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 魔剣とは、魔法の力を宿した武器の総称だ。


 なので、弓だろうが槍だろうがメリケンサックだろうが、魔法が宿っていれば魔剣と呼ばれる。魔剣の始まりについては創世神話にまで遡るので割愛するが、この世界で魔剣を持つことはステータスにあたる。

 時間と材料があれば作れる量産型の魔剣でも、所持することを夢見る戦士は多い。この世に2本とない強力な力を有する魔剣なら王権と直結することも珍しくなく、僕が所属するアズライト王国も魔剣を王権の象徴としている。


 という前提を踏まえて、話題になっている魔剣グロリアについて話をすると、ぶっちゃけアズライト王国の象徴である魔剣よりも格上だ。なんで辺境の子爵がそんな魔剣を所有しているかと言えば、今から36年ほど前に父上が古代の遺跡から発掘したのだ。

 当時の父上は貴族ではなく農園の地主で、道楽で冒険者をしていた。なんだその盛りに盛った設定は、と最初に聞いて思ったが事実だからしょうがない。その冒険者業をする中で未発掘の古代遺跡を発見し、冒険者やら商人やら職人やらが集まり、現在のエルピネクト領の領都グロリアスパピヨンの原型となった。

 この発展の功績から男爵を叙勲し、その後に武功的な功績を上げて子爵に格上げされたという、叩き上げの貴族が父上だ。

 あと余談だけど、男爵の叙勲と一緒に王家から嫁いできたのが母上で、冒険者仲間だった4人が側室になっている。


「ああ、やはり素晴らしい魔剣だ。遠目で見た時は真珠のような光沢ばかりが目立つが、至近ではむしろ剣身に施された精緻な装飾にこそ注目すべきだ。幾何学と植物柄を組み合わせは安直のようだが、真珠に似た光沢を前提としたもので、輝きがより際立っている。普通ならば美術品として珍重されるところだが、グロリアの素晴らしさは、武器としての本質を一切損なっていないところにある。形状は柄の長いロングソードなので片手両手どちらでも使え、魔法を斬り裂く魔法、斬撃を飛ばす魔法の2つがあると聞いているが、どちらの魔法もシンプルながら強力。最大出力ならば神をも殺す、というのが事実ならば、さまに王国最強の一振りに違いないな」


 さ、現実逃避もここまでにしよう。

 魔剣オタクのアンリに、グロリアなんて見せたらこうなることが分かっていた。でも見せなかったら見せなかったで機嫌が悪くなって、道中の快適度がだだ下がりになる。だから見せないなんて選択肢は存在しないんだよね。


「そろそろ仕舞ってもいいかな?」


「も、もう仕舞ってしまうのか?」


「値段を付けられないものを出しっぱなしにする度胸はないんだよ」


「――な、なら最後に、――魔法を斬ってくれないか!? それで満足するから!」


 往生際が悪い上に、なんてことを言うんだ。

 魔法を斬れってことは、僕に向かって魔法を撃てって言っているのと同義だ。そしてこの場にいる4人の中で魔法が使えるのは、ネリーだけ。

 つまり仲間に対して、僕を攻撃しろと言っているのと同じ。

 でも、斬らないと納得しないんだろうな……はあ。


「……分かったよやるよ。その代わり、緊急事態とかでもない限り出さないからね。――ネリー、エネルギー系で一番弱いの撃って。出来れば遅い感じで」


「やれって言うならやるけど〜、いいの、若様? 当たったらすっごく痛いよ?」


「だから遅い感じで。もちろん、一番威力の低いやつで。あとエネルギー系じゃないと斬れないからね」


「注文が多いな〜、でも了解です」


 ビシッと敬礼をして、腰のショートソードを抜く。

 その際、身長148センチにしては大きな胸がたゆん、と揺れて目が奪われる。その後、慌てて魔剣を中段に構える。ただ斬るだけなら上段でもいいんだけど、コントロールが甘くなるので中段。


