0042
祝、ユニークPV3,000突破。
連載が続けられるのは読んでくださる皆さんのおかげです。これからも、ゲーム(スカイリム)の誘惑にも負けずに書かせてもらいます(笑)。
10分防御し続けるというのは、いささか疲れる。
無傷というか、1撃も食らってはいないんだけど、精神的にフラフラになってる。
こんなメンタルじゃ、伯爵の孫に絶対に負ける。
「疲れた……膝、貸して」
「……オイ、戻ってきていきなり何だ?」
カーチェの隣に座ってすぐ、コテンと身体を倒す。
ほどよく鍛えられた膝に頭を乗せると、ものすごく眠くなってくる。
「疲れた……」
「最後以外に反撃しなかったからだろう。なんで反撃しなかったんだよ、出来ないわけじゃないだろう?」
「普通に強かった……アンリやカーチェほどじゃないけど、下手に動いたら詰む……」
反撃って言っても、普通じゃないよ。
体当たりとか足踏んだりとか、スマートじゃないやつ。
剣を振るよりは重心を制御しやすいし、……身長の割に、重めの、体重を有効に使えるから。
「確かに。魔法なしであれだけ動けるんなら、良い師匠につけば相当になるな。魔法をありなら、あたいも危ないかも」
フレデリカさんってハイスペックなんだよな。
第三王子とかアレとかが関わってる真実の愛騒動では、彼女を嫁にしようとしてるけど、正直理解できない。
フレデリカさんは雇った方が光る人だ。
まともに雇えない小貴族なら、嫁にして取り込むしかないだろうけど、連中は王族と大貴族だよ。普通に雇えるだろう。婚約破棄なんてする必要ないだろうが。
「――エルピネクト、どういうつもりだ!」
わー、バカがきたー。
あのブラヴェ伯爵の孫なのにバカっていう、マジ物のバカがきたー。
「……ねえ、カーチェ。知らない人から呼び捨てにされたんだけど、あれ誰?」
「さあ、見覚えないな? 校章から、武官科3年ってことは分かるけど」
とりあえず、とぼけて煽っておこう。
このバカの性格からすると、煽れば煽るだけ冷静さを失うから。
「――フレッド・ド・ブラヴェだ! いい加減覚えろ! というか、起きろ!」
ほーら、冷静さを失って怒鳴った。
けれども、コレが冷静だった時を見たことないんだよな。顔合わせる前から煽ってたからもしれないけど、もっと落ち着いた方が良いと思う。
「やだなー、こうやってカーチェの膝の感触と匂いを堪能してるのは、……えっと、パン君のためなんだよ」
「パンじゃなくてフレッドだ! もじるならせめてブレッドにしろ! そして、人目を気にせずにイチャついているのがなぜ俺のためなのだ!」
君付けなのにはツッコまない。
情報量が多かったから、処理しきれなかったのかな?
「だって、この後はパン君との試合でしょ? 割と疲労困憊だから、少しでも回復しておかないと、瞬殺されちゃいそうで。騎士を目指すパン君が、疲れた相手を瞬殺したい、なんていうわけないでしょ。だからこうやって回復しているんだよ」
もちろん、9割方嘘。
回復してるのは本当だけど、コレのためじゃない。あくまでも自分のため。勝った後にまっている海産物パーティーのためだ!
「俺にはろくに剣も触れない素人をいたぶる趣味はないが、良い心がけだな。お前も騎士道精神の欠片程度は持っているようだが、それをなぜフレデリカに向けなかった!!」
にゃ?
フレデリカさんに騎士道精神を向ける?
どゆこと?
