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0084

予約投稿が上手くいかなかった……ort

 さてさて、ハル兄上の魔の手から救った男子生徒に、優しく話しかけるとしよう。


「誰だか知りませんが、大丈夫ですか?」


「あ、ああ……」


「それは良かった。では、有り金全部出してもらいましょうか。手持ちの分だけで結構ですよ」


 手のひら型の後が残る男子生徒は「はっ?」と間抜け面をさらした。


「ですから、ハル兄上から助けてあげたでしょ。謝礼として、手持ちのお金全部出してくださいね。払えない額を払えって言わないあたり、実に良心的だと思いませんか?」


「……くっ、がめついヤツめ」


 おや、素直に財布を差し出してきた。

 中身を確認すると、僕の目から見ても少なくない額だ。着てるものの質も悪くないし、きっと貴族の出なんだろう。


「――っち、しけてんな。……まあいいや。これに懲りたら、ハル兄上に手を出さないことです。見た目優男ですが、エルピネクトの薫陶を受けてるので荒っぽいんですよ。触らぬ神になんとやらってやつです。――ではこれで」


「待て、勝手に終わらせるな!」


 っち、うやむやにする作戦は失敗か。


「なんでしょう? いただいたお金は、返却しませんよ」


「助かったのは事実で、渡したものを返せと言うほど恥知らずではない」


「では、なんです?」


 すっとぼけることにした。

 あと、シャレでカツアゲしたお金が自分のものになってビックリ。


「先ほどの言葉を撤回してもらおう」


「……ふむ、そうですね。確かに『しけてんな』は言い過ぎました。申し訳ありません」


「違う!」


 うん、知ってる。


「では、なんです?」


「タマナシと侮辱したことを取り消してもらおう」


「あー……なるほど、それでしたか……」


 伏し目がちになり、深刻そうな声を作る。


「それは申し訳ありません。まさか本当にタマナシの方がいるとは知らず……。でも、悲観しないでください。子どもを作るだけが人生ではないですし、養子を取るという選択肢もあります。だから、その……前向きに」


「お、俺はタマナシじゃない――っ!!」


 魂のこもった、見事な叫びだった。

 耳が痛くなるほどの大音量で、周りの野次馬にも当然のように届いている。きっと、明日は学校中で彼に関する噂が流れるだろう。


「でも、タマナシって言ったから怒ったんですよね? なら必然的に」


「自分の陰口を叩く者すべてがタマナシと言ったから出てきただけだ! 大声出して言うことではないが、俺も思うところはあるからな」


「いやいや、何を言ってるんです。面と向かって言えず、陰口しか言えない人たちがタマナシなだけです。あなたは直接言いに来たのでタマナシではないですよ。……まあ、リアルタマナシだったみたいなので、それを暴露してしまったのは申し訳ないと……」


「だから違う! あと、そんなのは詭弁に過ぎない!」


 ヤバい、この人からかうと面白い。ほとんど覚えてないけど、日本ではこんな感じで誰かをからかってたかも、と思うくらいしっくりくる。

 ただ、そろそろ真面目になろうか。


「詭弁と言われても、相手はチキン味の噂話です。そんなものを殴る理由にしたら、周囲はどう思いますかね?」


「噂が事実だから殴ったと思うだろうな」


「でしょう。だから、詭弁なんです。詭弁でなければいけないんです。――その点、あなたは対応は正しい。ハル兄上の邪魔が入ったとはいえ、ちゃんと言葉で戦っている。どこぞのバカ共よりもマシでマシで……ちょっと、泣きたくなってきました」