「《天道の門を開き、我は導く。光明の糸を束ね編みし光矢、つがえて引きし弓弦よ》」


 ネリーが使う魔法は、魔術と呼ばれる技術。

 特殊な加工をした物質――発動体と、呪文によってマナを変換する技術で、今から7000年〜6000年前に存在した古代文明に確立したとされる。

 また発動体もただ持っているだけでは意味がなく、呪文を唱えながら空中に文字を書く必要がある。

 僕も魔術が使えるように練習はしたんだけど、呪文を唱えながら文字を書くことがどうしても出来なくて諦めた。あと身体の適正的に、魔法を使う才能がなかったな。……まあ、過ぎた話だ。


「《――指を離して解き放つ》」


 ショートソードの先端に浮いていた光の矢が、僕目掛けて放たれた。

 速度は通常の半分ほどだが、当たれば転げ回ってしまうほど痛いだろうから、怖くて身体がすくむ。

 でも斬れなかったら、何度も同じことをするはめになろうだろうから覚悟を決めよう。


「――やあっ!」


 必要なのはイメージ。

 魔法は色のついた水で、グロリアが触れると同時に透明に変色させ、透明の部分をグロリアに吸収させる。

 その気になれば丸々吸収できるけど、今回のオーダーは魔法を斬ること。なので刃の周囲の水を吸収して、それ以外の水には手を加えない。こうすることで、魔法は真っ二つに裂けて飛び、魔法を斬ったように見える。

 そう、魔剣グロリアは魔法を斬る剣ではない。魔法をマナに変換して吸収して蓄える魔剣なのだ。

 蓄えたマナは衝撃波という名前の運動エネルギーに変換することで斬撃を飛ばしたように見える。このマナの変換と吸収、貯蓄が魔剣グロリアに付与された魔法。神を殺すというのは、神を殺せるだけのマナを蓄えることが出来るってことだろうな。

 今は、ほぼ空っぽだけど。


「おお〜、本当に斬れるんだ。ビックリ」


「ふむ、これは確かに強力ですね。盾で防いだりするのとは違い、すぐに次の攻撃に移ることが出来ます。どこまで斬れるかは分かりませんが、これに加えて斬撃も飛ばせるとなると王国最強の魔剣と言われるだけのことはありますね」


「グロリアも凄いが、若様も凄いぞ! 当主様のブレイブが剣の達人以外に満足に使えないのと同じくらい、グロリアは扱うのが難しい魔剣なんだ! 勇蝶騎士団の中でも魔法を斬れた方は片手ほどもいないし、マナ保有量が低い関係で長時間使用することが出来なかったと聞く。1回斬っただけでもヒドく消耗する場合もあるというのに、若様はピンピンしている――」


 勇蝶騎士団は、ブレイブパピヨン騎士団のことだ。

 正式名称がダサい……もとい長いから、勇蝶騎士団と短く呼ぶ。あと、魔法を斬って消耗するのは、刃に衝撃波を纏わせて文字通り斬ってるから。魔法をマナに変換するのは魔剣の基本機能だから使用者のマナを使わないんだけど、マナを衝撃波に変換するのは別。

 グロリアにマナが無い状態だと、自分のマナを使うしかない。この効率が非常に悪い。

 でも魔法をマナに変換することを前提に考えれば、この効率の悪さは無視できる。なにせほとんど永久機関みたいなものだ。父上はマナの吸収ができない人が多いって言ってたことが事実なら、僕にグロリアを使う適性があるのかもしれない。

 ……実戦で魔法を斬るだけの腕がないから、宝の持ち腐れだけど。


「はいはい、三人とも。ここまでにして出発しようね。先は長いんだから」


 この後は、特筆すべきことは起こらずに王都に到着した。

 移動中は車酔いで地獄を見て、休憩中はなぜか剣術の特訓という名目でグロリアを使用することはあったけど、特筆すべきことではないな。

 特訓も地獄だったけど、裸で山に放り出されるよりはマシだったから、割愛しよう。うん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がこの先どう動いていくかなど今後の展開が楽しみです。ブックマークに登録させていただきました。今後とも執筆頑張って下さいませ。
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