「カーチェ、僕は騎士道精神なんて欠片も持ってないから分からないんだけど、僕は試合で何か失礼なことをしていた?」
「あたいも騎士道精神には興味なんてまったくないから分からねえけど、戦士としても紳士としても失礼なんてなかったぞ」
「だよね。パン君、もしかして目が悪い? それともボケた?」
「目が悪いのはお前たちだ! 可憐なフレデリカに剣を向けて、あまつさえ胸を叩くなど、騎士以前に人として正気を疑う所業だぞ!」
……どうしよう。
僕だけじゃなくて、カーチェも呆れてる。
ハッキリ言って、僕はフレデリカさんに一方的に攻撃されてたよ。剣を向けたって言ってるけど、中間考査の試験だよ。隙があったら攻撃するに決まってるじゃん。フレデリカさんだって、隙を作るために会話してたくらいだよ。
っていうか、最後に本音が出てるぞ。
木剣越しで胸タッチしたことが気に入らないだけだろう。もうちょっと言うと、僕が勝ったことが気に食わないんだろう。
お前のどこに騎士道精神があるんだよ。
「――フレッド様、セドリック様の前で痴態を晒さないでください。ブラヴェ伯爵家の品位が下がります」
おや、的確かつ辛辣な評価がどこからか。
カーチェの膝に頭を乗せたまま視線を動かすと、釣り目が勝気な印象を与える女性がいた。
なんだろうこの釣り目。どこかで見た気がする。
「セリーヌ、……痴態だとか品位だとか、婚約者に対する物言いではないだろう……」
「やめて欲しければそれなりの言動をしてください」
婚約者とセリーヌ、この2つの単語を聞いて、釣り目に見覚えがある理由が分かった。
「もしかして、ティエール子爵の娘さん?」
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。ティエール子爵の長女、セリーヌと申します。――セドリック様に意味不明なことをほざいているフレッド様とは、婚約者です」
「パン君が婚約者だなんて、気苦労が絶えないだろうね。辛いことがあったり、我慢できないことがあったら、僕に言いなよ。ブラヴェ伯爵にそれとなく言っておくから」
「お心遣い感謝いたします」
貴族令嬢としては、ごくごく普通の礼儀作法だ。
本当に平均的で、ちゃんとしたカーチェと同じくらいなんだけど、伯爵の孫がヒドすぎてすっごくまともに見える。
「その物言いはなんだセリーヌ! お前は婚約者よりもエルピネクトを取るというのか!?」
「当り前じゃないですか」
躊躇が一切ない即答に、パン君……いや、可哀想だから戻そう。フレッド君が傷付いたような顔をする。
どんな状況でも自分の味方をしてくれると思ってたのか?
「フレッド様は分かってないようですからハッキリ言います。いいですか、婚約者とはあくまでも予定なのですよ。実家の情勢次第では破棄されるくらい細い関係です。対してセドリック様とは寄子寄親という重いものです」
婚約破棄の可能性って、普通ならすっごい低い。
でもフレッド君は、真実の愛騒動の関係者。破棄される可能性が普通よりも高いから、シャレになってない。
「さらにティエール家は、エルピネクト家に多額の借金があります。セドリック様がその気になれば、我が家は爵位を手放さなければならないほどの額です。爵位を失ってしまえば、婚約は正式に破棄されるでしょう。――ここまで言ってなお、セドリック様よりもフレッド様を優先しろと、そう言えますか?」
言葉に詰まる姿を見れば、答えなんて必要ないな。
それでも僕を睨んでくるんだから、やっぱりバカだな。
「……だが、セドリックが騎士道精神に反する」
「反するも何も、試合で手を抜く方が問題ですし、セドリック様は反撃もせずに攻撃を受けていただけです。あの状況で勝機を見出したセドリック様を讃えることこそ、本物の騎士道精神だと思いますが?」
歯をギリギリと噛み締めながら、目を血走らせている。
これ、試合になったら僕を事故死に見せかせて殺そうとするんじゃないだろうか?
「あの……セリーヌさん、もうちょっと加減を……」
「――お取込み中のことろ申し訳ありません。エルピネクト様、今、よろしいでしょうか?」
誰かは知らないけど、助かったとばかりに目を輝かせる僕。
「もちろん、大丈夫……だ、よ」
輝かせた目が、そのまま凍り付いた。
他の面子の顔は、怖くて見ることができない。
「……えっと、何の用ですか……フレデリカさん」
だって特大の爆弾が、むこうからやってきたんだもの。