリしたことに、素直に頭を下げられた。

 どういうことだ。決闘騒ぎを起こすほど険悪だったから、解消のために昼食会を開いたんだぞ。なんで切り込んだ瞬間に、謝罪をするんだ?


「理由もなく謝られても困るんですが……」


「そもそもが、俺が噂に振り回されたのが原因だ。証明や決闘だって、お前――じゃなくて、セドリック様の言う通り、する義務も必要もない。煽られた部分についてはそっちが悪いから態度を変える気はないが、それ以外は俺が悪い」


 気持ち悪い、誰だコイツ。

 でもよくよく考えると、ただの脳筋なわけがないんだよね。神官と戦士を両立させて討魔士になり、騎士に叙勲されるほどの実力者だ。ただの脳筋だったとしても、ここに来るまでに知恵の一つや二つは付ける。

 というか、付けなかったらここまで来れない。


「……あー、呼び名は今まで通り粗雑な感じで良いよ。――それで、噂の裏付けを取ったんでしょ。誰に聞いたの?」


「お前が助けた《緑の風》だ。中核を引き抜かれて空中分解したけどな」


 ああ、そういえば元メンバーだったんだっけ。


「引き抜いただなんて人聞きの悪い。向こうから仕官してきたから普通に面接しただけ。一人だけ雇ったのは、他は条件が合わなかったから」


「その言い方してるってことは、知らないんだろうな。お前が手柄を独り占めするために、アイツらを罠にハメて解散させたって噂されてんの」


「ふむ、それはちょうどいい。突っかかってくるバカが、どの程度のバカなのかを測る目安になるな。――ちなみに、真相を知ってるのって多いの? エドワード君が鵜呑みにしたってことは、少ない気がするけど」


「――やっぱ嫌いだわ、お前」


 どうやらエドワード君は、頭が良くても脳筋側の人間のようだ。

 荒事は政治的なアレコレで回避したい僕みたいな人間と相性が悪いのは、仕方ないね。


「僕は割と好きだよ。好戦的過ぎて思惑通り動いてくれないとこは苦手だけど、打てば響くところが。あと、舌の趣味も合う」


「料理に関しては認めるしかねえのは同じだよ。――噂の真偽を知ってんのは、学校内じゃ北部生ぐらいだよ。貴族なら、王都にいる当主クラスは当然。冒険者は、情報通に分類される奴だけだな」


「そっかそっか。じゃあ、知ってるのは頭が良いんだね」


 敵になるか味方になるかは分からないけど、頭が良い人は好き。

 限度はあるけど、僕でも分かる損得勘定で動いてくれるから。着地点が分かりやすいんだよね。反対に感情で動く人は苦手。徹底的に叩き潰して恐怖を刷り込む以外の解決方法を思いつかないから。

 僕は荒事が苦手なのです。


「あんたのやり方に口出すつもりはないが……敵が多いだろ」


「どうだろうね。思いつく限りだと、甥っ子のアイザックと、ブラヴェ伯の孫とは仲が悪いかな? あくまでも個人的な相性だけど」


「……それ、王室派と改革派の両方と揉めてるってことになるぞ」


「あはは、エドワード君は面白いことを言うね。派閥としてじゃなくて個人的な問題だよ」


「次代の有力者の仲って、将来のパワーバランスそのものだろうが」


 ふむふむ、なるほど。

 やっぱりエドワード君は頭が良い。ちゃんと政治的な感覚を持っているが、視点が少しばかり低いな。


「個人と派閥は別だし、ちゃんと手を打ってるから大丈夫だよ。甥っ子については、後ろ盾のフォスベリー辺境伯家とパイプを持ってるし。王室派はブラヴェ伯本人と繋がってるのと、うちが抜けたらパワーバランスが崩壊するから。あの連中がいくら騒ごうと大勢に影響はない。――まあ、僕のしたいことが遠のくなら考えるけど、あの子達には見抜けないよ」


 今のところ、見抜いてそうなのは学生はロズリーヌさんくらい。

 政治の中枢にいたり、派閥を率いるレベルの貴族なら見抜いてきそうだけど、そもそも関わってない。あと、僕は自分の目標をあんまり話してないし、表立っては美食の為って言い張って、美食関連でのみ実績を出してる。

 幻獣討伐は予想外の実績だけど、そこからは結び付かない。

 なんせ、どう繋げていいか僕にも分からないから。繋げ方を教えてくれる人がいたらぜひ教えて欲しいくらいだよ。


「――はっ、ガキのお遊戯扱いかよ。やってらんねえな」


「ちなみに教えておくけど、僕を一番追い込んだのはエドワード君だから。身内を抜きにするとって条件付きだけど」


「身内に追い込まれるってなんだよ。仲悪いのか、お家騒動か?」


「文字通り裸で山に放り込まれたり、幻獣討伐して来いって単身放り出されたり、手合わせしようと天使を屠る一撃を叩きこんでくる系。仲は悪くないし、それした本人が僕への権力譲渡を推し進めてる」


「………………そうか」


 エドワード君は、それしか言わなかった。

 僕も逆の立場なら絶句するしかない。ただ残念なことに、すべて事実です。悲しいことに、これをするのは僕の実の姉です。


「ま、暗い話はここまでにしよう。昼食会も次からがメインだしね」


「そうだな、今日は美味い物を食いに来たしな」


 露骨に話を切り替えたが、ちゃんと乗ってくれた。

 それに、ここからがメイン――本番という言葉に嘘はない。僕が数年かけた研究成果をとくと見よ。


エドワード君の言ってるスープは、オニオングラタンスープです。ロイヤルホストで出るやつ。熱々で食べると美味しい。

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