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海兎さんから、レビューを頂いてしまいました。

どんな反応をしていいのか分からないので、前書きで失礼しますが――ありがとうございます! 期待に沿えるように、頑張っていきます!

 セドリックです。翌日になりましたが、身体がまだ痛いです。

 原因を一言で表現すると、マナ回路の筋肉痛だそうです。筋肉ではないので、筋肉痛という表現は適切ではないけれど、だいたい合ってるらしい。

 解毒のためにグロリアと幻獣をマナタンクにしたのが悪かったみたい。


(使わなきゃ死んでたから、必要経費みたいなもんだけど……痛い)


 昨日よりはマシだけど、動きたくない程度には痛い。

 けど、エルピネクトにいる以上、僕は働かなければいけません。食っちゃ寝のゴロゴロ生活を、あの姉上が許すわけないのですから。


「書類を全部片付けたけど……次は何?」


「仕官希望者の面接になります」


 やー、トリムがいると楽でいいね。

 メイドってよりは秘書って感じだけど、助かってるのでどうでもいいです。


「了解……希望者のデータはそこ置いて。……人事評価制度は、ここだったな」


 必要な書類を机に並べてから、仕官希望者の履歴を見る。

 どうやら、五人パーティーの冒険者みたいだ。


「冒険者の良し悪しなんて、僕には分かんないよ?」


「人事評価制度に則って決めろってことでしょう。そのための制度ですから。あと、この方々については若様が適任です」


「トリムが言うならそうなんだろうけど……《緑の風》なんて知らないな」


 第四位だから、中々の腕利きなんだろうけど。

 まあ、うちに入っても問題ない実力はあるし、待遇について書いた書類を作っとくか。


「若様、時間になりましたので呼んでまいります」


「よろしく」


 面接に必要な書類を手に、ソファーへと移動する。

 五人まとめての面接なので手狭だけど、別室に移動するのもね。


「――失礼いたします。面接の方をお連れしました」


 トリムに促され入ってきた五人に、なぜか既視感を覚えた。

 種族構成は、人間四人にエルフが一人。

 役割は、前衛にタンクとアタッカーの重戦士。中衛に斥候を兼ねた軽戦士。後衛として魔法使いと弓。バランスは良いパーティーだけど、第三位に上がるには、魔法使いを一人追加したいところだな。


「遠慮ぜずにそこに座って」


 座るときの所作は、冒険者にしては行儀が良いレベル。

 うちで働けるレベルになるには、かなりの努力が必要になるだろう。


「まずは、うちに仕官した理由から――」


「――面接の前に、伝えねばならないことがあるのだが、よいだろうか?」


「……いいよ」


 礼儀に欠けるけど、まあ、いいだろう。

 伝えねばって、って言ってくるくらいだし、きっと重要なことだろう。


「――セドリック・フォン・エルピネクト様。先日は、我々の命をお救いいただきありがとうございます」


 リーダーと思われるタンクの謝罪と同時に、五人全員が頭を下げた。


(命を救ったって、いつだ?)


 僕は基本的に、冒険者とは関わらない。

 王立学校には冒険者として実績を重ねた生徒がいるけど、授業で顔を見る程度。剣術の授業で手合わせすることはあるけど、それ以上の関わりはない。

 まして命を救ったことなんて、――いや待て。

 よくよく考えてみたら、このパーティー構成に見覚えがある。具体的には、マナ回路が筋肉痛になった原因、幻獣関連で。


「結果論でしかないけど、受け取ろう。――で、だ。それを僕に言うためにわざわざ? 別に仕官なんてしなくても、面談を入れることは出来たよ」


「いや、本心ではありますが、あくまでもケジメです」


「なら、なぜ?」


「――幻獣を相手に一歩も退かぬエルピネクト様であれば、と」


 ……あー、そういう手合ですか。

 自分より強いヤツじゃないと部下にならないっていう手合。

 父上が貴族になった後、この手合が山ほど仕官したって聞いたよ。雇った後に九割が辞めていったとも聞いてるけど。


(多分、宮仕えの意味、分かってないんだろうな……)


 ここは一つ、現実を知ってもらいますか。


「面倒なやり取りは嫌いだから、単刀直入に行こう。――この雇用条件に納得するなら、雇ってもいい」


 事前に作った資料を、五人に配る。

 資料には雇用後の所属や給与、昇進した場合の待遇が書かれている。


「……こ、これは……?」


「質問があればどうぞご自由に。将来に関わることだから遠慮なく」


 予想通り困惑しているので、助け舟を出すことにした。

 五人は互いに顔を合わせ、意を決したのかリーダーらしきタンクが口を開く。


「所属が全員違うように見えるのですが、間違いではないでしょうか……?」


「間違っていないよ。それが正式な雇用条件だ」


「――我々はっ! ……我々は、五人で一つのパーティーです」


 感情を抑え込んだか。

 抑える時に抑えられる点は評価するけど、動揺しないように最初から答えは予想しておくべきだろう。


「第四位冒険者としての実力は、パーティーでなければ発揮されません」


「つまり、雇った後に五人一組で運用しろ、と?」


「そうでなければ、エルピネクト家で雇っていただく意味がありません!」


 ため息を付きたいところだけど、我慢。

 今、僕は面接官としてここにいるし、彼らは貴族に仕官するという意味を知らないだけなのだ。彼らはただ、冒険者としての常識で意見しているだけ。

 僕がすべきなのは、優しく諭すだけだ。


「先に言っておく。僕を含めたエルピネクト家は、君たちのことを侮ってもいないし、冒険者のことを蔑んでもいない」


 こう前置きをしておかないと、絶対に誤解されることを言う。

 言わなければ、先に進まないから。


「――でも、冒険者としての君たちを、エルピネクト家は求めていない。五人一組でなければ運用できないような、程度の低い人材ならばいらない。――そして、この条件を受け入れられない者もいらない。気に食わないなら帰って構わない」


