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 エルピネクト子爵領は、はっきり言って辺境だ。

 道の整備に力を入れているので王都までの2週間は馬車で移動することができるけど、デコボコがヒドい。王都付近の道は、ほとんど揺れないらしいのに……僕が領主になったら、絶対に整備してやる。


「……ぎぼぢ……ばるい…………」


 お昼時。

 馬車を広い場所に停めてところで、僕は車酔いでダウンしていた。


「……いぎるのが、づらい」


「若様は軟弱ですね〜、男の子なのに」


 王都までの旅路は、当然のようにお付きがいる。

 貴族だからというよりは、旅を少しでも安全かつ快適にするためのもの。冒険者という職業が成立し、多種多様なモンスターが存在する世界で一人旅なんて、行商人くらいしかやらない。その行商人だって、採算が合えば複数人で行動するのだ。

 地位も金もある貴族の息子なら、腕の立つ護衛がいるのが普通。

 ただ、


「でも辛そうな若様を見るのは不憫なので、メイドの膝枕で癒やしてあげましょう〜」


 同行者3人がメイド服着用というのは、どうかと思う。

 下手な鎧よりも防御力に優れた戦闘用メイド服とはいえ、メイド服で旅をするのはどうかと思う!

 膝枕は柔らかくていい匂いがするので文句はないけど、戦闘用メイド服は膝枕にはちょっと肌触りが悪いからどうかと思うんだよ!


「ネリー、若様を甘やかすのはいいけど、火くらい着けてくださいね」


「分かってるよ〜、トリム。快適な旅を提供することが、メイド兼魔術師であるあたしの役目なんだから〜」


 僕に膝枕をするメイドの名前はネリー。

 腰まで届く髪をツインテールに結んだメイドで、腰には魔術師の証である杖――ではなくショートソード。杖の役割も担う武器なので、杖と言ってもいいかもしれない。


「いや、メインの役目は若様の護衛よ。そこは忘れないでね」


 そんな彼女を嗜めるのは、ライフル銃を背負ったポニーテールのメイド、トリム。

 百発百中の銃の名手……ではなく、命中率は30%ほどの射手。ただこれは、100メートル先のウサギを狙った場合の命中率。トリムが得意な距離は30メートルほどで、腰に下げた2丁拳銃を巧みに使う。あと技師としての知識と技術もあるので、馬車と馬の点検も担当している。


「でも、危険なことなんてここまで起こってないし。辺境だから盗賊とか混沌種とかが出ないかなって期待してたんだけどな~」


「……す、な」


 護衛がそんなことを期待するな。危険手当は通常のお給料に含まれているから、増額なんてないんだからね。


「あのね、辺境は危険地帯の同義語じゃないのよ。王都と逆方向は確かに危険地帯だけど、王都方面は定期的に掃除しているの。特に今は若様が通るってことで念入りにした後よ。危険がある方が問題よ」


「むむ〜、せっかく若様にいいとこを見せようと思ってたのに、残念」


 ネリーの頭の中は強い=カッコいい、という方程式でも成り立っているのだろうか?

 個人的には強い=怖いなんだけど、これは前世の価値観が僕の根底にあるからなんだろうな。冒険者というものがもてはやされるような世界の価値観は、基本的にネリーと同じ。うちのメイド達も、戦闘メイドに給料以上の憧れを持っている。

 そう、優秀なんだよ、この子達。


「トリム、ネリーの説教をするのもいいが、竈の準備も進めてくれ。食材の準備は終わってるんだ」


「あ、ごめんなさい、アンリ。すぐに作ります」


「ネリーも、戦いたいなんて言わないことだ。護衛うんぬん以前に、若様は暴力的なことが苦手だ。度が過ぎるようだと、本当に嫌われるぞ」


「うっ……わ……わかってるよ〜。若様、ごめんなさい」


 その優秀な子達をまとめるのは、長い髪をシニヨンでまとめたメイド、アンリ。

 僕を含めたこのメンバーの中で一番背が高く(僕の身長は159センチ)、腰に二振りの剣を差している。


「いいよ、いつものことだし……それに、車酔いするような頼りない若様だし……」


 普通のメイドと若様であれば、ここまで気安くはならない。

 僕らの間柄が気安いのは、メイドと若様の前に、幼馴染という関係性があるからだ。

 ただ……うん、この中で唯一の男の子ではあるけれど、一番弱いのが僕なんだよね。貴族に物理的な強さはいらないんだけど、男の子としてはなさけないよな。


「今の若様は、メイドハーレムを作って屋外でイチャイチャするという男気にあふれているからな。とても頼りないとは言えないな」


「確かに、普通の男の子にできない所業ですね。ある意味、貴族らしいとも言えます」


「当主様の直系だよ〜? ハ〜レムを作る器量はあってもおかしくないね〜」


 ヒドい、あまりにもヒドい幼馴染達だ。

 女遊び一つしたことがないチキンな僕に対して、なんでそこまで辛辣なことを言えるのだろうか?

 そもそも、僕は美形ではない。人間の成人男性の平均身長が170センチほどの世界において、159センチのチビ。まだ15歳だから伸びるかもしれないけど、……父上も背が低いから望みは薄い。あと、体型も父上似なので、気を抜くとすぐに太る。

 今は頑張って体型を細めに保っているけど、それでも小太りと言われるレベル。

 こんなんで、ハーレム作れるほどモテるわけないだろうに。


「さて、二人とも。そろそろ真面目にご飯にしよう。後は煮込むだけだからな」


 僕が密かに傷ついていることに気付かないのか、気にしてないのかは分からないけど、お昼ご飯の準備は進む。アンリが煮込むだけと言っただけあって、あっという間にお昼ご飯は完成した。

 味は……外で食べるにしては上等な部類、と言っておこう。


「はあ、一息ついた」


 けど、ご飯を食べると色々と回復する。

 地獄にいるような感じだった車酔いからも開放され、ほっとする。


「若様って、軟弱だけどタフだよね〜。ご飯食べたらすぐに元気になるし」


「マリアベル様に山に放り込まれたこともありましたから、そのときに身に着けた特技かもしれませんね」


「どんな経緯であれ、旅をするには必須の技能だろう。まだ3日目だから、ここでヘバッていては王都まで持たないから私達としては文句はない。――ところで若様」


 ずずいっ、と。

 豊かな胸を見せつけるように身を乗り出す。


「当主様から受け継いだ、魔剣グロリアを見せてはもらえないだろうか?」

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