 なぜか鼻がツンとして、右手で目を覆う。

 前や下を向けば何かが零れ落ちそうなので、ちゃんと上を向く。

 本当……あの年上のバカ共も、このくらい聞き分けがよければ……。


「……お、おう……そんなつもりで、声をかけたわけじゃないが、ハンカチいるか?」


「大丈夫です。少しだけ、目頭が熱くなっただけで……」


 上を向いて、ため息を付く。

 よし、切り替え完了だ。


「ふう、失礼。さてどこまで――そう、詭弁についてですね」


「……そうだけど、なんか毒気抜かれて」


「何度でも言いますが、コケコッコーと鳴くしかない能がないチキンなんて、タマナシに決まってるじゃないですか。タマナシではないあなたも、そう思いますよね?」


「毒気は抜かれたけど、その考えは気に入らないな」


 気に入らない相手に睨むだけだなんて、やけに穏やかだな。

 マリアベル姉上なら、殺気とかぶつけてくるのに。


「気に入らないならどうします?」


「来月の武芸大会、出るんだろう?」


「出ませんよ」


「そうだよな。幻獣を討伐したお前が出ないわけ――っは? 出ない?」


「ええ、出ませんよ」


 ハル兄上に出るなって言われてるし、言われなくても出ない。

 まともに攻撃できない僕が、大会で勝てるわけないからね。


「どういうことだ! 幻獣討伐をしたお前が出ないなんて、許されるわけないだろう!?」


「許さないって、どうせタマナシ共でしょう? その理論もどうせ、幻獣を討伐した英雄なら優勝できるはずだとか、出ないのは幻獣を討伐してないからだとか、そんなの」


「当然の考えだと思うが?」


「どこがです」


 はっきり言うと、ガキの戯言にしか聞こえない。

 というか、戯言に付き合うメリットがまるでない。


「僕には、タマナシチキン共に実力を証明する義務なんてまるでありませんよ。学生として出場する義務も、当然ない。――ねえ、もう一度聞きますが、どこが当然なんです?」


 言葉にするとダメだね。

 実際に言われたわけでもないのに、イライラが募ってくる。


「義務はなくても、誰も信じないぞ」


「信じさせる必要なんてありませんしむしろ好都合。バカを相手にするのは大っ嫌いですが、敵がこっちを侮ってくれるなら大歓迎。敵にするなら賢いか、弱いのに限りますからね」


「――そうか、お前はそういう手合いか」


 首筋がチリチリと逆立った。

 普段なら回れ右するところだけど、イライラが手伝って口角が上がる。


「なんだ、良い顔出来るんじゃないですか。それで、僕がそういう手合いなら、どうするつもりなんです?」


「決まっている――決闘だ」


 白い手袋を投げつけられた。

 なんで持ってんだろう、こんなの。わざわざポケットに仕込むとか、おかしいだろ。


「決闘、ね。別にいいけど、割と身の程知らず?」


「フレッド・ド・ブラヴェとの試合は見た。防御は目を見張るものはあるが、俺の方が」


「この僕にお茶で決闘だなんて、身の程知らずとしか」


「――なんで、そうなんだよ!!」


 思わず耳と目を塞いだ。

 周囲の野次馬共も同じようにしてると言えば、その音量も分かるだろう。


「お茶で決闘とか阿呆か! 決闘は武の競い合いに決まってるだろうが!!」


「えー、そんなこと言われてもー。北部で決闘って言えばー、お茶の競い合いだし―。そうですよね、ハル兄上」


「そうだなー。怪我の危険がないからなー」


「……俺さ、これでも騎士に叙勲されてるんだよ。一代限りだけど」


「おや、それはすごい」


 一代限りの騎士爵って、実力がある人しか叙勲できないヤツじゃん。

 一応、お金出しても買えるけど、あれは資金という実力があることの証明。まあ彼は決闘と言い出したのだから、間違いなく武力で騎士になった口だろう。


「騎士になる前は冒険者をやって、騎士になってからは貴族との縁もそこそこある」


「ふむふむ、情報網は広く敷いているってことですね」


「そうだ。その上で言うが――北部にお茶で決闘する風習はない!!」


「……っち、バレたか」


 ハル兄上を巻き込めばいけると思ったんだけどなー。


「本気でバレないと思っていたなら、さすがに軽蔑するぞ」


「いやいや、ただ――魔剣を使っての決闘はマズいなーって、思っただけですよ」


 これでも穏便に済ませようと思ってたけど、仕方ない。

 本当の交渉を始めるとしよう。

そろそろ、この騎士様の名前を考えないといけないな。

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