 暴言にも近い僕の発言に、彼らは呆然となる。

 そしてすぐに意味を理解して、リーダーは顔を真っ赤にしながら奥歯を噛み締めた。


「……第四位冒険者が、程度が低いですか……?」


「やっぱり勘違いしたね。君たちは冒険者として動くなら、とても優秀な人材だ。ギルドが定めた位階はもちろんのこと、あの熊の幻獣と戦って五体満足で生き延びていることからも分かる」


「なら――」


「でも、エルピネクト家が求めているのは冒険者ではない」


 勘違いする人は多いが、冒険者として雇うことと、仕官した冒険者を雇うことは別だ。


「君たちなら、騎士団や衛兵の役割と、冒険者の役割が違うことは理解していると思う」


「……ああ、彼らを簡単に動かせないことは、理解している」


「なら分かるだろう? エルピネクト家に仕えるということは、冒険者としての役割を捨てるということだ。雇われたのなら、我々の求める役割に順応する義務が君たちに生じる。その時に、五人一組でなければ実力が出せません、と言ってくる人材が欲しいと思うか?」


 努めて事務的に、感情を排して話すことを意識する。

 少しでも感情を見せようものなら、彼らはその隙きを突いてくるだろうから。


「……なら、給与が全員違うのは?」


「仕事内容によって給与が違うのは当然だ」


「…………配属先で、一番下というのは?」


「領主、または領主代行が許可しない限り、必ず一番下からのスタートとなる。昇進の条件は明文化してあるから、雇用後に見るといい」


 ちなみに、この回答はカンペを見ながらだ。

 面接時によくされる質問と回答集、というカンペ。エルピネクト家の集大成と言えるかも知れないね。


「――第四位冒険者を、バカにしているのですか!?」


「バカにしていないし、侮ってもいないし、蔑んでもいないよ。――ただ、エルピネクトに仕官するとはこういうことだと、分かってほしいだけだ」


 斥候兼軽戦士以外の四人が、得物を抜きそうな顔してる。

 ちょっと怖いけど、退くわけにはいかない。


「いいえ! 自らが倒した幻獣さえ倒せなかった我々のことを――!!」


「……あまり、僕を失望させないでくれよ」


 おっと、あまりのウザさに感情が出てしまった。

 これだから、力こそ全てみたいな暴力的な人は嫌いなんだよ。


「僕はね、命を懸けて戦う人のことを、すごいって思ってるんだ。あの日はたまたま、僕が剣を取って戦ってたけど、怖くて怖くて仕方なかったよ。しばらくは剣にも触れたくないとも思ってる。けど君たちは、そんな怖いことを仕事にしている。僕には出来ない仕事のプロである君たちのことを、どうして蔑まなければいけないんだ?」


 本心である。

 冒険者って人種とは、根本的な部分で気が合わないだろうけど、本心からすごいって思ってる。


「……なら、なぜ?」


「君たちがうちに仕官して来たからだ」


 自由が欲しいなら、冒険者を続ければいいだけの話。

 うちに仕えたいというなら、うちに合わせろというだけの話。

 そして僕個人としては、彼らを雇ってもいいし雇わなくてもいい。つまりどっちでもいいのだ。


「ハッキリ言っておく。この条件を受け入れられない人間は、どの道長くは続かない。互いに不幸になるだけだから、条件を緩和することは絶対にない」


 冒険者は自由だ。

 冒険者だと宣言すれば、冒険者になれるくらい自由だ。

 その代わりに、冒険者という職業は身分を保証してくれない。彼らが社会的信用を得るには、冒険者ギルドに所属するしかない。それ以上の信用を得るには、自らの才覚でのし上がるしかない。

 だから、冒険者は侮られるのを恐れる。


「……お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」


 彼らにとっても僕にとっても、長い時間葛藤して、答えを出した。

 僕はカラカラになったノドを唾で潤しながら、彼らが退出するのを待つ。


「――? どうした、帰るぞ?」


 だが、斥候役の軽戦士は、席を立とうとしなかった。


「悪いな、皆。俺はこの条件を飲む」


 彼が言ったことを理解するのに、少し時間がかかった。

 正直に言うと、この展開は予想外だ。全員了承するか、しないかの、どっちかだと思ってたから。


「本気、なのか――?」


「ああ、本気さ。――エルピネクト様。俺一人だけ雇っていただくことは、可能ですか?」


「条件を飲めるなら何人でも。一人だろうと全員だろうと、構わない」


 もう一度言おう、冒険者は自由だ。

 パーティーを脱退することも自由だし、冒険者を辞めることも自由だ。

 残りの四人はそれ以上何も言わずに、部屋を出ていった。


「――じゃあ、雇用についての詳しい話をしようか」


 側に置いてあるベルを鳴らして、トリムを呼ぶ。

 唾じゃ追いつけないほど、ノドが乾いてしまったからね。

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